第七話 船旅
魔法書は魔法の教科書みたいな感じです。
雲一つない快晴の海の上を、一艘のボートが走っていた。
ボートに乗っているのは、もちろん楓真である。
ただし、どこか様子がおかしい。まるで何日間も食べていないような……
「死ぬ……」
〝しょうがないであろう。ほとんど食料を持たずに来たのだから〟
「でも、3日も食べてないんですよ……」
食料は最初の日で全部終わった。魔物の肉は腐っていて食べられない。要するに詰みである。僕は飢餓で今にも死にそうだが、エレボス様はいつも通りの感じで話している。
〝ダンジョンへ行ったのだから、何か持っていないのか?〟
「持ってるものですか?エグハーツ鉱石と短剣2つ、魔法書、それに魔物の肉ぐらいですかね。肉腐ってますけど」
〝少ないな〟
「ほぼ何も貰えませんでしたからね」
〝エグハーツ鉱石で何か作れないのか?〟
「……釣り竿作ってみます?」
〝お前に魚が釣れるのか?〟
「やってみるしか無いでしょう。そういえばどんな魚がいるんです?」
〝針を飛ばしてくる魚、毒を撒き散らす魚などがいるな。それも食べる気か?〟
「生きるためなら食べるしか無いでしょう。嫌ですけど」
エグハーツ鉱石を釣り竿に変え、腐った肉を餌にして海に投げ込んでみる。
釣り竿はプロが使いそうなものではなく、百均で売っていそうな安っぽいものだ。
数分後、釣り竿に手応えが来た。大物では無いが、十分な大きさだ。
「来たー!」
〝喜ぶのはまだ早い。さっさと釣り上げろ〟
「はい!」
エレボス様の小言を聞きながら、必死に魚を釣りあげる。
疲れ切っていて腕が重い。だが、食欲は全てに勝る。
「ふんっ!」
〝おぉ、釣れたのか〟
「食べられるか鑑定してみますね」
格闘の末に釣れたのは、体長50cmほどの魚だった。
だけど異常性もなさそうだし、普通に食べられそうだ。
〝それで、どうやって調理するつもりだ?〟
「あ……」
ここは海の上で調理器具はないし、エグハーツ鉱石はできるだけ取っておきたい。
残る手段となると……
「えーと……〘火球〙で焼けたりします?」
〝試してみればどうだ?〟
「分かりました。やってみます。〘火球〙」
魔法というのはイメージが重要だ。今回は撃ち出すのではなく、手に小さい球を留めるようにしてみた。
「出来た……」
〝良かったな。これで死なずに済むぞ〟
小さな火球で魚を焼いていく。段々美味しそうな香りがしてきた所で、火球を消す。
「塩があれば良いんですけどね」
〝無理なものを望んでも虚しいだけだ。早く食え〟
「分かりましたよ……あ、美味しい!」
油が滴る魚に齧り付くと、一瞬で口の中に旨味が広がる。
塩がなくても美味しい魚なんて、人生で初めて食べた。
「こんな美味しい魚は初めて食べました。家で食べる魚は全部生臭くて、食べられませんでしたから」
〝そんな魚をお前の家族は食っていたのか?〟
「美味しそうに食べてましたよ。僕には理解できませんでしたけど」
〝……すまんな。辛い事を思い出させてしまって〟
「いえ。死ぬ間際以外は良い家族でしたので」
〝分かった。なら、とりあえず今は大森林を目指すぞ。この調子なら後数時間で着くはずだ〟
「はい!」
楓真が食べた魚
〜セパレーシア〜
海で取れる魚で、至って普通の魚。
ただ、味はとても苦くて臭く、他の魚から敬遠されている。
普通の人間に食えるものではない。
次回もお楽しみに。