5話、殺意は鋭く、見通しは甘く
受付の人とガンガン口論していたら、肩に手が置かれた。ああ誰だよ?僕は振り向いた。
「ひさしぶりでござるな。金剛寺殿。」
服部だった。二ヶ月半ぶりだな。服部はだいぶ髪が伸びたようで今は短髪ショートだ。僕はまだ刑務所を出て日が浅いので五分刈りだが。10月なので外は頭が冷える。
僕は口論を打ち切って2300円をもらって服部の手を握って、その場を後にした。服部は訳もわからず僕についていく。僕達は外に出た。うおー。風が頭を冷やすぜ。僕は口を開いた。
「服部君。僕とパーティを組んでくれないか?一緒にゴブリンを倒そう。」
一人でゴブリンと戦うのが無理なら、二人で戦えばいいのだ。僕の真剣な声を聞いて、服部は後ろに後退りして腕をブンブン振る。
「無理でござる!ゴブリン怖いでござる!」
なんで探索者やってんだよ!危ねえ。口に出そうになった。落ち着け。服部は友達だ。友達だから声を荒げて脅かしてはいけない。僕は声から震えを頑張って取り除き、一つ質問した。
「服部君は探索者なのか?ゴブリンと戦わずにどうやって金を稼ぐつもりなんだ?」
「音でゴブリンが近くにいるか判断して、隠密魔法をうっすら発動させて、こっそり二層でふきとキノコを採取しているでござる。」
つまり戦っていないのか。そういえばこいつ聴覚強化と隠密魔法の使い手だったな。僕と違って戦わないことが可能なのだ。
しかし僕は服部を戦わせなければならない。臆病なこいつをゴブリンの前に立たせるのは一見難しそうだがやってみるしかない。
僕の頭はよく動いていた。まずは雑談で少し緊張を緩める。普段のせっかちな僕ならすぐに本題に入っていたが、今の僕はいつになく慎重だ。
「服部君。君は僕より二ヶ月先に刑務所を出たけど、どこの支援団体のお世話になったの?」
「ん?支援団体?なんの話でござるか?」
「ほら僕ら前科者をしばらく置いといてくれてアルバイトとか紹介してくれるとこだよ。」
「そんな便利な団体があったのでござるか。拙者、刑務作業の賃金をとりあえず全部使ってナイフとリュックで迷宮に入ったでござる。もうちょっと準備できたんでござるな。」
嘘だろ。なんという見切り発車。こいつを仲間に入れても大丈夫なのか?いや問題ない。足りてないところは補い合えばいい。それが仲間というものだろう。僕だって道に迷って迷宮で遭難しそうだし。冷静に会話を続ける。
「じゃあ服部君もう二ヶ月以上、探索してるんだね。」
「そうでござる。最近は護身用に刀も買ったんでござる。」
そう言って僕に水色の柄、水色の鞘の両手で持つには少し短めの日本刀を見せてくる。よく見ると、ちょっとボロい。中古品だろうか?今は探索者という職業がある時代だ。昔に使われていた武器にも需要がある。
モンスターは動きが速いのが多いのですぐに接近してくるし凶暴なので銃や魔術で狙いをつける前に殺されることもある。したがって近接武器も有効である。
需要があれば供給もある。今や剣や槍、斧など他にも様々な武器の安物が工場で生産されている。そして服部もそれを買い求めたということだろう。
世間話もそろそろ打ち切って説得の時間だ。僕は高鳴る心臓を意識しながら話を切り出す。
「服部君。山菜を集めるのも悪くないが、それではレベルが上がらないだろう。」
「・・・・・・わかっているでござる。」
「レベルが上がらなければ探索者は金を稼ぐことが難しい。」
「低い階層で山菜を一生集めるなんて無理だろう。聖術やポーションで病気はだいぶ治るようになったが完全じゃない。」
服部は目に涙を潤ませて下を向いている。服部は高卒で、しかも一般的な高卒者の水準を大きく上回るような能力を持っていない。前科もついていて、もう探索者になるくらいしかまともな選択肢がない。
レベルを上げなければならない理由がある。モンスターへの恐怖もある。だから僕にこいつが必要なようにこいつの僕が必要だ。僕はゴブリンを売っぱらった証拠の領収証を見せてはっきりと言う。
「だから一緒にレベルを上げよう。僕は苦戦したが一人でゴブリンを倒した。服部君がいればもっと楽に倒せる。」
服部は視線を下にそらして自信なさげに小さい声で僕に不安を伝えてくる。
「でも拙者やっぱり怖いでござる。金剛寺殿に迷惑をかけてしまうかもしれないでござる。」
「試しに一回、ゴブリンと戦ってみよう。そのあとどうするか決めよう。」
僕は軽い感じで服部に提案する。数分後、服部と僕は緊張感をあたりに撒き散らしながら迷宮に突入した。僕だって怖い。さっきゴブリンに殺されかけたし。
僕がおびえる服部を引き連れて迷宮に突入すると、あら可愛くない小人さんが。ゴブリンだあああ!服部はくるりと背を向けてゲートに飛び込む。服部は外へと吸い込まれていった。マジかよ。服部、逃げやがった。空恐ろしいほどの反応速度だ。ひどいよ。いや待て。それは後だ。
待ってくれ!ゴブリン!剣抜くから五秒待ってくれええ!ゴブリンは待たない。ギャギャっと笑って棍棒を振りかぶる。ちっ。外道め。殺すぞ!僕は前足の前蹴りでゴブリンの棍棒を持つ手に打撃を加える。
ゴブリンの手が緩んで棍棒が落ちそうになる。はよ落とせ!もう一度、先ほどと同じようにゴブリンの手を痛めつける。ボトっとゴブリンの棍棒が地面に転がる。
殺してやる!僕は腰の鞘を手で押さえて片手剣を抜き放つ。同時にゴブリンも棍棒を手に取る。しくじった。棍棒を拾う前に殺す気だったのに。
でも早いか、遅いかだ。ゴブリンめ!反抗的で生意気で不細工な面をしやがって。殺処分してやんよおおおお!僕とゴブリンはお互い殺意を全開にしてぶつかり合った。




