15話、魔力は惜しく、命も惜しく
服部には探索より喧嘩の方が大事なのかと怒られた。正直そっちの方が大事だったが、そんなこと言えるはずがない。怒りで我を忘れたと言い訳した。
伊藤さんは何も言わなかったが、それはそれで怖かった。中村さんには喧嘩を売ってはいけないと嗜められた。静かな口調には僕の間違いを正そうとする確かな意志を感じた。
どうにかしてみんなに迷惑をかけないように宝来に喧嘩を売りたい。そもそも配慮して喧嘩を売ることも難しいが、今のままでは宝来に勝てる確率は低い。
もっと強くならなくては。力を求め、この一週間で新たな技を編み出した。ゴブリンの顎に蹴りを入れて、素早く足を引き戻す。次の瞬間、ゴブリンの顎からは血が滝のように流出する。
ゴブリンに出血大サービスを強要させたこの技の種と仕掛けはシンプルだ。まず靴の爪先に錬金術で生成した刃を貼り付けて固定させる。次に蹴り込んでゴブリンの顎に刃を通して、脳みそまで貫く。致命傷だが生物というのはすぐには死なない。追加で蹴りを入れて地面に転倒させた。
脳みそを貫くような反則どころでは済まず、投獄されるような技は人間には使えんが、蹴りの練習にはなる。蹴りが上手くなれば宝来に勝てるかもしれない。いや今はそんなこと考えてる場合じゃない。戦闘中だ。
服部と二匹目のゴブリンが武器をぶつけ合い激しい攻防を繰り広げていた。時々伊藤さんが割り込んで隙を作ろうとするも、うまくいかない。
伊藤さんが後退したのを見計らって僕が正面に出る。前持って初めていた生成が完了した。剣を振り上げると見せかけて、懐に飛び込み後ろ手で生成した小ぶりなナイフで喉元を掻き切った。
油断せず膝蹴りも入れてゴブリンを地面に倒す。警戒しながら、後ろに素早く下がる。注意しないとな。ほら、立ち上がった。
ゴブリンが棍棒を高く掲げて突撃してくる。旧日本軍かな?人が逃げるよりゴブリンが追う方が速い。だから退かない。代わりに進む。ただ途中で停止はさせてもらう。
ゴブリンはもっと僕が前進すると思っていた。だから棍棒は届かない。棍棒が下がり防御も攻撃も間に合わないゴブリンの頭をひと突き。おまけに押し込むように胴体を蹴って、剣を引き抜く。
よし、もう動かないな。中村さんのアイテムポーチはもう満杯なので、服部と僕で一匹ずつゴブリンを担いだ。
レベルが上がったせいか筋肉がついたせいか前より少し軽く感じる。宝来に喧嘩で負けた後、ギルドの機械でレベルを測定したら5だった。
ギルドのレベル測定機械は一回500円払えば誰でも使用できる。感覚としては証明写真の機械とかと似たような感じだ。普段は使わないけど使う時はたまにあるみたいな。
レベルアップは魔物を倒した時に出る不可視の物質が身体に吸収されるというものらしい。その身体に溜まった胡散臭い物質を測定できる画期的な機械がレベル測定機械。本当はもっと長ったらしい正式名称があるが、そんなものは覚えてられん。
結論を言うと僕の身体には最近、突然現れた未知の物質が少量含まれていることになる。そのおかげで若干強くなったというわけだ。
ギルドに戻って今日倒したモンスターの死骸の一括査定だ。朝9時に迷宮に入ってまだ午後3時にもなっていないが、これで今日の探索はおしまいだ。
一日八時間も働いていないが、これは普通だ。命をかけた肉体労働なのでみんな万全を期すため短く働く。
「壮悟くん。最近、戦い方が変わってるけど何かあったのかい?前は銃弾みたいなの使ってたけど、最近は近づいて戦ってるね。」
中村さんだ。最近は敬語を使わなくなった。仲間になって少し時間が経ったからだろう。お互いのことが少しわかってきた。見透かされないように気をつけて答える。
