3話、剣は安く、敵は近く
今日、僕は前科者、貧乏人、狂人が跋扈する探索者ギルドへ向かっていた。安心しろ。大丈夫だ。今失うものは命くらいしかない。ダメだ!全く安心できねえ。
いじめ、受験戦争、刑務所生活と苦しみ盛り盛りの人生だった。全てが幻だといいと毎日思っているのになんで命に執着するのか。生きるしかない。それが本能なのだろうか。
命とはなぜ尊いと思われているのかを考えながら道に迷って確実に小一時間以上を無駄にして探索者ギルドに辿り着いた。
クソが!刑務所にいる間、スマホの契約なんて続けてないのでスマホの地図アプリが使えなかった。僕は発達障害のせいで道に迷いやすい。空間把握能力が低すぎる。
ようやく探索者ギルドに着いた。僕は駆け足で受付に向かう。探索者ギルドの建物に入った瞬間、流れ込む人の匂い。僕は刑務所を思い出した。
ぶっちゃけると汗臭い。迷宮での探索は思い肉体労働。汗をかきまくる。帰ってきた探索者の汗の匂いがこの施設の居心地を悪くしていた。
そして騒がしい。さすがに公共の施設なので酒場はくっついておらんから酔っぱらいはいない。いやいた。
持ってきた缶ビールを中年探索者がゴクゴクと飲み干す。おかしいな。施設内は酒の持ち込みは禁止なのだが。壁の貼り紙にも書いてあるし。だが受付の人は酔っぱらいを白い目で見つめている。それだけだ。
探索者ってのはマナーもまともに守れないのだろうか?僕はこれからこんな奴らと付き合っていくのか?家に帰りたくなってきた。もっとも今の僕には家などないが。
賃貸契約など刑務所にいる間はしていないし、金もないのでこれから家を借りるのは無理だ。支援団体に長くいることは規則的に無理なので今日から漫画喫茶が家の代わり。
クソが。まあいい。早く金を稼がねば。今の所持金は25000円くらい。こんな端金すぐになくなる。支援団体から紹介されたバイトをこなしたが所詮アルバイト。時給はたかが知れていた。
正社員の時に比べてだいぶ金がないが、あの時は人間関係が崩れていた。バイトでは特にそういうことはなかった。一長一短だ。
僕は給料と人間関係を天秤にかけながら受付に向かった。受付の人にできるだけ落ち着いて声をかける。余裕はないがあるように見せている。
「特異構造空間労働者の登録に伺いました。手続きをお願いします。」
今僕はやたら長くてややこしい言葉を発した。特異構造空間労働者は世間では探索者と呼ばれている。ちなみに等級は五段階評価だ。国が決めた小難しい正式名称はほとんど探索者ギルドとテレビ局くらいでしか使われていない。
ちなみに探索者ギルドの正式名称は特異構造空間労働者機構だ。めんどくせえ。逆に手続きは不安になるくらい簡単だ。
受付の人から出された用紙に必要事項を書き殴っていく。学歴の記載は不要、職歴も書く必要なし、住所もできれば記入、電話番号と性別、年齢、名前くらいしか書かなくていい。
探索者には学歴もクソもない。金を稼いで来れるかが一番大事。素行は二の次だ。もっとも僕は金を稼げる自信などさらさらないが。
名前は「金剛寺 壮悟」、年齢は24歳、性別は男、電話番号は・・・・・・。よし書き終わった。
僕は受付に用紙を渡す。すると白いプラスチック製のカードが渡される。それに受付の人がマジックペンで僕の名前を書き込む。うーん。なんとも安っぽい。
僕の命の値段を考えれば仕方のないことではある。だがなんだろうこの悲しさは。しかしもっと悲しいことが起こった。パーティに入れないのだ。
「アイテムポーチ持ってないの?」
「装備しょぼいけど大丈夫?」
「なーんかダサいっていうかあ。」
僕はバイトで金を稼いで最低限の装備だけなのだ。片手剣はリサイクルショップで買った中古の安物だし、見た目以上にいっぱい荷物が入る便利アイテムアイテムポーチは高かったので買っていない。
安くてうん十万円のアイテムポーチをアルバイトの低賃金で買うには年単位の時間が必要だ。あとギャルよ、ダサいは余計だよ。悲しさを胸に僕は藤沢迷宮の入り口に立った。
迷宮の入り口は洞窟のようになっているが、普通の洞窟との違いは一目瞭然。迷宮の入り口は空間がぐにゃぐにゃ歪んでいるのだ。
行くぞ。僕は他の探索者達が前にいないのを確認し迷宮の入り口に飛び込んだ。入り口を潜るとそこは森だった。
不揃いな木がそこらじゅうに生え、地面は落ち葉だらけで雑草もわさわさ生えている。大自然だ。藤沢特異構造空間、通称「藤沢樹海」は他の東京近郊にあるダンジョンと違って真っ暗だったり人が多すぎたりしないので腕に覚えがないけどしっかり仕事したい探索者におすすめである。
そう。僕はソロでしっかり仕事をこなさなければならない。一人で、孤独で、ぼっちで。ああ嫌になる。
!僕は足音を聞き取った。落ち込んでいたせいで反応が遅れた。それでも即座に腰から剣を抜く。剣を抜いた僕は後ろに下がった。
緑色の醜悪な小人の持つ棍棒が僕の少し前の地面を叩く。ゴブリンだ。背を向けて逃げ出したいが、後ろに下がる方が前に進むより遅い。
もうこれ以上下がれない。僕は左足を前に出し、左斜め上から剣を振り下ろそうと剣先を空に向ける。だがゴブリンの攻撃の方が速い。
ゴブリンが棍棒を振り回そうとしたのを見て僕は攻撃から防御に転じる。真上から迫るゴブリンの棍棒。僕は左斜め斬りでゴブリンの棍棒を叩き落とした。ぐっ!叩き落とすのが下手で肩を負傷した。クソが、死んでたまるかよ!




