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2話、罪は重く、財布は軽く

 「愚かな選択で人生を台無しにしましたね。」


 リア充はつぶやいた。男前ないい声をしているが、そんなことはどうでもいい。今こいつに組み伏せられているからな。


 すごい力だ。さっきから腕に噛み付いたり、指に噛み付いたりしているが闘気術で身体を硬化させているので全く効いていない。逃れられねえ。とりあえずリア充のムカつく発言に言い返す。


 「んなこたわかっているよ!会社でうまくいってないからな。ストレス溜まってんだよ。」


 「どうせうまくいってないのも自業自得なんでしょう。」


 「手を抜いたことはない!」


 「だったらうまく行くはずですよ。」


 知ったふうな口を!学費も偏差値も民度も高い学校に通っているエリート様に何がわかる!

 

 「本気を出していてもできない奴はできない!努力すれば簡単に人並み以上にできる才能のある奴には言われたくない!」


 「それはやり方が間違っているんじゃないですか?自分に合った方法を見つけられないあなたの調査不足ですよ。結局何も考えずに仕事してるんなら努力していていないのと大差ないですよ。」


 「アアアアアアアアアアアアアア!グオオオオ!ガアアアアアアアアアアア!」


 僕は緩んでいた頭のネジが外れて発狂した。リア充の顔を一発殴ってやりたくて暴れるがリア充の拘束に隙はなかった。


 「そこからパトカーが来て連れてかれて起訴されて刑務所にぶち込まれて今に至る。僕はこんな感じ。服部君はどんな感じよ?」


 ここは東京にある刑務所。そう僕は傷害罪で合計一年はここにいないといけない。目の前にいるのは一緒によくおしゃべりをする受刑者の服部だ。


 「拙者思うのでござるが、おそらく金剛寺殿を捕まえたのは拙者を捕まえたのと同じ少年でござる。」


 服部は女子の平均身長を少し下回り、均整の取れた華奢な肉体を持つ二十歳の男性だ。今は剃られているが、淡い水色の髪に銀色の瞳と覚えやすい容姿だ。


 髪が剃られている以外に容姿で残念なところを挙げるとすれば、それは目に寝ても消えないクマがあることだ。垂れ目で優しそうで快活そうな顔なのにクマがあるせいで不気味な雰囲気が形成されてしまっている。


 「拙者がこの刑務所に来る前のことをこれからお話しするでござる。」


 忍者みてえな口調はいじめられた時、苗字が服部なので忍者みたいに話せと言われたことに由来する。いじめられた期間が長かったのですっかり定着してしまったらしい。


 「非正規雇用だったので簡単に会社にクビを切られて・・・・・・。」


 「休憩時間終わりだぞおお!」


 刑務官の怒鳴り声が響いた。服部の話を聞けるのはいつになるのか。結構、気になるのでできれば早く聞きたい。服部と僕は肩を落として刑務作業をする工房に移動した。


 工房で受刑者達が黙々と小刀を作っている。この小刀は金属製ではない。ダンジョンで倒されたモンスターの素材から作られている。たしか・・・・・・。


 「この小刀ってどんなモンスターの素材だっけ?」


 「でかいモグラの爪だよ。」


 受刑者達が小さい声で喋る。しかしその声はしっかり刑務官に聞こえていた。


 「喋るな!」


 怒鳴り声が響く。たまに懲罰で八時間だっけ?とにかく長時間正座させられることもある。世間話しただけで。なので僕はできる限りルールを破らず過ごしている。

 

 そうか。思い出した。この小刀の素材は藤沢の迷宮の四層などに出没するでかいモグラの爪だ。このモグラの爪は高級な炭素鋼よりも鋭く、軽い。


 僕達はこれを磨いてハンドルをつけて、錬金術でエンチャントして品質を上げるのだ。毎日これを作るので飽きるし、刑務作業で得られる金は刑期が長くても数万円。


 安すぎる。刑務作業の報酬は出所した後の生活に役立てる目的で出されている。しかしこんな子どものお年玉と大差ない端金では不十分だと思う。


 とはいえ出所後に金が全くないよりはマシなのでなんか問題を起こすなどして取り上げられて発狂するということもある。問題と言ってもちょっとしたことで問題扱いされるので一挙一動に気を使わないと。


 毎日、過酷なので時間はゆっくりとしかし確実に過ぎていく。夏場にも週三回しか風呂に入れないので臭い受刑者達の悪臭に鼻をつまんだ。


 食事の量で揉めて刑務官に組み伏せられる受刑者。ストレスの溜まる生活では食事の量が少ないだけで腹が立つ。気持ちはわかる。


 一月に一度、髪を丸刈にされる。丸刈りの方が衛生的ってのはわかるけど心まで丸刈りになりそうだからどうにかならんものか。


 「風呂は一回一五分だぞ!」


 刑務官の怒声。週三回しかないんだからもっとゆっくり入らせろ!あとトイレ行くにも許可とらなきゃいけないのが嫌だ。


 クソがアアアアアアア!僕は飛び起きて目をかっぴらいて大きく呼吸する。あれ?刑務所じゃない。知らない天井だった。


 いや待て。知っている天井だ。そうだ。僕はこの前、出所して就職、資金、住居、何かと困ることの多い前科者を支援してくれる団体に今お世話になっているのだ。

 

 そして今日も日雇いの仕事で金を稼ぎ、探索者になった時の装備などを買う費用の足しにするのだ。とうとう命を賭け金にしなければいけない時が来た。


 僕が会社に居場所がなくても所属していた理由は探索者になりたくなかったからだ。別に荒っぽいのが嫌なのではない。命がなくなるかもしれないのが嫌だ。


 僕は安定志向なのだ。しかし日雇いで一生を過ごすには資金面に不安がある。そうなると金策のスタイルも変化する。故に一生暮らせるだけの金を探索で稼ごうという魂胆だ。


 正気ではない。そして他の探索者も間違いなく、くせ者揃い。これからアクセルベタ踏みで頭のネジが徐々に音を立てて吹っ飛んでいくような生活が始まりを迎えていた。

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