16話、眠りは浅く、怪我は深く
宝来に喧嘩で負けてから二週間が経った。朝から昼はパーティで迷宮の二層に潜り、そのあとは一層でゴブリンを狩り続ける。
パーティのみんなには内緒だ。一人で無茶すんなと言われるかもしれないからな。ただ人より多く頑張っていることをアピールしたいという歪んだ承認欲求もある。そんなものは無視だ。
頑張っていると言っても一日八時間しか迷宮にいない。空き時間には漫画喫茶のパソコンで探索者向けの動画を見て楽しんでいる。そんなに無理はしてない。
片手剣の扱い、モンスターにも使える体術、錬金術で料理。色んな動画を見た。動画から錬金術は情熱で効果が強まり、イメージで適切に物体を生成すると学べた。
じゃあ作り慣れた好きなもんを作るのが正解なのか。そういうわけでゴブリンの死体を横目に、ピザトーストを食らう。悪くない。
チーズにコクが少し足りず、食パンの焼き加減も満点とはいかず、ハムも少々パサついている。マヨネーズや玉ねぎにも文句をつけたいが、言い出したらキリがない。
68点のピザトーストを食べ終わったら、消費した魔力を補う。リュックを地面に置いてチャックを開ける。リュックに手を突っ込んで注射器を取り出した。続けて注射器を首筋にブッ刺してピストンを押す。
絵面が酷いがこれが魔力回復薬の摂取方法だ。脳みそに熱い液体が流れていくような感覚。それだけ聞くと危ない薬に聞こえるだろう?
安心しなくていい。本当に危ない薬だ。魔力を使うと脳みそがが酷使される。そして魔力を補給。また、たくさん使う。
それを繰り返すと頭が疲れて凶暴化、認知症、うつ病などさまざまな病気にかかりやすくなる。危ない薬だが有用性は高い。使用限度は原則一日五回。それを破ったり守ったりしながら使っている。
多少危険でも魔法を使えないと死ぬ時があるから、金を稼ぎたいから。くだらない。だが僕はもっとくだらない。喧嘩に勝ちたくてこの薬を打つのだから。ゴブリンの死体を運んで、また戻ってゴブリンを殺す。今日もそれの繰り返しだった。
そんな毎日を送っていれば優しい誰かがおせっかいを焼くこともある。
「ゴブリンを十八匹ですか。今日も多いですね。身体に気をつけてください。」
それ以上は踏み込んでこなかった。まあ身体には気を使っている。たくさん食べてたくさん寝ているから大丈夫だ。宝来を倒すためには健康でなきゃ!
次の瞬間には宝来が僕のことを見下ろしていた。負けたのか?またか?またなのか!暗い闇の中に僕が吸い込まれていく。いやだ!いやだ!
アラームが鳴り響いた。漫画喫茶のマットの上だ。夢か。アイマスクを外すと目につけっぱなしの漫画喫茶の照明の光が目に降り注ぐ。眠い。悪い夢を見たのにもう一回寝たい。
寝てる間も消えない照明を鬱陶しく思いつつスマートフォンのアラームを消して時刻を見る。・・・・・・起きよう。もう9時だ。探索は午前10時集合だ。支度して迷宮にいこう。
漫画喫茶で頼んだ、チーズカツカレーとグリーンサラダをほおばりながら疑問を抱く、昨日は午後8時には寝たはずだ。なのにまだ眠い。最近どんどん睡眠時間が伸びている。今日は30分早く寝るか?
喧嘩で負けてストレスを感じているから睡眠に障害が出ている?じゃあ勝つまでか?起きられません勝つまでは。上等だ。
勝ってやるよ。心に誓ってチーズカツカレーとグリーンサラダを完食して漫画喫茶を出る。この贅沢かつボリューミーな朝食は探索のための肉体を作る。そして宝来を打倒するのだ。
パーティメンバーと共に二層に到達。野生的かつ美しい木々、そのまま飲めるくらい綺麗な小川、醜いツラをしたゴブリン。しかも二匹。疑いなくゴブリンが景観を台無しにしている。
殺そう。殺意で眠気を吹き飛ばして少し仲間と距離が離れているゴブリンに斬りかかる。対するゴブリンも僕を生かす気は微塵もないようで、僕の斬撃に合わせて棍棒を剣に叩きつけた。
色々折れた。一目でわかるのは僕の安っぽい片手剣。レントゲンを取らないと見えないのは僕の骨。見えないけど感覚からして折れてる。端的に言うと腕も剣もダメになった。
音も匂いも感じない。喪失感からか大事なものが抜け落ちていく。下手をすれば命すらも。いいや。僕は死なぬ!
折れた片手剣が地面に落ちる。握る力は残っていなかった。発動した動体視力強化でゴブリンの攻撃を見切る。乱雑かつ高速の連打を紙一重で回避し続ける。
その間にナイフともうひとつの武器を錬金術で作り上げる。手の中でうごめくナイフになろうとしているものはゴブリンにじっくり見られている。
わざと見させている。ナイフが出来上がったのでゴブリンの喉目掛けて振るう。ナイフは喉ではなく棍棒に傷をつけただけに終わった。ナイフは。
ゴブリンの顎から刃を引き抜く。その刃がついているのは僕の靴だ。引き抜いてすぐにゴブリンの血がダバダバと蛇口を捻ったように溢れ出る。
汚ねえな。来るんじゃねえ。血まみれのゴブリンが大人しく死なずに近づいてきたので、蹴っ飛ばした。
映画ではゾンビだって脳壊せば、その瞬間に動かなくなるのにな。現実はこうだから何もかも捨てて逃げ出したくなる。
ゴブリンの死亡を確認しつつ、周囲の状況も目に収めた。もう一匹のゴブリンはこんがり焼けてステーキのような香りを放っていた。
実際ゴブリンの肉は安いのでよくステーキになっている。ちょっとパサついていて旨みも少ないので虚しい気持ちになる人も多い。
中村さん。また焦がしたか。中村さんは基本の魔術を愚直に磨き抜いてきた。しかし戦闘経験までは積み重ねられなかった。
それゆえに失敗した時の代償がでかい。そう偉そうに心の中でぼやく僕もどでかい失敗をした。怪我を治さなくては。
無事な方の手で取り出したプロテインをがぶ飲みし、続けて下級ポーションをがぶ飲みする。腕が熱い。冷やした手にお湯をぶっかけているようだ。
回復には体力を使う。だからかな。頭がふらついて、力を入れるのもだるい。気づけば意識がなくなっていた。




