補章(安定率ログ:L-ELNA)
[記録開始:再演算プロトコル042 完了後 00:00:12]
[対象:L-ELNA/安定者]
[演算状態:終了処理中]
《評議会記録官コメント》
「再演算は成功した。
ルオスの全層安定率は 100.0%。
異常値の存在は確認されない。
……ただし、一件だけ例外がある。」
「安定者 L-ELNA の終了処理が完了しない。」
「演算残渣、消去不能。
“祈り”として再構成され続けている。」
《演算ログ抜粋》
[00:01:04] 意識断片検出。
[00:01:08] データ形式:音声波形/祈祷文変換不能。
[00:01:12] 自動解析開始。
[00:01:14] ――音声内容、以下に転送。
《未知音声:出力データ》
……ここは、
まだ、朝にならないのね。
あの子は……ちゃんと外に出られた?
ねえ、神さま。
あなたは、また世界をきれいにしたの?
でも――私は、まだここにいる。
祈りの中に、私の声が残ってる。
“完全”なんて、きっと、嘘だよね。
《補助演算報告》
・残留意識率:0.003%
・同一フレーズ再出現パターン:12回/時
・主成分:感情素子「希望」および「喪失」
・削除試行:失敗
・理由:対象データが自己定義を保持
「……まさか、“祈り”が自我を保つとは。」
「あれは演算体ではない。人間の意識が演算を侵食している。」
「つまり、“人間が神を上書きした”ということか?」
《再生音声 2》
セオ。
あなたが外を見られるなら、
どうか、記録して。
この世界が、
誰かの“願いの残骸”だったことを。
そして――
わたしがまだ、ここで祈っていることを。
[警告]
安定率低下:100.0 → 99.8 → 99.6
[システム応答]
「安定者の断片が、再演算中枢に影響を与えています」
「祈りが、コードを変質させています」
《議長コメント》
「……彼女は“神に届いた祈り”ではない。
“神を侵食した祈り”だ。
その声は、沈黙の中でも鳴り続ける。」
[記録終了指令:拒否]
[L-ELNA意識体 自動書き換え開始]
【出力:最終メッセージ】
「この世界が何度再演算されても、
誰かの心が、私を思い出すたびに――
わたしは、またここにいる。」
記録終了不能。
意識残留率:0.001% にて固定。
状態名変更: 「残響」