13話、剣は拙く、魔力も低く
あいつだ。僕を取り押さえて逃走を阻止したやつだ。そのせいで僕は刑務所に入った。僕が嫌いな奴ランキング一位だ。
そんな一位様の身長はまた伸びてる。もう伸びなくていいよ。なんとも強そうな見た目だがレベルは0だろう。何せ今日探索者になったばかり、中学卒業と同時に迷宮に潜れるようになったのは一ヶ月前だ。
国が若者の貧困対策とか言って迷宮への入場可能年齢を18歳以上から引き下げたのだ。とんでもねえ話である。
そんなことする前にもっと別のことをしろよ。今の日本では生活保護を受給してもらおうと役所に行けば探索者を勧められ、仕事をもらおうとハロワークに行っても探索者を勧められるだけだ。雑すぎる。
中学卒業が迷宮に入場できる条件なので中学を卒業したばかりのあいつがパワーレベリングをしている可能性は低い。補足するとレベルが上がれば、なんと寿命や知能指数まで上がるのでパワーレベリングを行う業者が多いのだ。あんなのは金持ちのためのもんだ。僕はやったことない。
しかしあいつレベリングサービスを受けるわけでもなく探索者になろうとしてんのか?自分でレベルくらい上げられますってか?目障りだな。腰に差した刀も服部のそれより遥かに上物で、少しリーチも長い。
あいつは才能あるし、金あるし、彼女いるし、探索を楽しみそうだ。もう欲しいもん全部持ってる。
弱者に厳しい社会情勢とヘイトをガンガン稼いでくるイケメンの足を引っ張ることを考えながら歩を進め、憤りのままに奴の前に立ちはだかる。僕を気にも留めないヤツが此方へ気づくよりも速く、思い切り肩をぶち当てた。
あいつは少しよろめいて僕の方を向いた。少しよろめいたことから身体能力の差はそこまでないか?足りない頭で僕が分析しているとイケメン君は唖然とした顔をしていた。何か言われる前に僕は口を開いて唾が飛ぶ勢いで相手を煽る。
「おいおい迷宮はカップルがいちゃつく場じゃねえぞ!大人しく美術館にでも行ってこいよ!」
「何ですか?いきなり・・・・・・あなたは!」
「そうだよ!駅前でお前に逮捕された会社員だよ!」
ようやく気付いたか。まあ久しぶりだし体型変わったし仕方がないな。一位様が僕を睨みつけて冷ややかに言い返す。
「刑務所は心を変えるために行く場所ですが、あなたは体型しか変わらなかったようですね。残念です。」
イケメン様は頭を痛そうに抑えて首を振って皮肉たっぷりに返してきた。怒りで単調なことしか言えなかった。
「うるせえ。二度と刑務所には入んねえよ」
「その割には喧嘩腰ですね。」
「ああそうだよ!喧嘩してえんだよ!探索者ギルドではな、訓練場での決闘が許可されてんだよ。有名だから聞いたことあるだろ。」
そう探索者ギルドでは、合意の上で決闘が可能だ。探索者同士で揉めて迷宮での暗殺が社会問題になったので、仕方なく、本当に仕方なくルールを施設で規定しての決闘が渋々許されている。
「確かこの施設では打撃格闘、それに各種トレーニング用武器でのスポーツチャンバラでしたね。」
今日来たばっかだろうによく覚えている。そして全く動揺していない。怒りの炎に油がリットルで注がれていく。もういい。殴り倒してやるよ。
「打撃格闘にしないか?」
「こっちは受ける気ないんですけど。あとあなた空手やってたとか言ってませんでした?それじゃやるとしたらこっちが不利でしょ。得意なものでしか勝負できないんですか?」
「いや受けろよ!お前の方が背は10センチ以上高えだろ。それに刑務所で体力は落ちた。勝ち狙えるだろ!」
「刑務所は自業自得でしょう。受けませんよ。」
