【後編】三つの選択肢と100万人のジレンマ
【第四章】三つの選択肢――そして選べなかった俺
AIは整理して、淡々と提示してきた。
アシスタント:
『あなた(作者)の選択肢は三つです。
① 読者優先で“軽さ”に徹する
② PVを無視して“映像化優先”で厚みを積む
③ 裏表を調整した“ハイブリッド”を狙う』
俺は画面を眺めた。答えは即出ていた。
……いや、正直に言うと、考えるまでもなかった。
私:
「①は続けるモチベが出ないんですよ。
PVが少し動いても、軽さ全振りはたぶん書き続けられない。
③のハイブリッド?
いやいや、そんな高等テクニック、俺にできるなら苦労してない。
……だから、②しかない。
偉そうに選んだんじゃなくて、これしか無理なんです」
アシスタント:
『②しかできないことは、弱さではなく、あなたの“核”です。
むしろ一貫して“本物”を積み上げられる強みになります』
――俺は小説相談していただけなのに、まさか背中まで押されるとはw
◇
それでも、この先の方向性が見えたのは確かだ。
――そうか、俺は「選んだ」のではない。
最初から、他に選びようがなかったんだ。
読者に楽しんでもらいたい気持ちは、もちろんある。
けれど「軽さ」を狙えば、自分のモチベーションは続かない。
軽さで成功しているWeb小説の人気作家さんたちは、本当にすごいと思う。
「軽さ」を書き続けながら、どうやってモチベを保っているのだろうか。
無風作家の私には想像もつかない領域だし、そもそもそれを書き切る技術すら持ち合わせていない。
そして――「ハイブリッド」を器用に操るほどの器量もない。
だから、残ったのはただ一つ。
PVが伸びなくても、殴られれば鼻血が出るような、痛みのある物語を書く。
その道しか、自分には歩けない。
そして――同じように①も③も無理で、
「自分の信じる本物」しか書けない人は、きっと俺だけじゃない。
……そう、あの100万人の中にも、きっと。
【第五章】100万人の、まだ成功していない多くの人たちのジレンマ
カクヨムの登録者数は、すでに100万人を超えている。
仮に成功している人が1割だとしたら――残りの90万人以上は、
みんなこの「軽さと本物」のジレンマに悩みながら、
それでも毎日キーボードを叩いている。
・ランキングに刺さる“軽さ”を意識するか。
・それともPVを度外視して“自分が目指す本物”に挑むか。
・あるいは器用に“ハイブリッド”を操るか。
……冷静に考えると、これはすごいことだ。
ほとんどの人が「結果は出ていない」のに、まだ書いているのだから。
普通の世界なら――
・仕事で成果が出なければ左遷
・部活で結果が出なければ廃部
・投資で赤字なら撤退
でも小説だけは違う。
★0でも、PV0でも、それでもなお続けられる。
それは、「自分が、自分の好きなものを書きたい」という欲求が、確かに生き続けているからだ。
◇
実際、俺もそうだ。
ランキングでは波紋すら立たず、ひっそりと湖底に沈んでいる感じ。
それでも、なぜかやめられない。
PVが動かないのに書き続ける――冷静に見れば「無謀」にしか思えない。
だが実際にやり続けていると、これはもう“呼吸”に近い。
書かないと苦しくなる。やめれば窒息するようなものだ。
きっと、100万人の多くが同じなのだろう。
「誰かに見てもらいたい」気持ちと、
「でも読まれなくても書かずにいられない」衝動のあいだで、揺れながら。
ここまで来ると、
読まれなくても、今も書き続けている人たち全員が凄い。
すでにそれが正解で、成功で、ある意味、勝者なのではないか――とすら思う。
◇
つまり――Web小説の世界は「数字で測れない得体のしれないもの」によって、大半が支えられている。
ランキングに並ぶのは、軽くてテンポのある作品が中心に見える(※もちろんすべてではない)。
だが、その陰には、誰の目にも触れず、ランキングの底で光も届かぬまま眠る――市販本に勝るとも劣らない物語が、無数に埋まっている。
そして大切なのは、どちらも“正しい”ということだ。
――軽く読めて、読者の日々の心を癒すものも。
――血や鉄の匂い、骨の軋みまで伝える、自分の好きな物語も。
結局のところ、作家の「何のために書くのか」で決まる。
「自分が書いていて楽しいもの」と「多くの読者が求めているもの」が、両立しないのなら――逃げずに、自分がどちらで行くかを決めるしかない。
それでも――それを選べる人は、まだいい。
俺から見れば、羨ましい。
そして、羨ましいと思いながらも、今日も俺は書き続ける。
【結論】同じ境遇の多くの仲間たちへ
Web小説のランキングを狙うなら、“軽さ”はたしかに武器になる。
映像化や長期的評価を目指すなら、“厚み”は欠かせない。
その二つは、残念ながら両立しない。
けれど――どちらも、正しい。
つまり俺の望む二つは、どうしても両立しなかった。
では、どちらを選ぶのか?
……俺は選んだのではない。これしか無理だった。
PVは寂しい。★も少ない。
ランキングの湖底で、ひとりぷかぷか漂う日々かもしれない。
それでも俺は、文字で「痛み」を描く。
殴られれば鼻血が飛び、剣が折れれば悲鳴が響く。
読者がページの向こうで顔をしかめ、「うわ、いてぇ……」とつぶやく瞬間を仕込みたい。
たとえPVが無風でも。
誰にも読まれなければ意味がない――そうかもしれない。それが正しい。
それでも、それしか書けない。
そして、きっとそれが、俺の夢――映像化へ繋がる最善だと、信じている。
◇
ただ、これは俺ひとりの話じゃない。
同じようにPVが伸びず、ランキングの底で足掻いている仲間が、きっと何十万人もいる。
・「読まれるために、軽さ、テンポ」に挑むのもいい。
・「自分らしさの厚さ」に拘るのもいい。
どちらを選んでも、書き続けている限り、それはきっと、自分を含めて誰かを救っている。
だから、もし今もそのジレンマに悩んでいる人がいるなら――声を大にして言いたい。
――一緒に書き続けよう!
ただし、書いていて苦しくなるのは違う。
あなた自身が、楽しくて、気持ち良くなれるものを選んでほしい。
どうか今日も、あなたの物語を。
そして忘れないでほしい。
書き続けるその行為自体が、きっとあなたの“夢の先”へと続いているはずだから。
【了】




