【バンダナコミック原作大賞応募作品】双星のラグナロク
昔、有名なスポーツ選手に聞いたことがあるんだ。
「彼方みたいになるには、どうしたら良いですか?」って。
そしたら、彼は笑って、こう言ったんだ。
「命かけることが、スタートラインかな」って。
あの時の僕には、さっぱり分からなかったけど、今なら良く分かる。
ーーー
この宙域に息を潜めてから、もう随分と経つ。
僕は昔の記憶を脳内から消し去り、全周囲モニターに映る宇宙空間に異常がないことを確認した。
「この緊張感の中、あと3時間か......」
何事もなく時が過ぎてくれれば良いが、そう都合よく事は運ばないだろう。
コクピットのレバーを握る手は汗ばんでいた。
モニターの端に浮かぶ残酸素時間【32:17:02】だけが、時の経過を教えてくれる。
「こんな事になるなんて……」
そう呟いた青年は、視界を前方に向けた。
そこには2つの巨大な惑星が、圧倒的な存在感を放っていた。
ーーー
2105年。この年、日本の研究者が見つけた発見に世界が震えあがった。
銀河の中心から地球に向かって、隕石群が飛来する。しかも、その数は1000を超えると。
タイムリミットまで15年。
この揺るぎない事実を突きつけられた人類の対応は速かった。すぐさま地球政府が結成され、打開策が検討された。
3日間にわたる協議の末、地球政府が下した決断は【ワームホールを製作し星ごと移動する】という物だった。
計画の全容はこうだ。
8年前に、完成したばかりのワームホールを地球ごと覆えるサイズまで巨大化し【くじら座タウ星】のそばに超遠距離移動。
隕石群が太陽系を通り抜けるまでの半年間は、そこに滞在し、隕石群が通り抜けた後、再度ワームホールを使って地球圏に帰ってくる。
馬鹿げた希望だった。だが、人類に選択肢は無かった。第四次世界大戦間近と言われていた人類は、手を取り合い巨大ワームホールの制作に取り掛かった。
この15年間は、ある意味平和な毎日だった。
【壱弦ラグド】は、その束の間の平和を生きてきた。
少し刺激が欲しい。友人にはそう言ったが、本当の動機は【人々の記憶に残るものを作る仕事がしたい】だった。高校を出たラグドは、ワームホールを宇宙空間に設置する仕事に志願した。
仕事に追われる毎日は、充実していたが過酷だった。でも【自身の腕に地球の未来がかかっている】感じが、その過酷さを心地良い物に変えていた。
「ラグド! このパーツを取り付ければ、ワームホールが完成だ」
「シモン。いよいよだね」
「ああ。長いようで、あっという間だったな」
「シモンは、向こうに転移した後は、どうするの?」
「そうだな......。別の仕事をしようかなー。ま、無事に転移が成功したらの話だけどな。ラグドは?」
「僕は、地球圏に帰るワームホールの設置をまた手伝うよ」
「嘘だろ? このきつい仕事にもう一回志願するのかよ!」
「ああ。ドールファクターにも慣れてきたし、次はそう大変じゃないと思うんだ」
「その分、こき使われるだけだと思うぜ」
「確かにそうかもしれないけど......」
「まー。ラグドがやってくれるなら、俺も安心して辞められるから良いけどな!」
シモンはそう言うと、歯を見せて笑った。
「じゃー。ここでの最後の仕事を始めるか!」
「ああ。シモン。宜しく」
ラグドはシモンと拳を合わせると、ドールファクターに乗り込んだ。
ドールファクターは、この巨大ワームホールの設置に使われている。人型のロボットのようなものだ。
ひと昔前まで使われていた人型兵器を簡略化したこの機体は、頭部のコクピットから直接手足が生えたような構造になっていて、人型と呼んで良いのか疑問に思うところもある。
そのドールファクターを使いラグド達は、ワームホールの設置を行ってきた。
その設置が終わり最終確認が終われば、来週中にも【くじら座タウ星】に旅立つことになる。
ーーー
2120年11月。ワームホールによる転移は、無事に成功した。
人類の視界には、見たことのない双星が輝いていた。
