第一話 プロローグ
どうも、うるしです。
よろしくお願いします。
ここはダンジョン【ザロニフ大洞窟】付近にあるオルソム絶壁。
国一番の名所と言われるその崖には、数多くの兵士が列をなしていた。
「出てきたぞ!殺せ!」
男の号令で、たった今魔法陣から出てきた人物に剣が向けられる。
「騎士団長さん?!これはどういう……?」
剣を向けられた人物───柏木楓真は対話を試みる。が……
「エレナ様からのご命令だ。お前を殺せとのな」
「どうして……」
どうやら騎士団長と呼ばれた男はエレナという人物に命令され、この場所へ来たようだ。
「役立たずはいらないそうだ。おい、殺れ」
「はっ!」
「ちょっと待っ……ゴフッ!?」
必死の抵抗も虚しく、楓真は騎士に刺され、重症を負ってしまう。
「ぐっ……」
(このまま死ぬくらいなら、飛び降りて一か八かを狙うしか無い…!)
楓真が最後の抵抗として取れたのは、崖から飛び降りることだけだった。
「ジェラルド様!奴が飛び降りました!追撃の許可を!」
報告を受けた騎士団長───ジェラルドは暫し考え込んだあと、一つの結論を出す。
「いや、待て。ここから飛び降りても奴の貧弱な体では死ぬだろう。放っておけ」
「……はっ!」
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(何でこんなことになったんだろう……)
僕は下まで600メートルはありそうな崖から落下していた。
「あ、走馬灯が見える……これヤバイやつじゃん」
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僕は柏木楓真。好きな物は戦車とネトゲという普通の高校二年生だった。 2か月前までは。
2か月前、突然クラスメイトが僕を残して全員失踪。いじめられてたし、特段ショックでもなかった。ただ、僕をいじめから守ってくれていた同級生の黒瀬莉子も一緒にいなくってしまったのは少し寂しかった。問題なのはその後だ。家にメディアがたくさん来るし、ご近所さんの噂の的になるし、警察に勾留されるしで散々だった。
だけど一番辛かったのは母も父も妹も僕を居ないものとして扱ったことだ。
呼びかけても返事をしてくれない。食事は僕だけ無し。あれは本当に辛かった。
ある日、僕が諦めて自殺しようとしていたら、母さんが部屋に入ってきた。
母さんは僕を必死で止めて『ごめんね、辛かったね』と謝ってくれた。
それからは食事も食べられるようになったし、母さんとだけだが、会話も増えた。
憎しみという言葉はなかった。許されて良かったという感情だけで胸がいっぱいだった。
一ヶ月前父さんにキャンプに行こうと誘われた。久しぶりの会話が嬉しくて、『行く!』と言ったのがすべての間違いだった。
キャンプは順調に進み、その夜。焚き火を家族皆で囲み、色んな話をしていた。その時だった。
『え?』
突然後ろから押され、僕は火の中へ突っ込んだ。押したのは父さんだった。
『お前のせいだ!お前が居なければ!』
父さんはそう言っていた。母さんと妹は、何もせず嗤っていた。
肌が焼ける痛みより、家族から裏切られた絶望のほうが大きかった。僕の流した涙と叫び声には誰も応えなかった。
『僕、死ぬのか……』
絶望の中、全身が光に包まれ、謎の宮殿らしき場所に飛ばされた。
最後に見えたのは、家族の驚いた顔だった気がする。
死ぬと思っていたのに突然痛みが無くなり、僕は驚きで思わず周囲を見回した。
なんと、そこには一ヶ月前に居なくなったと思っていたクラスメイト達がいた。
『え?』
思わずそんな声が出てしまった。だって知らない場所に突然転移させられて、服や肌が焦げてもないんだから。まだあの時の痛みと恐怖が残っている気がする。
クラスメイト達もびっくりした様子でこちらを見つめている。
『なんで柏木が召喚されるんだよ!』
最初に言葉を発したのは、虐めの主犯格の一人、桐ヶ谷海斗だ。
『ごめん……僕もわかんない』
『は?マジで?』
『うん……』
この桐ヶ谷海斗というのは、僕を自殺スレスレまで追いやっていた虐めの主犯格の一人だ。
