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19話、怪我は多く、説明は熱く

 黒い半端な長さの剣。いわゆるバスタードソードでゴブリンの頭蓋を両断した。致命傷を負ったゴブリンに蹴りをお見舞いし、地面に転がす。


 前の折れた剣とは比べ物にならない良い切れ味だ。まあ、前の剣は片手剣でこれはバスタードソードで種類が違うと言うのもある。おまけに両手で振っているし。


 一匹倒したが、三層に出現するゴブリンはスリーマンセル。だからまだ二匹いる。そのうちの一匹、仲間を殺されても一切の動揺を見せない緑のヒトデナシが棍棒を投げつけ、飛び込んできた。さっき倒したゴブリンに気を取られていたので対応が遅れる。


 ゴブリンは器用じゃないので、棍棒は見当違いの方向に飛んでいった。しかし僕の意識が棍棒にそれた。飛び込んできたゴブリンに対して錬金術を発動させる暇がない。


 なので前蹴りで思い切り顎を揺らす。前とは違い、コンバットブーツなので爪先を痛める心配をしなくていい。しかも足先が硬いので威力もある。


 だがゴブリンは人間より高い耐久力を誇る。前蹴り程度ではどこに当てても止められない。つまり後ろに下がる隙もくれない。


 クソ!剣から右手を放して、ゴブリンの目に指を突っ込む。目突きなど真っ当な空手部では教わらない。そして素人が目突きなどしたら・・・・・・。


 突き指だ。興奮状態なので痛くねえが、反応は遅れる。せっかく作った隙が無くなった。ゴブリンが拳を振り上げる。


 諦めねえ。避けてやるよおお!死ぬ気はない。ただゴブリンとの格闘は死んでもおかしくないと言うより、死なない方がおかしい。それは承知。


 だが結果的に僕は死ななかった。ゴブリンの喉元の正面にナイフを持った手が出現。順手に持ったナイフの切先がゴブリンの喉に深々と食い込んだ。


 すぐにナイフは引き抜かれ、血が大噴出。そして打撃音が響く。ゴブリンが地面に転倒。犯人の全身が明らかに!まあ顔は見えていたので全身を見なくてもわかる。


 伊藤さんだ。伊藤さんは表情を一切変えずに、立ち上がって、少しでも人間に危害を加えようとするゴブリンの頭を思い切り、踏んづけた。


 ゴキャっと音がしてゴブリンは力尽きた。頭蓋骨が砕けたのだろう。非力な女性でも屈強な男性を素手で倒せる方法、それこそが頭への踏み付けである。


 身を守る方法としておすすめだ。過剰防衛で逮捕されることを考えなければだが。


 凶暴な戦闘を無表情でこなしてくれた伊藤さんには頭が上がらない。ただ下げているとなんとなく頭蓋が砕けそうな気がする。


 伊藤さんは最初、ゴブリンに近づけなくてナイフという超至近距離での戦闘に長けた武器を活かせずにいた。今では仲間が作った隙に合わせて、飛び込みゴブリンに致命傷を与えている。


 伊藤さん、成長したな。かつて伊藤さんと服部を見限って、一人で迷宮に潜り大怪我したことを恥じる。いや今は戦闘中だぞ!回想は後にして戦況を確認する。


 中村さんが手か放水する。飛距離は十メートルにも達しそうなほど。水量はバケツにも勝る。目標はゴブリン。


 ゴブリンの醜悪な顔が水で洗い流される。そして現れるのは、やはり不細工な緑の面だ。何もきれいになっていない。


 怯んだゴブリンの首が袈裟懸けに振り下ろされた刀で切り落とされる。ゴブリンを斬首したのは服部だ。以前の服部なら首を切り落とそうとしても途中で止まっただろう。中村さんも的確に魔術でみんなを支援している。判断に迷いがなくなってきた。


 みんな成長している。仲間の成長を誇らしく思いながら、最下級ポーションを服用して突き指を治す。


 「金剛寺殿。またケガしたでござるか。いつか死ぬでござるよ。」


 僕の方に歩いてきた服部があきれたような声で僕の怪我にコメントする。これには言い返せない。本当にいつか死にそうだからだ。何よりポーションがもったいない。高いんだよ。これ。


 ポーションの値段について心の中で文句をつけつつ、みんなで死体を中村さんのアイテムポーチに詰め込んでいく。


 「まだ容量に余裕あるね。服部君のポーチもあるし、あと一回戦っていくかい?」


 中村さんの軽い口調。最初の頃は戦うことに抵抗感があったのに。恐怖心が薄れている。良くも悪くも本当に変わった。


 そして変わったのは装備もだ。服部がアイテムポーチを買った。中村さんのより安くて容量が少ないがそれでも探索の効率は明確に向上する。


 服部は武器や服などの装備の充実を後回しにしてアイテムポーチを買ったのだ。みんなのことを考えたお金の使い方である。流石、服部。前科者の中では最上位の人格者だ。


 僕のお金の決して少なくない量をこの黒いバスタードソードとコンバットブーツに注ぎ込んだ。この黒い剣は着色したわけではない。素材本来の色だ。


 黒鉄とかいう迷宮から取れる胡散臭くて、鉄より頑丈で良い刃がつく、ちょっとお高めの金属が主成分の合金が材料である。コンバットブーツは大量生産されているが確かな品質の一品。


