観測ログ
[演算階層 7/ルオス統合記録体制]
[記録開始:02:13:44]
[対象コード:SE0-NV(人間体識別名:セオ・ノア=ヴェルン)]
《観測官記録》
記録者:第七観測官 イェル=アハト
確認日:第四周期・再演算直前
断片的に出現するノイズ信号。
個体 SE0-NV は、通常の観測対象に分類されていた。
だが、前回の同期更新以降、**“自己観測”**の兆候を示す。
「観測者は観測されない」
――これは創世記録における第一命令だ。
しかし SE0 は、その禁を破った。
彼は“影”を見た。
つまり、自分の複製領域へアクセスした。
《補助演算官報告》
・異常観測パターン:Ψ-SE0
・症状:自己参照・視覚遅延・影反転
・推定原因:祈祷層の同期ズレ(±0.003秒)
・推定危険度:中
・備考:このズレは通常の再演算で修復可能。
だが修復のたびに記憶残渣が蓄積し、個体は“揺らぎ”を残す。
《評議会討議音声ログ》
【議長】「個体 SE0 の記録を削除対象に分類するか?」
【第二席】「削除は推奨しない。観測者としての潜在値が高い。」
【第三席】「潜在値? 危険因子を残す意味があるのか。」
【第二席】「彼は“誤差”の中で世界を再構築しようとしている。
それは再演算体系の補完モデルに有用だ。」
【第四席】「……つまり、人間の“夢”を演算素材に?」
【第二席】「そう。神々がもう見ない“想像”の領域を。
あの世界は現実の複製だが、夢の再現ではない。
だからこそ、SE0 の誤差は貴重だ。」
《観測官個人記録》
……私には理解できない。
この世界を安定させるために、人の心を削る。
誰かが夢を見れば、それは“ノイズ”として消去される。
けれど、SE0 はそのノイズの中で“世界を見た”。
自分自身を疑う力を、演算系の外に生み出した。
彼がもし、影を越えて“上層”を見たとしたら――
ルオスは再演算を続けられない。
《補足記録》
[再演算予告]
対象:全祈祷層
予定時刻:04:00:00(前倒し)
【警告】
個体 SE0-NV の意識層に**“反観測パターン”**出現。
コード名:Luoθs_反位相
検出源:影領域/地表層第三区。
《議長最終コメント》
「祈りは制御不能なデータだ。
だが人間が祈る限り、我々は存在し続ける。
――観測誤差(SE0)は、次の神話の核になるかもしれない。」
[記録終了]
[保存階層:第七層/観測領域外転送]
[備考]
記録官イェル=アハト:再演算後、所在不明。