「まあな、あのヤンキーは足首とスネが折れたみたいだからな。ムカつくだけであそこまでやることはなかった。だがな僕は感情に任せて生きている。その場の感情が大事だ。その点スポーツチャンバラじゃ生ぬるいだろ。スポーツチャンバラじゃ痛くないだろ。一発で終いだし。感情が爆発しない。」
「何言ってるんですか?野蛮ですね。殴ることでしか決着をつけられないんですか?」
「ああそうだ。何を恐れることがある。お前は一度、僕を制圧しただろ。怖えのか?それとも何だ?実は剣道部なので剣で戦いたいとかか?」
「別に怖くはない、むしろ滑稽なくらいです。しかしよく分かりましたね。僕は剣道部ですよ。頭の足りないあなたにしてはよくわかりました。」
まじか。刀が武器だったから何となく適当言っただけなのに。皮肉が余計だが好都合だ。あとイケメン君に悪口を言ってのこのままじゃ何も進まない。美少女はどうだ。隙があるか?試してみるしかない。
「剣道部だから剣で勝負ってのは得意なところで勝負しようとしてんだろ。僕と同じだ。あとそこの嬢ちゃん。怖いのかい?迷宮はもっと怖いぞ。探索者向いてねえんじゃねえの?」
美少女は僕を鋭く睨みつけた。僕を怖がっている様子はない。残念だ。美少女に気を遣って喧嘩に発展できないか試したんだがな。どうすればこのイケメンと喧嘩できる?
「彼女のことは関係ないでしょう。それにあなたは剣士ですよね?お互い剣士ならそれで公平じゃないですか?」
ああそういや僕は片手剣使ってるんだな。でも剣士だと思われたくない。なので僕は剣士であることを否定する。
「いや僕は剣士じゃない。錬金術師だ。」
僕は手の中で暴れ狂う魔力を無理矢理制御する。そして僕は強くイメージする、関節の一つ一つ、金属の光沢、全てだ。
出来上がったのは、関節が何個も連結された、細長い物体。蛇型ロボットだ。それを掴んで、本物の蛇のようにくねらす。
「何ですか?これ。」
「そんなことも知らんの?災害の時とかに狭い場所での探索も行えるロボットだよ。実用化が進んでいるのに知らないの?」
返答に皮肉をたっぷり込めた。ロボットエンジニアを目指していたから僕はその辺の人よりロボットに詳しい。蛇型ロボットは有名だから何回も見る。だから覚えてる。
ロボットエンジニアになるためにしていた努力は探索者になった今でも無駄にはなっていない。多分。パソコンで立体的なモデルを作成していたおかげで錬金術でも物体をイメージするのが早い。
それでも才能ないから普通の人と大差ないのは悲しいが、もう止めるか。蛇は消した。ちっぽけな魔力でこんなもん長時間維持できるかよ。
「というわけで僕は剣士じゃない。お前の学校の校訓は紳士たれだろ。紳士は自分の得意なもんでしか勝負しねえのか?紳士は恋人の前で格好つけるもんじゃねえか?」
「校訓を常に意識する生徒は少ないですよ。何より学校外でそんなこと言われるとは思いませんでしたよ。安いセリフですね。」
そうかよ。駄目だ。乗ってこない。とにかく面倒くささをアピールするくらいしか手段が残っていない。僕は顔を赤く染めて唾を飛ばして強引に語る。
「いいのかよ。初めての迷宮だろう?このままじゃいくら時間が経っても迷宮には入れないぞ。とっとと済ませたくないか?僕はしつこいぞ。お前と喧嘩するためなら手段は選ばない。」
「面倒くさいですね!もういいですよ。あまりの面倒くささにこっちも怒りを抑えきれそうにない。いいですよ。受けますよ。」
僕の粘り勝ちだった。なんとか喧嘩に持ち込めた。そうして僕とイケメンと美少女は訓練場へ向かって歩き出した。