 残った額は貯金だ。いざという時のために取っておこうと考えている。さてもうひと稼ぎだ。みんなで警戒を怠らず歩いていると、微かな足音がいくつも聞こえてきた。


 狼だ。全部で五匹。こいつらを始末し、換金してやる。数が多いので派手に行こうか。錬金術を発動させる。


 作るのは日本において最も代表的な産業用ロボット。人間の腕に仕組みを似せたが、見た目は明確に異なる。腕にしては丸みの多い重そうな形状。


 よく自動車の製造に使用されるロボットアームと呼ばれる機械。ただしアタッチメントは鋭い爪、作るようじゃなくて壊すようだからなあ。


 人間の腕より遥かに巨大なロボットアームで狼の群れのいる方向を薙いだ。当たれば群れごと一網打尽。


 まあ当たればの話だが。いとも簡単に避けられてしまった。関節の自由度が蛇型ロボットよりも低いため操作がしやすく、力も強いのでやれるかと思ったのに。


 そしてさらに悪いことに魔力を全て使い切った。なので今使えるのは純粋な剣技。向かってくる狼の顎を蹴りで上に揺らし、怯んだところで斜めから剣で叩き斬る。


 道連れにされないよう一歩下がれば、次の狼が襲ってくる。横から伊藤さんが狼の頚動脈に左手に持ったナイフを滑らす。狼の首から血が噴出。止めに右手に持ったナイフで狼の目を貫く。


 腰を回して、繰り出されたその一撃は狼の動きを止めるのに十分な威力があった。順手なので剣道の片手突きに近い動き。


 ナイフで初心者卒業レベルの剣技を披露した伊藤さんは、そそくさと後ろに下がっていく。残り三匹の狼たちは警戒しつつ、足並みを揃えてジリジリと接近。


 僕の錬金術は使用できないし、服部と伊藤さんは遠距離攻撃の手段を持っていない。だからこういう時は・・・・・・。

  

 いつものことだから振り向く必要もなし。次の瞬間、狼の顔が水でびしゃびしゃになる。中村さんの放水だ。そして出しっぱなしにして次の狼の顔に水をぶっかけていく。


 隙を見せた狼共に、伊藤さんと服部と共に飛び込んでいく。一人一殺だ!金えええええ!僕らはモフモフの狼達を皆殺しにした。動機?金だよ。


 僕たちは今日仕留めた数多のモンスター達の査定が終わるのを待っている。暇なので当然のように会話が始まる。


 「金剛寺殿。あのメカメカしい腕はなんでござるか?なんか使い物になっていなかったように見えるでござる。発動遅いし。」

 

 「あれはなあ。ロボットアームだよ。」

 

 「あれロボットなんでござるか?ロボットって人型ではないでござるか?」


 おいおい。嘘だろ。服部、人型ロボットなんてほとんど作られていない。今の技術では実用化は難しいのだ。それくらい中学生でも知っているぞ。


 ロボットに対する知識は中学生にも劣る服部とロボット談義を繰り広げた。途中で会話に混じった中村さんもロボットアームを知らないことが発覚。


 まあ中村さんは世代が違うから仕方がない。理系にもコミュニケーション能力が強く求められている今、エンジニアは機械の事前知識がない人にもわかりやすい説明ができなければいけない。

 

 説明が下手なやつはエンジニア失格だ!逮捕されて失業したのでとっくにエンジニア失格だったということは忘れて解説に熱を入れた。


 「ロボットアームは日本がまだトップに立てている数少ない産業であり・・・・・・。」


 背中を軽く叩かれる。ああ、なんだよ?振り向くと、無表情な顔が僕の目をじっと見つめていた。い、伊藤さん。


 「査定終わった。受付行く。」


 その短い言葉には怒りが込められている。声もいつもより冷たい。僕たちはうんうん頷きながら受付へ早足で向かった。


 受付で査定が終わった。今日も命を賭けて、それなりに稼いだ。さあ帰るか。


 「金剛寺さんにはこちらの封筒をお渡しします。よく読んでください。」


 え?なに、この茶封筒。重要書類とか書かれているけど。ちらっと受付の人を見る。受付の人の表情はゴミを見るような感じだ。あまり良いものは入ってなさそう。


 不安を感じながら漫画喫茶へと帰る。漫画喫茶に帰って即座に書類を確認。・・・・・・ああ、すっかり忘れてた。髪をガシガシとかきむしった。

 

  

 

 


 

 



 


 


 


 


 

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