「この前の喧嘩で自分は接近戦が弱点だと思ったのでそこを潰したくて。」
「接近戦なら伊藤さんや服部くんに任せるもいいんじゃないかい?確かに今は君が一番前衛をこなせるけどね。それでは前衛が多すぎる。後ろから銃弾を打ち込む方がいいんじゃない?」
「いやそれはちょっと・・・・・・。」
「やっぱり気にしてるんだね。この前、喧嘩して負けたことを。」
まずい。気づかれている。どうしようかと思案した。こういう時は焦ると大抵余計なことを言ってしまうので黙る。
「気にしていてもいいんだよ。ただプライドよりも大事なことがあることを忘れないでほしい。」
わかってる。でも理屈じゃないんだ。勝たなきゃ前に進めない。だから理屈を捨てた。モンスターの買取が終わり、みんなで山分けして解散だ。
さて、もう一仕事しますか。僕は再び迷宮に向かう。今度は一人で。迷宮に入り、慎重に歩を進める。
しばらく歩いてもゴブリンは姿を見せない。まずい。このままだと道がわからなくなる。その前にゴブリンを殺害して死体を持ち帰らねば。
焦燥に駆られていると落ち葉を踏む音が聞こえた。来る!棍棒を肩に担いだ全身緑色の小人が現れた。全身緑なので森に溶け込みやすく、すぐ近くにいても気づかず、殺されるマヌケもいる。
ゴブリンめ、ぶっ殺してやる!すぐさま抜剣して斬りかかる。ゴブリンは怯まず、唸り声を全開にして棍棒を頭の上に構えて走り出す。
魔力はできるだけ節約したいが、ゴブリンは手強い。出し惜しみの代償は命で払うことになるだろう。今は仲間もいないしな。
ゴブリンの棍棒を剣を合わせて受け流す。ゴブリンの力任せの連打は速く重い。しかし雑なのでなんんとか対応可能。
動体視力強化で動きは見切れるが、このままでは体力が持たない。だから錬金術に頼る。
次の瞬間ゴブリンは喉から生命以上に必要な液体を、もったいないことに地面に大量に染み込ませる。
地面は大喜びだ。血はいい養分になるだろう。いや別に地面に意思はないし、栄養たっぷりでも嬉しくないかな?
ナイフで喉を掻き切った後にゴブリンに蹴りを入れて、体勢を崩すのも忘れない。しかしゴブリンは反動をつけて前に飛び込んでくる。
全体重を載せた全力での棍棒の振り下ろし、剣は重くて速く動かせない。ナイフの方が速い!逆手に持ったナイフを棍棒に回り込むように当てて逸らす。
棍棒は僕の肩を掠めて空を切る。その隙を逃さず、ゴブリンの頭に刃を食い込ませる。間髪入れず、蹴りでゴブリンの身体を強く押す。
油断はできない。倒れ込んだゴブリンをよく観察する。なにせモンスターは死ぬ直前でも人間を殺すことを諦めない。一貫している。
コロコロ主張が変わる日本の政治家も、モンスターみたいに死ぬ覚悟で頑張ってくれないだろうか。いや、一つの目標のために全てを犠牲にされたら嫌だな。撤回しよう。
ゴブリンは息絶えている。安心した僕は錬金術でパンケーキを創り出した。服部の真似だ。やっぱり服部のより焼き目が汚いな。
微かな不満を持ちつつもパンケーキに齧り付く。うーん、あんまりふわふわしてないな。美味しいけど店でこれが出てきたら期待外れだ。僕はここ一週間で毎日食べているから期待しない。
満足感と共に今日の戦闘で失った体力が戻ってくる。視界は鮮明に、森の匂いはより強く、聴覚は鋭敏に、身体は重りを外したかのようだ。
服部のパンケーキの下位互換を食べたら、さっさとゴブリンを担いでギルドに戻らねば。ゴブリンを担いで僕は歩き出した。ところで道どっちだったけ?
この後、森を彷徨い、死体の運搬中に新手のゴブリンに対処し疲労困憊でギルドに帰還した。