地球に向かう隕石群の脅威から脱したことを理解した人々は安堵に包まれた。
「無事ワームホールを抜けたようです! 作戦成功です!」
「「おーー!!」」
地球政府の指令室も転移の成功に酔いしれ、歓声に包まれていた。
が、その歓声は、すぐに悲鳴に変わることになる。
『ドガガガ!!』
指令室が大きく揺れる。
「何事だ?!」
「分かりません! すぐに確認します!」
巨大スクリーンに、世界各国の街並みが映し出された。皆の顔から血の気が引いた。
「ロンドンが焼けている?! ニューヨークも?!」
「どうしたと言うのだ!」
「指令!! 双星から攻撃があったもようです!」
「何? 双星から? 異星人がいたのか? おい! 事前にそのような情報はなかったではないか!」
「指令! 第二波が来ます!!」
『ドガガガ!!』
司令部はまた大きく揺れた。
「くそ! 私達を侵略者と思っているのか?!」
「指令! 何か手を打たないと、ここで全滅だぞ」
金髪の女性が声を荒げながら指令室に入ってきた。
「ライル博士か?! では、どうしろって言うのだ?!」
「ここで、死ぬわけには行かない! ワームホールを使う!」
「何を言っているのだ! すぐに太陽系に戻っても隕石の餌食にされるだけだぞ!」
「戻る訳じゃない! あの双星からの攻撃をワームホールを使って、転移させる!」
「なんと、そんなことが出来るのか?!」
「理論上は可能だ。問題は......」
「後の問題は、後で考えればいい! すぐにワームホールの用意を」
「「はっ!!」」
司令の声を聞き、部下達は慌ただしく動く。
「司令! 今すぐ使えるワームホールは、試験用に使われた一機のみです!」
「博士。どうする? 試験用のワームホールでは、地球全てを覆うことは出来ないぞ!」
試験用に製造されていたワームホールは、小型と言っても、大都市がすっぽりと入るサイズのものである。
「先程の第二波の攻撃を解析してくれ!」
博士の発した言葉を受け、スクリーンに双星からの攻撃時の映像が浮かび上がる。
「博士。おそらく両惑星間にある。この構造体から狙撃してきたようです」
「長距離狙撃砲? と、言うことか……。これの照準をリアルタイムで観測出来るか?」
「可能ですが、照準は狙撃の直前に行われるようでして......」
「動きが分かった時には、撃たれているか……」
博士は腕を組み思案し始めた。
「では、一つの都市を囮にするか……」
「博士。それはどうやってですか?」
「例えば、一つの都市だけを残して、その他の地域は停電させる。って言うのは、どうだろうか? そうすれば、その都市に攻撃が集中するはずだ」
「なるほど。問題はどの都市にするかですね」
「それは現在ワームホールが保管されている東京しかないだろ。それよりも問題はワームホールが起動し、敵の攻撃を転移出来た後だ」
「と、言いますと?」
博士は唇を噛み締めたあと、
「ハッタリが効いて、長距離攻撃が効かないと勘違いしてくれれば、奴らすぐにワームホールの破壊に乗り出すだろう。戦闘機のような物がやってくる可能性が高い。これを防衛できれば地球への攻撃を暫く遅らせることが可能だろうが、問題は、私達にはそれを迎撃出来るスベがすぐには用意出来ないと、いうことだ」
(平和な15年がここにきて響くとは......)
博士の眉間にしわが寄った。
「博士。つまり敵の狙撃を転移できたとしても、ワームホールを守れなければ、すぐに地球ごと滅ぶと……」
「ああ。そうだ」
「人型兵器マキナファクターはどうですか?」
「すぐに動かせるものはない。その準備をしている間に人類は滅んでいるだろう」
「では、現状動かせるものは、ワームホールの設置に使ったドールファクターくらいですか......」
「ああ。そうだな。ドールファクターに可能な限り武装を取り付けるか......」
「早急に、用意させます」
部下の1人が駆け足で退室した。
(焼け石に水だろが、無いよりはマシと考えるべきか......。せめて、一週間あれば......)
