6話、体力は低く、戦意は高く
僕は受付の近くにある売店で最下級ポーションをがぶがぶと飲み干す。ゴブリンと殺し合って今度は死にかけのゴブリンに足をつかまれたのだ。死にかけでもゴブリンの握力は強すぎた。そのせいで足首を痛めた。
僕が先ほどの戦いを振り返っている間、敵前逃亡した服部は居心地が悪そうにうつむいていた。どうやら逃げたことを気にしているようだ。こいつに低級ポーションをおごってもらったので赤字は避けられたのが不幸中の幸いだ。とりあえずこの空気をなんとかせねばならん。
「服部君。次はゴブリンから逃げずに済みそうか?」
「自信ないでござる。」
どうしよう?こいつとセットならひょっとしたらどこかのパーティに入れたりしないだろうか?よし、そうしよう。敵前逃亡する仲間と二人でゴブリンを倒すのは無理だ。仲間がいて優勢なら服部はその場から離れないかもしれねえ。
「服部君。仲間を増やすぞ。君はもっと優勢な戦いなら逃げたりしないか?」
「かたじけない。断定はできないでござる。」
不安しかないが、やれることがほかにないからとりあえずパーティメンバーを増やそう。ノリが軽くて重い。この矛盾をどう解消したらいいのだろうか。
僕たちは施設内にいる冒険者達に片っ端から声をかけた。本当に誰でもよかった。もう人殺しでもいい。もちろん僕たちを殺さない場合に限るが。しかし条件はこれ以上緩くなんてできないのに全く仲間は増えない。これでだめだったら終わりにしようと一人で下を向いて立っている女の人に話しかけた。
「すみません。僕たちまだ戊種なんですけどパーティに入ってもらうことってできますか。」
女の人が顔を素早く上げる。僕は驚愕した。驚くほどに特徴のない地味な顔だ。体型にも個性はなく女性としては最もよく見かける身体といえる。頭髪や目の色は黒にとても近いこげ茶色。非常に目立たない。迷宮ができてから髪や目の色が突然鮮やかな色に変化してしまうといった例は枚挙にいとまがないがこの女性はそうではないようだ。
僕も髪や目の色は変化しなかった。服部は髪も目も変色したようだ。僕が容姿に関して少し意識を向けていると女の人はか細く元気のない声でつぶやいた。
「私も戊種。今日登録したばかり。」
「そうなんですか。僕たちと同じですね。一緒に迷宮に行きませんか?」
僕は明るく話しかける。こういうのは恥ずかしがっていては始まらない。服部はさっきから何もしゃべらない。頼れるのは自分だけ。
「・・・・・・私若くない。それでもいい?」
「構いませんよ。僕もこっちの服部もそんなに出来のいい人間じゃないですからね。」
「ひ、一言余計ではないでござるか?」
確かに。僕と服部の出来が悪いのは疑いようのない事実だが、事実を言えば人は傷つかないわけではない。僕は知っている。僕は服部に頭を下げた。そして一言。
「ごめん。」
服部は謝られて逆に気まずいのか視線をそらしてしまった。くそ。このパーティ、コミュニケーション能力に難があるやつしかいねえ。まあどうでもいいか。ぶっちゃけ仕事ができるなら国際手配されているテロリストだろうと仲間になってもらいたい。もちろん事件をこれ以上起こさない場合に限るが。
僕が先ほどまでの人材不足を思い返していると服部が目線を下に向けながら消えてなくなりそうな小さい声でぼそぼそと言葉を紡いだ。
「そういえばお名前は?」
「忘れたの?金剛寺 壮悟。」
「違うでござる!そっちの女性のほうでござる。」
「伊藤 結乃。」
服部が一瞬誰に名前を聞いたのかわからなくなった。僕はこういうことがある。発達障害の人はすぐ自分のことだと思い込んだり、文脈理解が苦手だったりする。そのせいで空気が悪くなる。もうちょっとどうにかしないとと僕は落ち込みながら二人とともに迷宮の入口へ向かった。
迷宮の入口へ入るとき僕は危機感を覚えていた。今まで二回とも入り口近くでゴブリンと戦った。今回もそうではないか?強い警戒を向けつつ迷宮の地面を踏んだ。
いない?あたりを見回すと他の探索者達が次々と奥へと歩き出している。今は昼頃だからみんなが活動している時間なのか?
僕は二人とともに迷宮を歩き出した。地面はでこぼこしていて歩きにくい。靴もただのスニーカーだしあんまりこの迷宮に適していない。どうせなら登山靴とかのほうがいいのかもな。
とにかく疲れる。刑務所で体がなまったな。脂肪はかなり減ったが筋肉は落ちた気がする。服部は平気で歩いている。あいつはこの三か月半で体力を取り戻したようだ。
伊藤さんは・・・・・・。やべえ。呼吸音が激しすぎる。目の焦点もあっていない。顔色も良くない。いやぼやかすのはやめよう。顔色は病院に連れてきたくなるくらい悪い。足もよく見ると、違うな。よく見なくても震えている。
「はっ、服部君ん。ちょっと疲れたからぁあ、休憩しないか?」
僕は服部に焦って休憩したいと伝えた。上手く言葉が出なかったが仕方ない。ん?服部から返事がない。僕は服部のほうを向いた。服部も伊藤さんみたいになってた。なんで死にかけが二人に増える?
理由はすぐに分かった。足音がする。茂みから現れたのは僕にとってはおなじみの存在だ。そうゴブリンである。
「ギャギヤ!」
服部!頼む援護してくれ。服部はゴブリンを見て後ずさる。だめだ。使い物にならねえ。伊藤さんは考えるまでもなく戦力外。むしろ足手まとい。僕は少し疲れている。ええい!やってやるよ!死ね!ゴブリンがあああああ!




