最終話、理想は遠く、空は明るく
またみんなと探索できる。だから僕は前向きに生きていける。迷宮三層、飛び出してきたゴブリンの頭を錬金術で作った弾丸で撃ち抜く。
まだ状況が分かっていないゴブリン達の元へ切り込む。袈裟斬りで喉を裂き、蹴り飛ばす。蹴り飛ばす向きは最後に残ったゴブリンだ。
ゴブリンは躊躇なく、死体を乱雑に押し退けるがもう遅い。片手剣を頭の斜め上に構えて、そのまま斜め下へ斬り下ろす。右足を剣に追い付かせるように踏み出し、そのまま剣をゴブリンの首に打ち下ろす。
ゴブリンの首から血が大量に噴出した。右足を踏み出したことで、後ろに引いてある左足で押し込むようにゴブリンの腹を蹴りつけて転倒させる。
・・・・・・片付いたな。
「ぜっ、全部一人で倒したござるっ?」
「そ、壮悟君強くなったね。」
服部と中村さんは驚いている。僕も驚いている。自分でもうまく行くと思わなかったし。だけどうまくいった理由はわかる。みんながいたからだ。みんながいるから頑張れる。
「はい。みんなのおかげです。」
「どういうこと?」
伊藤さんがボソッと疑問を漏らす。僕はみんなと共に生きていける嬉しさを早口で語って、服部がもういいと言って顔を赤くする。
いい気分だがここは迷宮。しかも三層だ。気を引き締め直して歩き出す。少し歩くと茂みが不自然に揺れる。
「狼でござる!」
服部の大声。僕には襲ってくる魔物はゴブリンか狼かはわからなかった。助かるよ、服部。おかげですぐに判断できた。
残っている魔力を全部使ってとっておきを生成する。何回も作ってきた。だから大丈夫。来い!ロボットアーム!
殺到してきた五匹の狼に向かって浮かべたロボットアームを横に薙ぐ。ロボットアームについた爪が何匹かの狼の身体を引っ掻き、致命傷を与えて吹っ飛ばす。
しかし仕留め損なったのが二匹。致命傷を負った三匹は立ちあがろうともがいているが、しばらくは戦えない。残り二匹。
魔力はもうない。よって動体視力強化も錬金術も使えない。一人だったら絶対絶命だ。一人だったら。
僕に向かって突進する狼に服部が割り込む。狼の頭を真っ向から振り下ろした刀でかち割る。相討ちを避けるため、押し込むように蹴りも入れた。
最後の一匹の狼は回り込んで僕を噛もうとしていた。服部は間に合わない。でも仲間服部だけじゃない。中村さんが、砂の混じった風を狼の目に浴びせる。
そうして生まれた一瞬の隙。決して無駄にならない。彼女はチャンスを常に探しているのだから。伊藤さんが左足で踏み込むと同時に、右手のナイフを狼の顎の下に滑り込ませた。
一泊遅れて狼の首から血が溢れ出る。狼はもう助からないだろう。しかし失血で死んでくれるのはだいぶ先だ。
絶対にタダでは死なない。狼はそう決意したかなように(いや絶対してると思うけど)、砂で痛め付けられた目を無理やり開く。
大人しく死ね!剣を斜め上から振り、足を追いつかせる。そこから腰を落とすことで自分より体高が圧倒的に低い狼にも剣が届く。狼の横っ面が切れ味の鈍い剣で砕けた。
狼は糸が切れた人形のように崩れ落ちる。その後はみんなでまだ息のある狼に止めを刺して回った。
「ロボットアーム。その・・・・・・よかったでござるよ。」
「死体の外傷が大きい。そこが課題。」
「前より使いこなせてるね。」
披露したロボットアームはまあまあな評価を得た。練習の甲斐があったというものだ。結果に満足しながら、首に注射器を突き立てて魔力を補給する。
打ち終わったので注射器をしまった。そのとき微かな羽音がする。嫌な予感がした。服部が声を上げる。でもなんて言っているかわからない。
それだけ僕は羽音を出している何かを気にしていた。・・・・・・見つけた。首をあまり動かさなくても見えた。そのまま首を上げるだけで済んだ。
羽音の主、ツルカラスは細い体で空を滑るように移動していた。徐々に僕に近づいてくる。怖い、また腕を切り落とされるかもしれない。
・・・・・・いやそうはさせない。腕を落とされてからツルカラスが大嫌いだ。腕が落ちれば、仲間に迷惑がかかる。だから死ねや!