博士は、空に輝く双星を見つめた。
ーーー
「俺たち6時間前に地表に降り立ったばかりですよ」
「緊急事態なのは、わかるだろ?」
「でも、なんで、俺たちが行かないとダメなんですか?」
シモンは、高圧的な態度の軍人に反発をする。
「いいか? 地表の1割が異星人の攻撃で焼かれたんだ!」
「それと、俺たちが宇宙に上がるのと、何が関係あるんですか?!」
「ワームホールを設置するんだ!」
騒ぎを聞きつけたラグドが会話に割って入る。
「ワームホールですか?! もしかして隕石だらけの地球に戻るんですか?」
「知るか! 俺は上に言われて、ドールファクターの操縦者を宇宙に上げるように言われただけだ!」
「僕たちが上がって、今から設置するんですか? もう一度、星ごと転移するのは、急いだって3か月はかかりますよ!」
「だから! 俺は知らないの! お前たちを連れて行くように言われただけだから!」
「ラグド! こんなの行く必要はないぜ!!」
シモンはラグドの方に手をやり、移動するように促す。
「お前ら! どこへ行く?」
「帰るんですよ! ドールファクターの操縦者は他を当たって下さい」
「いいか? 俺に手荒なことをさせないでくれ」
軍人は懐から銃を取り出し、シモンに銃口を向けた。
「ちょっと! やめてください! 僕は行きますから、シモンは帰らせてやってください」
ラグドは、軍人に向かって頭を下げた。
「ラグド。やめてくれ。あー! もう分かった。俺も行く」
「シモン! 君は帰った方が......」
「帰っても、無事な保証はないからな。さっきのでまた街を撃たれたら、どこにいても一瞬だ」
「......。そっか......」
「だろ? さっさとワームホールを設置して、この宙域からおさばらしようぜ」
「ああ」
ラグドは、シモンと拳を合わせると、つい先ほどまで乗っていた宇宙船『アトラス』に移動した。
ーーー
「ライル博士。用意出来ました」
「よし! では、ワームホールの射出準備! 全世界に通達。180秒後。第一宇宙基地から、東京上空。高度500キロにワームホールを展開させる」
「「はっ!」」
「カウントダウン開始。5,4,3,2,1。射出!」
第一宇宙基地から、上空に向かって合計六基のコンテナが打ち上げられる。大気圏を付き破り、上空500キロに到達したコンテナは、パージされ、六基を結ぶ磁場が形成される。小さなワームホールの完成である。次いで、それぞれのコンテナに装備されたバーニアをふかし展開する。東京をすっぽり覆う六角形が形成された。
「博士! ワームホールの展開を観測。成功です!」
「よし! では、全世界に通達。東京を除いた全地域の消灯!」
「「はっ!!」」
東京を除いた世界中から光が消えた。
そして、予想通り双星間の狙撃砲の照準が東京を捕え、攻撃が発射された。双星から飛ぶ光の帯は、東京上空のワームホールに飲み込まれていく。
「ひと先ずは、成功か」
ライル博士は、険しい表情のままその光景を見つめていた。
ーーー
ラグド達が異変に気付いたのは、宇宙に出た瞬間だった。地球から飛び立った宇宙船の窓から見える景色にシモンは眉をひそめた。
「ラグド。あれ」
「ん?」
「あれ、ワームホールじゃないか? もう展開してないか?」
ラグドは床を蹴り、シモンの横に着地すると、窓の外を眺めた。
「本当だ。あのサイズは......。試験用のワームホールか?」
「どういうことだ?」
シモンが顔をしかめた瞬間。船内は凄まじい光に包まれた。
「うわ!!」
宇宙船『アトラス』は大きく揺れた。
揺れが収まるのと同時に、光は消え、ワームホールが緩やかに波打ったのが見えた。
(ワームホールが作動した? さっきの光を転移したのか?)
