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22話、リスクは高く、命は安く

 迷宮一層、いつもここから探索が始まる。この間までと違うのは、一層から先に進まないことだ。

 

 アイテムポーチを持っていない僕ではゴブリンを一匹運ぶのも命懸けだ。二層、ましてやパーティで潜っていた三層なんかには行く意味がない。


 今は一人だ。何もかもを自分でこなす必要がある。服部がいれば敵を見つけてくれる。伊藤さんがいれば敵を仕留め損なっても、命は落とさない。中村さんがいれば、遠くの敵を代わりに牽制してもらえる。


 一人でいることは危険だ。仲間がいないという現実に打ちのめされ、憂鬱になる。しかしすぐに気分を切り替える。


 理由は明快、死ぬからだ。仲間がいないので落ち込んでいるとか甘ったれたことは言っていられない。


 慎重に森の中を歩いていく。耳を澄ませるのも忘れない。少し離れたところから微かに物音。身を低くして接近する。


 茂みから顔をわずかに出す。ゴブリンがいた。僕は先手必勝とばかりに、錬金術で生成した弾丸を回転させて緑色の頭に撃ち込んだ。


 ゴブリンは己に致命傷を与えた犯人を探そうと辺りを見回す。しかし見つからない。僕はすでに顔を引っ込めている。


 ゴブリンはさらに詳しく捜索するべく、足に力を込めようとする。当然、そんなことはできるわけがなかった。


 ゴブリンはとっくに限界を迎えていた。頭を撃たれたら、動けるのは数秒。ゴブリンはその数秒で僕を見つけられなかった。だから死んだ。

 

 頭から血をだくだく流す、ゴブリンの喉を片手剣で掻っ捌いた。血抜きは忘れず行わなくてはならない。薄汚れた布で持っていた片手剣の血をふき取って鞘に納める。今回は戦闘では使わなかったが、もし仕留め損なっていたら剣で戦う必要があった。


 10回やれば1回くらいなら死ねると思う。もし真正面からの近接戦闘を毎回こなしていれば2日以内にはこの世からおさらばだ。


 血があらかた流れたので、ゴブリンの死体を腕一本で担ぐ。今のレベルは8。決して高くないレベルだがまあまあ各種能力に補正がかかっている。それに加えて、毎日の探索者活動により基礎体力が鍛えられた。


 ゴブリン一体くらいは、お持ち帰りできる。だが楽勝ではない。運んでいる最中に、また次のゴブリンに遭遇するとピンチに陥ってしまう。


 よって物音があった瞬間、陰に身を隠して進んでいく羽目になる。身を隠していても血の匂いはするのでたまに見つかる。そうなったときは相手がこちらの位置を見破る前に撃ち殺す。


 最初はゴブリンにすぐ見つかっていたが、成長したものだ。仲間がいないからか。自分しか頼れないのだ。本当に成長といえるのか?探索者としては進歩したかもだが、人間としてはどうだ?


 余計なことを考えるな。ゴブリンに見つかった時、どうする。判断が遅ければ死ぬぞ。まあ今回はそのようなことは起こらず、無事にギルドについた。


 「おい。あいつ『隻腕のゴブリン運び』だ。」


 「まだ死んでなかったのか?」


 「すぐにでも死にそうな顔だね。」


 外野がうるさい。なんか全く褒められてないし。『隻腕のゴブリン運び』ねえ?そのまんまじゃん。

 

 腕を切り落とされているのは目立つ。それに加えてソロで探索。アイテムポーチがないので毎回ゴブリンを担いでいるというオマケ付き。


 目立っているのに実力も実績も大したことないときたら、褒められることなんてなくなってしまう。たまに同情される。同情するなら金をくれ。腕治しに行くから。


 いや待て?その必要もないか。ギルドでもらった本日の死体の領収書を見る。昨日までに稼いだ金と合わせれば腕くらい取り戻せそうだ。


 すぐに病院に行き、聖術で腕を治してもらった。ニョキニョキと腕が生えた。植物の成長を早送りで見ているかのようだった。


 こんなに早く終わるんだったら数十万も取らないで欲しいと憤りそうだったが、それだけ聖術を高レベルで使える人は希少なのだ。頭が冷える、


 付け加えると、希少な術者に頼るのがもっとも良い。腕を治せるレベルのポーションは数十万では買えず、再生医療での腕の培養は高額な上に長期間待たなければいけない。


 これが最適解だ。腕が治った。これで何も心配いらない。・・・・・・そんなわけないだろ。一人で探索していることには変わらない。金もない。


 腕を求めている間は細かいことを気にせずにいられた。治ってしまったから次のことを考えなけれいけなくなってしまった。


 落ち着け、やることは変わらない。明日も探索だ。漫画喫茶に帰った僕はひたすら漫画を読んだ。


 早く寝た方がいい。だが寝る準備をすることすら面倒くさかった。何もかもが面倒だ。途中で漫画を読むのも嫌になった。


 漫画の主人公は目の前に立ち塞がる困難に打ちひしがれ、それでも前を向くことを決めた。僕は前を向けていない。


 とりあえず銭湯にでも行って、そのあと寝てしまおう。死んだように眠れそうだ。本当に死んでしまえばいいのに。

 

 

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