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10話、徳は高く、不安は強く

 僕が頭を破壊するとゴブリンは限界を迎えて崩れ落ちた。伊藤さんの呼吸の音が大きすぎる。今にも死にそうだ。


 服部はゴブリンが死んだのを見届けて安心したのか木からゆっくり降りてくる。さっき木に飛び移ったやつと同一人物とは思えない。降りてきた服部が伊藤さんに尋ねる。


 「ホットケーキ必要でござるか?」

 

 伊藤さんはまだ声を出せないのか、うんうんと頷く。服部がウェットティッシュを渡して、伊藤さんがそれで手を綺麗にしているうちに服部がホットケーキを生成する。


 そして手を清潔にした伊藤さんがホットケーキを口に入れる。むせそうになりながらも食べ切った。服部はホットケーキを渡した後にゴブリンを足で押しながら刀を抜いた。


 今更気づいたが武器より仲間も体調を優先した判断は服部の優しさを象徴している。そして伊藤さんは体調が戻ったのになんか暗い。


 「・・・・・・何もできなかった。」


 「ゴブリンの注意はひけてたし、最後は走り回って金剛寺殿が攻撃するチャンスを作れたでござる。気にしなくて結構!」


 服部は天使のようだ。ただ僕としては伊藤さんにもっと活躍してほしい。まあ伊藤さんも完全な役立たずじゃない。しばらくは様子を見よう。


 その後、僕たちはゴブリンを受付に渡した。受付でギルドの営業時間の三時間前までは死体を預かってもらえてあとで死体の受付時間中に倒した魔物の代金をまとめてもらえることが判明した。


 クソ、そこ調べてなかった。じゃあいちいち持ち込んで査定を待たなくてもよかったのか。最初に言えよ。探索者ギルドの施設の運営は民間に一任されている。

 

 公務員を使うとコストが高いし融通が効かないので妥当な判断だ。でもこの施設の運営はなってない。任せる会社を間違えたんじゃないか?


 そんな不満は次に遭遇したゴブリンにぶつけた。服部と伊藤さんがいるおかげで本日は負傷せずゴブリンを魔力が尽きるまで狩りまくった。


 おかげで野菜と肉が食えた。銭湯にも行けた。有頂天で湯船に浸かっていると気づく。負傷はしなかったが結構ギリギリだった。いつか死ぬんじゃね?


 「というわけでパーティメンバー増やそう。」


 翌日、集合した伊藤さんと服部にそう提案した。伊藤さんは無言かつ無表情。賛成か反対かは全く分からない。


 「いいんじゃないでござるか?三人パーティは珍しいし、もう1人くらい増やしても。できれば後衛が欲しいでござる。」


 服部は賛成だ。伊藤さんはまだ何も言わない。そこが少し不安だが何も言わないなら仕方ない。パーティメンバーを探そう。


 「少しよろしいですか?」


 小さいがよく通る温厚そうな声が聞こえた。僕はすぐに首を声が下方向に向ける。温かみのあるオレンジ色の瞳のおじいさんが立っていた。小太りで頭髪は若干薄くなっている


 「私は中村 明男あきお。魔法使いなのですが、そちらのパーティに入れてもらえませんでしょうか?」

 

 なるほどそういうことか。仲間に入りたいのか。だがどうみてもこのじいさんは70歳くらいだ。冒険についていけるか不安だ。藤沢樹海は足場が良くない。腰をやるのでは?


 いやでも伊藤さんなんて体力、老人と大差ないし魔術も使えないし。思考が止まらない。しかし数秒後には思考が打ち切られた。


 「いいんじゃないでござるか?なんでも一回やってみるのが大事でござる。」


 前向きだな服部。まあいい。僕もこの前までテロリストでもいいとか思ってた。多少数揃えたからっていきなり選り好みすんのもな。とりあえずやってみよう。


 「服が!僕の服ガアアアア!」


 後悔した。中村さんの火炎放射が僕の服の袖に火をつけた。死ぬ死ぬ!直後、突然冷たくなった。中村さんが放水したのだ。


 何故こうなった?回想する。まずゴブリンに遭遇して僕と服部と伊藤さんでゴブリンと斬り合う。伊藤さんが疲れて動きが止まったところを見逃さずゴブリンが飛びかかる。


 僕が横入りしてる途中で中村さんの火炎放射。咄嗟に身を引くが、炎が掠り服の袖が炎上。ゴブリンも炎上。


 炎上したゴブリンは慌てている最中に服部に頭をかち割られた。僕たちはゴブリンを倒したが、勝ったとはいえない。この焼死体には価値がないからだ。状態が悪すぎる。


 ついでに僕も火傷している。こんな時のために用意しておいた最下級ポーションを飲み干した。火傷が急速に消えていき十秒経たないうちに火傷は完治した。


 ポーションは迷宮出現後の人類史における偉大な発明の一つ。医師、看護師など医療従事者の不足により日本は医療崩壊する予定だったがポーションによりそれは避けられた。


 そのポーションはダンジョンから採取できる薬草が原料なので医療すらもダンジョンに依存せざるを得ない。そして我々、探索者もダンジョンなしでは生きていけない。


 そしてダンジョンで生きていくには足手纏いは切り捨てざるを得ない。死体を丸焼きにするようなやつと一緒にダンジョンには潜れない。


 「中村さん。悪いけど、あなたは・・・・・・。」


 「金剛寺殿、ちょっと待つでござる。」


 服部は僕が何を言いたいか察したようだ、服部は僕より学歴が低いが空気を読む能力は僕より圧倒的に上。


 僕はこの前の失敗もある。服部の方が僕より上手く立ち回れるかもしれない。服部の言い分を聞こう。僕は口を閉じた。


 「中村さん、今日は少し後ろで戦闘を見学して明日以降、戦闘に参加して欲しいでござる。」


 「は、はい。有難うございます!」


 中村さんは感激していた。僕では中村さんに悲しい顔をさせることしかできなかった。これが人徳の差というやつか。僕は自分の醜さを突きつけられて息が止まった。



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