音のない銃撃がツルカラスの細い胴体をぶち抜く。羽を大きく広げたツルカラスが力を失い落下。ツルカラスはなんとか着地するものの立てない。
足を怪我したのだろう。安心しろ。すぐに楽にしてやる。しかしツルカラスはおとなしく死ぬつもりなどないようだ。
慎重に近づく僕に対して、くちばしを向ける。潔さは一欠片も含まれていない。だが、その姿勢は嫌いじゃない。だから手は抜かない。
動体視力強化発動。ジリジリと寄っていくうちに互いの攻撃が届く間合いに入った。それは一瞬の攻防だった。
身体を倒れ込むほど、傾けてくちばしを当てようとするツルカラスの動きを見切り、半歩後退。ツルカラスの間合いから外れる。
対してツルカラスは僕に大きく近づいたため斬撃の届く距離に身を置いた。しかも体勢は崩れている。避けられるわけがない。
腰を落として、身体を下げる。剣を左肩を通すように構える。振りかぶって地面をまな板にして首を切り落とした。
完璧だった。他の探索者ならもっと上手くやれたかもとか余計なことは全く頭にない。あるのはトラウマを乗り越えた達成感だけだった。僕なら、いや僕たちならもっと先に行ける。
・・・・・・そう思っていた時期がありました。いや今も思っていないというわけではないが。ちょっとこれはきついかな。
「キュウウウウウウ!」
溢れんばかりの殺意が鳴き声と共に伝わってくる。戦う前から伝わる大きな力。動画ではこの迫力を感じることはできない。
みんなとの冒険を再開して一週間。迷宮三層での探索が簡単になってきた僕らは、四層での探索を決意。
そして服部がこの大爪モグラに気づき、警告。大モグラの奇襲は失敗。地中からの接近だったのにな。服部の耳はどうなっている。
しかし大爪モグラは小さいツキノワグマくらいの体格を誇る危険なモンスターだ。意外と小さいと思って舐めてはいけない。
こいつは穴を掘るために魔力で身体を常に強化している。引っ掻かれただけで身体がズタズタになるであろう。爪も20センチと巨大だからな。
「中村さん。砂の風を!」
そう叫んだ直後、後ろから砂混じりの突風がモグラの顔面を直撃した。モグラは目は見えないが、嗅覚が強い。鼻に砂を浴びせれば、気をそらせる可能性がある。
期待通り、モグラは怯んだ。怯むことを期待してあらかじめ準備していた錬金術を発動した。行け!蛇型ロボット!
たくさんの関節が連なった一見、蛇には見えない物体が宙に浮く。そして立ち上がって爪を僕達に向けているモグラの足を絡め取り、引っ張る。
転んじまいな!だがそうは問屋が卸さない。魔力量の関係で細長くなった貧弱蛇に何をされようがモグラのバランスは崩れない。
でも意識は蛇に逸れた。服部が刀を頭あたりの位置に真っ直ぐ掲げて走り出していった。そして奇声を上げながら袈裟斬りを放つ。
蜻蛉の構えからの渾身の振り下ろし。示現流とかいう流派のテクニックだが、防御力が高い魔物にかなり有効なので、よく動画でやり方が解説されている、
人間ならば胴体ごと切り落とされてもおかしくない一撃。人間ならば。
モグラは胴体から出血こそしているもののまだ元気だった。服部は斬り込んだあとすぐに離れているが、モグラは四つん這いになって素早く距離を詰める。
大爪モグラはそんじょそこらのモグラと違い、地上でも機敏だ。優れた聴覚で地上にいる人間を見つけ、地面から出てきてぶっ殺してくる。身体の構造自体が地球のモグラと違う。
魔力は使い切ったが剣を振るうことはできる。モグラの横に移動。新調した黒鉄のバスタードソードを両手で真っ向から振り下ろす。
少し出血しただけだが、動きは止まり、視線も僕に移る。
「囲むんだ!」
中村さんが大声で叫ぶ。モグラを袋叩きにする。中村さんが魔法で怯ませ、服部が重傷を負わせ、僕と伊藤さんで細かい傷をつけていく。
程なくしてモグラは力尽きた。モグラの死体が凝り傷まみれで値段はだいぶ下がっていそうだがそれでも嬉しかった。
こうやってみんなで協力すればもっと遠くまでいける。だからこれからもみんなと一緒だ。とりあえず漫画喫茶暮らしからは脱したいな。
ふとそんなことを思って空を見上げる。樹海の上に広がる空はいつも通り青く明るい。僕の人生もまた明るくなった。これからも明るく生きていこう。




