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18話 声は汚く、自信は低く

 「話を聞きますよ。中村さん。」


 中村さんの言うことが理解できなかった。宝来をすぐに追い越せるとはどういうことなのか?そこがどうしてもわからない。


 わからないが中村さんはテキトーなことを言わない。中村さんは険しい顔ではっきりと話を再開する。その話し方にやましさはかけらも含まていなかった。


 「いいかい?まず君が嫌いな宝来君は土曜日にしか探索していない。それは知っているね?」


 「・・・・・・初耳なんですけど。」


 あいつ週一で探索してたのか。宝来のことなんて聞きたくもなかったので耳に入れないようにしていた。中村さんは頭をかいて、目をつぶった。すぐに目を開けなおして話を戻す。


 「宝来君のことを知りたくもなかったんだね。とにかくだ。週四で探索している私達のパーティーなら土曜日にしか戦っていない宝来君のことをたやすく追い越せるはずだ。」


 「そんなことはありませんよ!宝来の野郎は才能にあふれている。週一で戦っているあいつに対して僕が、週四で戦っていたら追い付けないことは全く不思議じゃない!だから今だって少し多めに迷宮に潜っているんですよ!」


 中村さんは下を向いてか細いうなり声をあげる。中村さんは黙っていた。しかし僕には声が届く。・・・・・・声の主は伊藤さんか。


 「週四でも多い。週六はやりすぎ。」


 そうかな?一日八時間で週六なら、ちょっと厳しい会社勤めと大差ないと思うが。まあ、たしかに僕の会社は八時間労働で完全週休二日であんまり残業もなかった。


 かつての恵まれていた待遇を思い返す。でも結局居心地が悪かった。今も居心地はよくない。むしろこの瞬間に限れば会社より酷い。一番怖かった服部が口を開ける。また怒鳴るのか?


 「金剛寺殿は強くなったでござるよ。ゴブリンの懐に潜り込めるのはすごいし、蹴りのキレもいいでござる。」


 あれ?なんか褒められている。しかし服部の表情は守銭奴の財布の紐くらい固い。とてもじゃないが穏やかな気分にはなれない。


 「今、宝来が何層で探索していると思うでござる?」


 ほら、急に話題が変わった。えっと宝来が今、迷宮の何層で探索しているか?宝来の実力から考えると大もぐらだって倒せるから四層?いや仲間がいるから気を遣って三層?これか?


 「三層?」

 

 「一層でござる。」


 え?一層。そんなことある?その思考が顔にも出ていたのだろう。服部が頷き、話は続く。


 「金剛寺殿なら一人で一層に潜れるし、拙者達となら二層で仕事ができる。焦らなくていいでござる。」


 「そんなっ、悠長なことは。」

 

 「ッ!金剛寺殿、お前の人生を刑務所で聞いたが焦って失敗ばかり。今のお前は勝ちたいんじゃない。気を紛らわしたいんだ。勝ちたいなら無理をするな!」

 

 服部の指摘で今までの人生が目に浮かぶ。アルファベットもわからないのに、みんなが先に進んでいるからと言って英単語を覚えようとした。もちろん無理だった。


 友達を作ろうとして誰彼構わず、話しかけていたら悪目立ちしてしまい敵を作りすぎてしまった。会社で会議五分前より少し早く着こうと張り切って準備、数秒後には手を滑らせて会社のノートパソコンが床に叩きつけられ大破。


 わかっているんだ。焦ったらダメなのに。わかっているのに急いでしまう。頭を抱えて、顎がガタガタと震える。自分が失敗したことを許せないのだ。


 恥ずかしいような、自分に呆れたような、否定されているような、あるいはそれら全部をぐちゃぐちゃに混ぜ込んだような。


 こうなるのはそれなり以上の失敗をした時。何回も失敗してその度に自信を失う。そんな時、助けてくれた人たちとは刑務所に入った後は会っていない。だからもう頼れる人はいないのだ。


 「壮悟君。君は無理をしなくても勝てる。勝つなら失うものは少ない方がいい。宝来君と決闘するなら、私から宝来君に頼んでもいい。その方が印象がいいだろう。」


 「仲間だから。死んでほしくない。」


 「本当は決闘もしてほしくないでござるが、仕方ないでござるな。協力するでござる。不本意だけど。」


 いや違う。頼れる人はいた。中村さん、伊藤さん、服部。一度、僕は全てを失った。なら新しい出会いを大事にしなくてはいけないのだろう。


 「みんなっ、有難う。もうっ、もう無茶はしない。」


 涙と鼻水で顔だけでなく声まで汚くなる。それでもみんなは小学校の同級生のように嘲ったり、無視したりしない。それは当たり前のようでかけがえのないことだ。


 僕は一歩前に進めた気がする。そしてこの三日後に僕達のパーティも別の意味で一歩踏み出すことを決めた。


 迷宮三層の探索。ゴブリンは三匹、狼は五匹の群れで行動し、探索者を襲撃。二層ではゴブリンが二匹、狼が三匹なので数は増えている。


 そして何よりアレが出る。黒くて、とにかくでかい。女性の平均身長よりちょっと低いくらいの細長いカラスだ。


 痩せているところは現代女性と一緒だ。怖いところも一緒だが方向性が違う。ツルカラスと呼ばれるその魔物は空から奇襲を仕掛けて、鋭い爪で喉を掻き切り、腕を切り落とす。


 では探索者はツルカラスとしたくないと思っているか?そうとは言い切れない。羽毛がそれなりの値段で取引されているので仕留めたら、財布はホクホク。失敗したら・・・・・・。腕やら首やらが生暖かくなるだろうな。


 されど僕達は先に進まなければならない。迷宮三層だろうが、高収入をちらつかされれば飛び込んでしまう。


 そんなよくいる探索者達の例に僕達も当てはまる。理性の言うことを精一杯聞き流す、僕達の探索に明日はあるだろうか?



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