ラグドは、意味が分からないままその光景を眺めていた。
呆然としているラグドの横で、シモンは艦長に詰め寄っていた。
「おい! ハジュン艦長! どうなってる? 俺たちはワームホールの設置の為に宇宙に上がったんじゃないのか?」
「シモン。すまない。白状する。乗組員の全員をこのブリッジに呼んでくれ」
艦長の命を受けて、乗組員全員がブリッジに集まった。様々な国籍の男女。ラクドの顔馴染みも数名いるが、初めて見る顔の方が多い。
艦長は乗組員全員の目を見た後、こう切り出した。
「いいか? ま、簡単に言うとだ。俺たちは今から星を守らなきゃなんねえ」
「え? 俺たちが?」「なんで?」
ブリッジが騒つく。
「まー。動揺する気持ちは痛いほど分かる。しかし、これは地球政府の決定事項だ」
「聞いていないぞ!」「何をさせる気だ!」
「先程の光線は見ただろ? アレは異星人からの攻撃だと推測される。で、偉いさんらはその攻撃をあのワームホールを使って転移させた。おそらく太陽系まで飛んだはずだ」
「それと俺たちに何の関係がある?」
「どうやら、偉いさんらの推測では、ワームホールで奴らの攻撃を転移させることに成功したなら、今度はワームホールを破壊しにくるはずだ。と」
「ハジュン艦長。もしかして、僕たちがこのワームホールを守るんですか?」
「ああ。ラグド。そう言う事だ」
「どうやって? ドールファクターしかないですよ! え? まさか……」
「ああ。そのまさかだ。ドールファクターを使ってここを防衛する」
「嘘だろ?」「死に行くようなもんだ」
クルーたちはざわついた。
「いいか?! コレは決定事項だ! 地球政府の人型兵器マキナファクターが稼働できるまで、少なくとも3日はかかる。その間の防衛がこの艦の任務だ」
「嘘だろ? 異星人と戦争かよ……。さっきの攻撃見ただろ? 勝てねーよ」
「シモン。俺たちがやらなくちゃ。地球は滅亡だ。3日間だけ生き延びたら良い。もしかしたら、3日間何も起こらないかもしれない」
「くそ!」
シモンは苛立ち、ブリッジの椅子を蹴った。
「ドールファクターに、最低限の武装を装備させてある。このメンバーでローテーションしながら、3日間生き残る。3日後には地球政府の軍が来てくれる。それまでの任務だ」
静寂がブリッジを包んだ。
「あのー。報酬は?」
赤髪の女性ミラが手を小さくあげ、尋ねた。
「あー。ミラ。報酬は1人につき1000万ドル」
『ピュー!』
長身の男が口笛を鳴らした。
「本当か? この任務をクリアできたら、一生遊んで暮らせるな」
「ほんとだ!」
長身の男のツレは、笑顔を見せた。
「地球が残っていたらな」
そう言ったシモンの言葉で再びブリッジが鎮まった。
「で、そのローテーションで宙域を監視するとして、敵さんが現れたら全員で戦闘かい?」
「ああ。ダグザ。そうなる」
ダグザと呼ばれた男は、深い溜息をついた。
「って、ことは始めに外に出て、帰艦後もすぐ再出撃ってこともあり得るんだな」
「ああ。そうなる」
「誰も先に行きたくねーよ! なー! そうだろ?」
ブリッジは再度静かになる。ハジュン艦長は大きく息を吸いこんだ。
「すまない。人類の為だ」
艦長は深々と頭を下げた。
「じゃー。僕から外に出ますね」
「おい。ラグド! 何考えてるんだ!」
「だって、シモン。誰かがやらないとダメな訳だし......」
「あー。くそ! 分かった! じゃー。はじめは俺とラグドだ!」
「すまない。2人とも」
「艦長。ドールファクターの武装の説明をお願いします」
「分かった。では、皆、格納庫に向かってくれ」
一同は、ドールファクターが並ぶ格納庫まで移動した。
「いいか? まず、右手にミサイルが三発。左手に工業用のワイヤーガン。そして、腰に刀だ」
「おい! たったコレだけかよ」
「シモン。ドールファクターは戦闘用には作られていない。装備できる場所が限られているんだ」
ラグドは、格納庫に並ぶ10機のドールファクターを眺めた。
(こんな機体で戦闘をするのか? ミサイルは右手の外側に簡易的な装着。これは反動で機体が流れたりしないのか? 左手のワイヤーガンは、S字フックにワイヤーが繋がっているだけのいつもの装備じゃないか。これは......。死にに行くようなもんだ)
「艦長。僕たちは何時間外にいればいい?」
「そうだな。6時間交代でどうだ」
「了解。もし、このミサイルを使ったなら、補充は可能ですか?」
「ああ。ミサイルにはかなりの予備がある。そこは安心していてくれ」
「......。了解」
ラグドは覚悟を決め、宇宙作業用のパイロットスーツに着替える。
