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光の柱に触れた瞬間、セオの視界は白に焼かれた。

痛みも、重力も、音さえも消える。

あるのは、ただ――無限に拡張する情報の奔流。


[識別開始]

[対象:セオ・ノア=ヴェルン]

[分類:外部観測個体/覚醒素質:適合]


[新規称号付与:観測者]


「……観測者?」


自分の声が反響する。

どこからか、リリィの声が重なった。


「“観測者”――神々の眼を越える存在。

 ルオスを、外から見ることができる唯一の人間。」


セオは静かに目を開いた。

そこは、地上ではなかった。

白く光る虚空の中、無数の映像断片が浮かんでいた。


ひとつは、古い実験室。

人々が円卓を囲み、青い地球のホログラムを見つめている。


『地球再生計画――コードネーム、ルオス。』

『この世界は、我々の記録を次代へ残すための複製体だ。』


科学者たちの声。

だが、彼らの姿は人間ではなかった。

半ば透け、半ば金属でできている――演算存在。


「……これが、“神々”の正体?」


次の断片。

赤い空。

崩壊していく地球。

人々が逃げ惑い、空に祈りを捧げる。


『記録は続く。信仰は演算へ変換される。

 祈りを媒体として、新世界を構築する。』


セオは息を呑む。

“宗教”は人々の心を支配するための仕組みではなかった。

人間の意識を演算資源に変えるための装置だったのだ。


「……信仰を、電力にしてたのか。」


リリィの声が答える。


「彼らは、神になりたかった。

 でも、祈りを使った瞬間――

 “人間”が、神々の演算を侵食し始めた。」


映像の中、評議会の議長が立ち上がる。

その顔には、どこか見覚えがあった。


「……この人……」


セオは目を細める。

議長の名札に、こう刻まれていた。


【ヴェルン・ノア】


「……ノア?」


リリィの声が震えた。

「セオ……あなたの、名前。」


「……俺は、あの科学者の……?」


リリィは静かに頷く。

「あなたの遺伝情報は、“創世者”ヴェルン・ノアの複製。

 あなたは、彼らが残した“観測者プログラム”の器だったの。」


セオの手が震えた。

祈り、信仰、複製、再演算――

すべての道が、彼自身へと繋がっていた。


突然、虚空に亀裂が走る。

ノイズが響き、評議会の声が割り込んでくる。


[警告:観測者が中枢層へ侵入]

[削除プロトコル起動]


「セオ、逃げて!」


リリィの声が強くなる。

だがセオは首を振った。


「いいや。今度は逃げない。

 俺は、見る。

 この世界の終わりを――そして、始まりを。」


虚空が崩壊する。

セオは白光の中に立ち、手を伸ばす。

彼の視界に、最後の映像が映る。


滅びた地球の空。

そこに浮かぶ、青白い球体。


【複製世界ルオス 再演算第43周期】


「……終わってなかったんだな。」


セオの視線に、淡い光が宿る。

「だったら、俺が観測する。

 すべてを、最期まで。」


白光の中で、リリィの残響が微笑んだ。


「……ありがとう、観測者。」

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