20話、流血は多く、損失は大きく
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封筒の中身は賠償金の督促状だった。あのヤンキーは民事裁判も起こして僕に賠償金を要求していたのだ。ただし賠償金は借金してまで返さなくてもいい代物だ。金をある程度稼いだら勝手に請求が来る。
故に僕は忘れていた。探索に熱を上げていたというのもある。脳裏にゴブリンがちらつく。言い訳だがあいつらと日々殺しあっていれば誰だって大事なことの一つや二つ、いや五つくらいは忘れるだろうさ.。
この前、一人で長時間探索して稼いでいたから基準に達したのだろう。払いたくねえ!あのリア充になんで金を渡さにゃならんのだ。
それならアイテムポーチを買ってパーティーに貢献したい。憎きヤンキーと頼れる仲間たち、どちらの役に立ちたいかなんて考えるまでもない。
しかしだ。探索を続けて金を稼げば遅かれ早かれ賠償金を支払うことになる。そして賠償金を払うのは早いほうがいい。先延ばしにするのは得策ではない。払うか、僕はすぐに銀行に行って手続きをして賠償金を一括で支払った。これでいいのだ。これで・・・・・・。
しかし人間は感情の生き物である。特に僕は。探索中、中村さんが獲物をアイテムポーチにしまうたびに飛ばした金のことを思い出す。そのせいで斜面に近い危険な場所でも警戒心が薄れていた。
アイテムポーチがもう一つあれば、一度にしまえる死体は多くなる。そうなると死体をギルドに運び込む回数が減らせて効率化につながる。効率が上がればもっと金を稼げる。漫画喫茶暮らしを卒業して一軒家を借りることも夢ではない。いや一軒家は贅沢か?マンションでもいいや。
とにかく漫画喫茶はいやだ。漫画は読み放題だし、ネットサーフィンも無制限だが、絶対に人が住むところではない。荷物は置けない。寝るときも証明は消せない。布団もベットもない。ないないづくしだ。
だが金より大事なもの。少なくとも数十万円程度の金銭より大事なものが今の僕にはなかった。それは警戒心だ。
風切り音に気づいた時には時すでに遅し。ここは迷宮の三層。戊種の探索者が潜れる階層としては一番深い。当然ながらモンスターも厄介さを増す。
僕はとっさに腕を掲げた。この判断も間違っている。モンスターの攻撃の威力は高い。ゴブリンの棍棒の一撃を受ければ腕などもげるし、狼に嚙みつかれれば足は使い物にならなくなる。
防御より回避。探索者系配信者の大多数がそう勧めてくる。回避ができて当たり前。普段できている当たり前がこの時はできなかった。
でかいカラスの足の鉤爪が僕の腕を落とした。痛みはなかった。ただ強い焦燥感があった。血が吹き出す。
僕は止まっても、カラスは止まらない。落ちた腕は剣を持っていた方だ。というか腕が見当たらない。斜面だったから転がり落ちたのか?錬金術の発動も間に合うわけがない。つまり攻撃手段がない。
どうする?回避しかない。その判断にたどり着くのが致命的に遅かった。仲間の行動の方が早いくらいだ。
「壮悟くん!」
中村さんが風の魔術でカラスの身体を揺さぶる。カラスが体勢を崩す。僕は慌てて後ろに下がり、服部が飛び込んでくる。
刀を叩きつけ、地面と挟むようにしてカラスの細い首を切り落とした。・・・・・・死なずに済んだ。
いや待て、痛みはないものの、血が止まらないんだぞ。ポーション!いや腕を見つけて断面をくっつけてから飲めば腕が繋がる。まだ飲まん。
腕どこ?見当たらない。腕ウデうでえええええ!慌てて腕を探していると服部が中級ポーションを持って近づいてくる。
「飲むでござる!腕はもう見つからんから諦めるでござる!病院行けばまた生えてくるでござる!」
そうなんだけどさ。回復の聖術で腕の欠損を治すと高いんだよ。だからもうちょっと粘りた・・・・・・。だめだ。意識が朦朧としてきた。
痺れを切らした服部がポーションを開けて口の注ぎ込んでくる。咽せそうになりながら飲み干すと、血は止まり、意識もはっきりとしてくる。
今日の探索はここで打ち切ることになった。右腕の肘から先が無くなり、まだろくに使っていない高めの剣も失った。
気持ちを切り替えようとしてもどうにもならない。だって目を開けていれば、肘から先がない腕が目に入る。
明日も探索だ。腕の治療費を稼がなくてはならない。僕は失った剣の代わりに安物の片手剣を調達した。
探索者になりたての頃と同じような剣に逆戻りだ。ついでに腕もない。失ったものが多すぎる現状のせいで、気分はどうしようもないほど悪くなっていた。
そして、これから大事なものをさらに失うことを今はまだ知らない。理由はまあ結局、気分を切り替えられなかったことと言えばいいだろう。
一度締め直した頭のネジがこれからまた吹き飛んでいく。その後に残るのはなにか?これはもがき苦しみ幸福を追求する過程を描いた物語だ。