お金をせびられたり靴を隠されるのはまだ甘い方で、時には階段から突き落とされたり、ロッカーに長時間閉じ込められたこともある。もう二度と会いたくなかった人物の一人だ。
『本当にふざけんなよお前!』
『……』
『いつもいつも教室の隅で本ばかり読んでて目障りなんだよ!今回の異世界転移だってお前がいなくて清々してたのに!なんでこっちの世界にまでやってくるんだよ!帰れ!』
『海斗の言う通りだ!帰れよ!』
『そうだぞ!帰れ!』
『何で来るんだよ!』
(僕だって来たくなかったよ……)
クラスメイト達からの暴言が次々と飛ぶ。その時だった。
『いい加減にしてください!』
そう声を上げたのは、綺麗な衣装を身に纏った、20歳くらいの女性だった。
『エレナ?何を言って───』
『この方はカイト達の仲間なのでしょう?仲間同士仲良くしないのですか?』
どうやらこの人はエレナさんというらしい。それにしても、人に庇われたのは何時ぶりだろうか。鼻の奥がツーンとする。
『仲間?馬鹿なことを言わないでくれよ』
『はい?』
『確かにそいつは一応クラスメイトだが、絶対に仲間じゃない』
『……』
『エレナ、見てなかったのか?あいつはほぼ奴隷みたいなもんなんだよ。だから──』
『この国では奴隷は合法ですが、他の勇者様を奴隷呼ばわりは流石に処罰しなければなりませんよ?』
『…チッ!』
しぶしぶ引き下がる海斗。だがその目は未だ僕を睨みつけている。
『大丈夫ですか?』
『まあ…いつものことなので』
こんな僕を心配してくれるエレナさん。本当に優しい方だと実感する。
ただ…何だろう?違和感がある。
『そういえばステータスは確認されましたか?』
『あ、まだですね』
(やっぱりステータスあるんだ……)
柏木 楓真 (フーマ・カシワギ)
年齢 16歳
種族 人間
職業 勇者
ギフト 作成
スキル 鑑定・アイテムボックス
適正属性 毒
装備 異世界の服
称号 役立たず
従魔
加護
状態異常
『確認し終わりましたか?』
『はい。確認し終わりました』
『それではこの世界について説明をさせていただきます。まずこの国は……』
エレナ様の話を要約するとこうだ。
まず、この国はバルグミュワと言い、冒険者ギルド、商人ギルド、傭兵ギルド、暗殺者ギルドがある。
ギルドにおけるランクはEX<SS<S<A<B<C<D<E<F<Gの順で、モンスターやスキル、ギフトの階級も同様。
そして、エレナさんはこの国の王女らしい。様を付ける必要がありそうだ。
あと魔法属性というのもあり、火、水、土、風、闇、光、毒、雷、無の基本9属性、精霊、契約、結界、重力、時空、魂魄、神聖、付与、錬成、継承の特殊10属性。特殊属性の適正の方が稀なんだそう。
そして鑑定やアイテムボックスは僕達勇者には絶対付くが、普通の人だと一万人に一人しか発現しないらしい。
『ギフトの〝作成〟というのはどんなものなんですか?』
『え?───ギフト〝作成〟なの?』
『はい。そうですが?』
『ゴミ』
『え?』
『はぁ……。新たに来た勇者だし、なんかいいギフト持ってると思ってカイトから庇ったのにほんと最悪』
『どうして……』
『どうしてこんな仕打ちを受けるか分からない?なら無知なあなたに一つ知識を与えてあげるわ。〝作成〟は物作りしかできないGランクギフトなの。簡単な物作りしかできないゴミは要らないのよ』
『物作りしか───できない?』
『ええ、そうよ。本当にこんなやつに期待したのが間違いだったわ』
それまで僕とエレナ様の会話を睨みつけながらも黙って聞いていた海斗が突然笑い出した。
『お前ギフトが物作り?ゴミにはゴミギフトがお似合いだな!』
それを皮切りに、またクラスメイト達から野次が次々と飛ぶ。
『ゴミだな』
『本当それな〜』
『物作りしかできないなんて本当にかわいそ〜』
『こいつもういらないし追放しないか?』
『それいいね!』
その時、いつも僕をいじめから守ってくれた黒瀬莉子と目があった。
『──っ!』
いつも僕を守ってくれていた彼女は、僕から目を逸らした。
『何、で?』
僕はその瞬間気絶してしまった。
どうだったでしょうか。
良ければ第二話もお手にとってみてはいかがでしょう。
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