第六話 決別と逃走
「何ですかこれ……」
〝船を思い浮かべたのだろう?〟
「いや……船の形を思い浮かべましたね」
〝ふむ……足りない部分はお前の脳内から補填されたのかも知れぬな〟
「確かに電動ボートのほうが馴染みありますけど、これどうやって動かすんですか?」
〝〘鑑定〙で調べればどうだ?〟
「確かにそうですね。えっと……〘鑑定〙」
〜魔力ボート〜
魔力を流し込むだけでボートを動かすことが出来る。
何が起きても良いのなら自動操縦にすることも可能。
「何か説明怖いんですけど……」
〝自動運転にさえしなければ良いのであろう?簡単ではないか〟
「まあ……そうなんですけど……」
〝とりあえず逃げるぞ。時間はあまり無いからな〟
「はい」
〝……朝日が綺麗だな。地獄とは似てもつかない〟
「どうしました?」
〝いや、なんでもない。早く行くぞ〟
ボートを水に浮かべ、僕が乗り込もうとしていたその時だった。
「逃がしませんよ」
「エレナ様!?」
冷酷で感情のない声とともに、洞窟の奥に現れたのは、僕を突き落とさせた張本人、エレナ様だった。
あと、その隣に海斗や数人の兵士もいる。騎士団長は見当たらない。
〝だから言ったであろう!早く逃げるぞ!〟
「逃げれませんよ!絶対動いた瞬間に攻撃されますって!」
〝なら私が結界を張るから、お前は王女に〘火球〙を打ち込め。その隙にボートに乗り込む〟
「え……でも……」
〝ここまで来て死んでどうする!まだ私はお前に答えを聞いていないぞ!〟
「分かりましたよ。でも直接は打ちませんからね!目眩まし程度です!」
〝……分かった。行くぞ!〘魔鏡之結界〙〟
魔法発動と同時に体の中の魔力がごっそりなくなる。恐らく僕の魔力で結界を張っているようだ。
〜魔鏡之結界〜
闇属性の攻撃を吸収する。
それ以外の属性での攻撃は跳ね返る。ただし、神聖属性には弱い。
「これは一体?鑑定も効きませんし。……まあ良いです。カイト様、攻撃をお願いします!」
「分かった。あのゴミを一刀両断にしてやる!〘魔力斬り〙」
海斗の剣から振り出された斬撃が、まっすぐ僕に向かって飛んでくる。だが……
ただの魔力でしか無い無属性攻撃は、そのままカイトに向かって跳ね返る。
「ぐわっ!?」
「カイト様、お怪我はありませんか?」
「いや、なんとか防いだ───!?」
「〘火球〙!」
攻撃を防いで油断していたカイトたちへ、僕が撃った〘火球〙が飛んでいく。着弾した瞬間、とんでもない爆発音とともに、瓦礫が凄い速さで飛んできた。少し魔力を込めすぎたかも知れない。
「「「「「……」」」」」
粉塵が立ち込める洞窟には、誰の声も聞こえない。
「どうしよう……殺したかも……」
〝多分大丈夫だ。さっさとボートに乗って逃げるぞ〟
「でも……」
〝あのくらいの〘火球〙なら誰だって避けるか防ぐ。勇者も居たことだし、誰も死んでいないだろう〟
「なら……良かったです」
〝ほら、さっさとボートに乗れ。こんな所は早く逃げるに越したことはない〟
僕はボートに乗り、魔力を込め始めた。ボートが少しずつ動き出し、どんどん早くなっていく。
〝行く当てはあるのか?〟
「あると思います?」
〝……なら王国の南にある大森林の中へ隠れるか。あそこは王国でも迂闊に手を出せないからな〟
「エレボス様」
〝どうした?〟
「行き方がわかりません」
〝……私も解らぬ〟
「やります?自動運転」
〝いや、陸地に沿って行くぞ。そうすれば絶対に辿り着けるはずだ〟
「分かりました」
どうしても自動運転だけは嫌なエレボス様。
次回は船旅です。