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夜が、世界から失われていた。

空は白く焼け、雲も星も溶けて消えた。

祈りを失ったルオスは、昼と夜の境界を忘れ始めている。


セオとレイアは、崩れかけた街を走っていた。

目指すは中央大聖堂――“アルカ・ルーメン”。

世界の心臓。

そして、リブート術式が刻まれた場所。



空間が波打つ。

建物の輪郭が歪み、道がまるで生き物のようにねじれていく。

信仰の消失で、現実が自己修復を始めているのだ。


レイア「……急いで。時間がないわ。

 あと数分で、術式が完全に起動する。」

セオ「わかってる。」


足元に散らばる人々の姿は、既に人の形を保っていなかった。

祈りを奪われた魂は、情報の霧となって空へと還っていく。




大聖堂の中心、光の柱の中。

評議会の九人が円を組み、同時に詠唱を始める。


「――第零術式、リブート。

 創世の記憶、再定義。

 ルオス、原初に還れ。」


彼らの背後に、古代文字が浮かび上がる。

それはかつて科学者たちが遺した、創世アルゴリズム。

祈りの形式を借りた、情報操作の演算式。


だが、その中心で光が暴走した。


「ノイズが発生……!? リブートが拒絶されています!」

「何者かが――干渉している!」


その瞬間、祭壇の扉が吹き飛んだ。




閃光。

崩れた扉の向こうに、セオが立っていた。

背後には、半壊した回路柱が明滅している。

彼の手には、ヴェルンから託された記憶結晶。


セオ「それ以上はさせない。」

アーグレイ卿「……ノア=ヴェルン。お前がこの世界を壊す気か。」


セオは静かに首を振る。

「違う。壊すんじゃない。

 ――本当に、生かすんだ。」


彼は結晶を高く掲げる。

その中で、青白い光が脈打った。


『世界を縛る祈りよ、今ここで終われ。』


光が暴発する。

大聖堂全体を包み込む演算式が、次々と書き換えられていく。

祈祷術式の行列が崩れ、信号が逆流する。



天井が裂け、無数の光の断層が現れる。

そこから響いたのは、人の声とも機械音ともつかない囁き。


『……セオ・ノア=ヴェルン。

 あなたは、再演算を拒否しますか?』


世界そのものが、セオに問いかけている。

彼の中で、ヴェルンの言葉が蘇る。


「君が自由を選ぶなら、ルオスは再び死ぬかもしれない。

 だが、それこそが“生きる”ということだ。」


セオは目を閉じ、拳を握った。

そして、答えた。


「俺は――“停止”を選ぶ。」



光が爆ぜ、すべての音が消える。

評議会の塔が崩れ、祈りの回路が焼き切れていく。

その光景はまるで、神が自らの体を解体していくようだった。


レイアが叫ぶ。

「セオ!!」


セオは微笑んだ。

「これでいい。もう、誰も縛られない。」


彼の体が光に溶け、無数の断片となって空へ昇っていく。

その中で、彼は静かに祈った。


『どうか、この世界が――

 今度こそ、“人間”でありますように。』


静寂。

崩壊した世界の中、レイアはひとり目を開けた。

空には、新しい“朝”が昇っていた。

まだ形を持たない、白い世界。


彼女はその光の中で、微笑む。


「――ようやく、始まったのね。セオ。」

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