23話、光はまぶしく、心は暗く
目の前には緑色の醜悪な小人がいた。この小人は人を殺すために生まれてきた化け物なので、こちらも殺意がなければやっていられない。そしてなぜか小人さんが二人いるので、こちらの殺意も二倍にしなければと使命感を感じてしまう。
一層ではゴブリンはボッチで行動しているが、なんかの偶然で探索者を同時に発見したり、探索者がほかのゴブリンと戦っているのを見つけるということはあり得る。そのような場合、ゴブリンは同胞に惜しみなくに協力する。
なんとも美しい関係だ。見た目はこんなにも汚らわしいのに。このように運悪く、普段より多くの魔物と戦い、そのままくたばる探索者はありふれている。安全に生きたいなら、通常その階層で出会うモンスターの二倍の数に対処できるのが望ましい。まあそれでも死ぬときは死ぬけど。通常発生しないモンスターが出たりすることもある。
僕は運が悪くても一層ぐらいなら死なないと証明しなければならない。証明できればちょっぴり自信がつき、できなければ死ぬ。ハイリスクローリターンだ。割に合わねえな。
ゴブリン二匹が一斉にとびかかってくる。その判断は正しい。数で優っていて死ぬのが怖くないなら、防御より攻撃だ。だがそんな野獣どもには付き合っていられんな。
右側のゴブリンのほうに勢い良く前進。進んでいる途中で錬金術でナイフを生成。ゴブリンの力任せの打撃をナイフで横から押し当てて、逸らした。すかさず右手の片手剣で刺突。剣の平の中央に親指を押し付けるの忘れない。そうした方が力の方向を制御しやすい。
生き物はそう簡単に死なない。勢いよく蹴りつけてゴブリンの顔面から片手剣を引き抜く。倒れこんだゴブリンはいったん放置。
しかし視界の端にはおいておく。立ち上がって、僕を道連れにして死のうとする可能性が高いからだ。もうおとなしく死んでおけよ。
死にそうなのは僕もだ。一匹に致命傷をくらわしている間に後ろに回りこまれた。振り向くと同時にゴブリンが棍棒を肩に担ぐのが見える。
動体視力強化の闘気術のおかげだ。ノロいんだよ!ブサイクが!心の中で罵倒する僕に構わず、ゴブリンが棍棒を振りかぶろうとする。
こうして目で捉えた情報を役立てられるのは、今までの戦闘のおかげだ。最初は見えても何をしたらいいのかが分からなかった。
でも今は違う。何をするべきか少しはわかってきた。踏み込んで、棍棒をナイフで押さえつける。ゴブリンに力では敵わない。あまり長くは押さえられない。
だけど一瞬なら。その一瞬で致命傷にできる。ゴブリンの頭を剣で突き刺した。蹴り飛ばすのも忘れない。
先に殺したゴブリンは?すぐに視線を向ける。よかった。死んでいる。もう片方のゴブリンは生意気にも立ちあがろうとするので、素早く屈んで喉を掻っ切る。
血抜きと止めを兼ねた斬撃を浴びてゴブリンは力尽きた。死体が二個もあるから持って帰るのに困る。とりあえず一体持ってくか。
ああ今日は災難だったな。案の定、置いていった一体は無くなっていた。迷宮はあんなに早く、死体を吸収しないし、誰か回収したんだろう。
人気のない路地裏で空を仰ぐ。日差しは弱い。夕方だからだ。だがそんな弱い光でも僕にとっては眩しすぎる。
死体を換金した後、最近はよくここを訪れる。ここなら力を使える。思い浮かべろ。力強く、無機質な腕を。その腕は日本の産業を支えるくらいに頼もしい。
出来た。宙に浮くロボットアームだ。そして関節を素早く動かし、空を掻く!ヒュッと微かないい音がする。満足だ。
余った魔力を使い切ったので、漫画喫茶へと向かう。魔力量は体力と同じで使うほど伸びる。できればギリギリまで。
そう魔力量を増やすためだ。ロボットアームが一番、魔力を使い切るのに手っ取り早い。そうでもなきゃ、こんなものは作らない。
こんな一匹のゴブリンに使うには、オーバーキルで発動が遅くて、魔力も大量に使い潰すようなものは作らない。こんなの魔物が複数現れるような時にしか使わない。
パーティで冒険してた時とは違うのだ。今日のような例外を除いて敵は一匹。いやこれからアイテムポーチを買って、実力をつけたらもっと深く潜れる。・・・・・・一人で?
僕はこれ以上考えるのをやめて漫画喫茶へと向かった。今日の夕食はどうしようかな?新メニューが出たからそれにしよう。本当にこれ以上は考えたくない。
「金剛寺殿、またケガしたでござるな。死体よりポーションのほうが高いでござるよ。」
服部がわかりきったことを言う。狼はもう少し高いけど。そばには狼が転がっている。懐かしいな。狼なんて一層では出ないぞ。ああ?ここは三層か。
「壮悟くん?どうしたんだい。狼をじっと見つめて。」
中村さんが僕を気遣う。僕も返事をしようとしたが声が出ない。なぜか空を見上げたくなったのだ。空では黒い鳥が羽ばたいていた。徐々にそれが近づいてきて。
「危ない。動いて。」
伊藤さん、どうしたんだろう。いつもより声に感情がこもっているな。前を見ると、そこには細長い首を持った黒い鳥がいた。足には鋭い鉤爪。気づくと腕が切り落とされていた。腕がうでがウデがああああああああ!
「ウデええええ!」
飛び起きると目の前が真っ暗だった。なんか張り付いている。取れない!とれない!・・・・・・待て。これアイマスクだ。ゆっくりアイマスクを外すと、強い光が差し込んでくる。漫画喫茶の照明だ。明るさに慣れてから腕を見る。当然無事だ。
夢かよ。最悪の夢だったな。夢に評価をつけられるとしたら星一つだ。罵倒を交えたレビューもおまけしてやる。朝の支度をしてからギルドに着くといけ好かない顔が目に入る。
宝来とその仲間たちだ。前はカップルみたいな雰囲気だったが、今は違う。もう一人美少女が増えている。腹立たしいことだ。僕もだいぶ強くなったし、もう一度決闘でも申し込むか?
いやダメだ。こういうのはまず仲間に一言、言っておかないと。・・・・・・何言ってんだよ。今、僕は一人じゃないか。だったら気にせず決闘でもなんでもすればいい。
そう開き直ったが、足が動かない。宝来を殴ろうと思うたび、みんなの顔が思い浮かぶ。そうだよ。僕はみんなと一緒にいたかったんだ。こんなことになんで気づかなかった。決めたよ。もう一度、みんなとやり直す。