このパイロットスーツ単体でも2時間は酸素が尽きることがない優れものだが、宇宙空間に飛び出された場合、2時間など無いに等しい時間だ。
「シモン。僕のせいですまない」
「ラグド。一番初めが一番安全だと俺は思うぜ。気楽に行こう」
「ああ。そうだな」
ラグドはシモンと拳を合わせると、ドールファクターのコクピットに向かった。
ーーー
コクピット内の全周囲モニターの端には、残酸素時間【31:45:23】と、数字が並んでいる。
このまま、あと3時間弱何事も無ければ、ラグド達の初回の任務は終わり、母艦に戻ることになる。
ラグドとシモンは、人工隕石を盾代わりにし、双星の動きをその陰から注視している。
今のところ目立った動きは無く。宇宙は静かだ。
「ラグド。聞こえるか?」
「なんだ?」
「こんな時になんだっけど、異星人って本当にいたんだな」
シモンからの思いも寄らない話に、ラグドは少し肩の力が抜けた。
「ふっ。そうだよな。本当なら感動したい話なんだけどな」
「だな。今からでも仲良くしてくれねーかな」
「それが出来れば、一番だけどな」
ラグドはそう言いながら、それは難しいと内心思った。
「おっ。ラグド。ワームホールが充電モードに入るみたいだ」
「上層部が、次弾はすぐには無いという判断をしたようだな」
異星人の攻撃を転移させたワームホールは、充電の為にその中央に集まる。一度展開すると3回分の転移を行えるが、念の為に。と、いう事だろう。
「これで、守りやすくなったな」
シモンは自信の後方に位置するワームホールを見ながらそう言った。
「シモン。守りやすいってことは、攻めやすいってことだ。油断出来ないぞ」
「ラグド。分かってるって。でも、少しは気楽にやらないと持たないぞ」
(確かにそうだな……)
と、ラグドが思った瞬間。前方で何か光るものが見えた。
直後、目の前の人工隕石が真っ赤になった。
「え? 撃たれた?!」
ラグドは、ドールファクターのバーニアを噴かし、回避行動をとる。
溶岩のように溶ける人工隕石の影から脱出したラグドの視界に銀色の物体が映る。
「敵?! いつの間に?! くそ!!」
ラグドは、反射的にトリガーを引いた。ドールファクターの右腕から、ミサイルが発射される。
銀色の四つ足の物体は、ミサイルをバク転して躱す。と同時に背中に搭載されていた鉄板のような物をラグドに向かって発射した。
「攻撃?! やられる!!」
ラグドは苦し紛れに再度トリガーを引いた。
目前に迫るプレート状の物体に、ラグドの放ったミサイルがぶつかる。
『ドガーーン!!』
機体の近距離で爆発したミサイルの反動で、ラグドのドールファクトリーは、後方にぶっ飛ばされた。全周囲モニターの半数にヒビが入り、ラグドの身体に激痛が走る。
「ぐわ!!」
後方に飛ぶラグドの視界からワームホールが遠ざかる。
「嘘だろ?! どんだけ飛ばされたんだ?! 戻らないと!」
ラグドは、ペダルを踏みドールファクターのバーニアを噴かそうとするが、機体は反応しない。背後に地球が迫る。
「このまま地球に落ちる?! 何か手はないか? アレは?」
ヒビだらけのモニターの端に、チラリと構造物が見えた。
「宇宙船? 地球軍がもう宇宙に上がってきたのか? あの距離なら!」
ラグドはドールファクトリーの左手を宇宙船に向けると、ワイヤーガンを放った。真っ直ぐ飛んだフックは船体の突起物に引っかかる。
「やった! このまま着船する!」
ラグドはワイヤーを巻き取り、宇宙船に向かった。
ーーー
宇宙船に着船したラグドは、カタパルトに機体を固定すると、ドールファクターのコクピットから降りた。
「あれ? 地球軍が上がってきた訳じゃないのか? 電気は消えている……。この船はまさか無人?」
ラグドはヘルメットに搭載されているライトを点灯させ、周囲を捜索する。
カタパルトの奥に宇宙船内に入る扉を見つけた。
「とりあえず船内に入らないと。動いてくれよ......」
ラグドは扉横にあったディスプレイに触れる。
『生体反応確認。すぐに船内に退避してください。扉を開きます』
「良かった。この宇宙船はまだ生きているみたいだ」
扉が開くとラグドは、すぐに内部に潜り込んだ。
「なんとか元の宙域に戻る方法を探さないと......」
宇宙船の内部は、所々、薄明るく光っている。どうやら、最低限の電力はあるようだ。ラグドはヘルメットの光を頼りに奥に進んだ。
「あれ? この扉だけ何か書いてあるな……」
ラグドは、幾何学的な模様で装飾された扉の前に立ち止まった。
「何だろう? この扉開くのか?」
ラグドが扉に触れると、幾何学模様が発光し扉が静かに開いた。扉の奥には人影が見えた。
(人? こんなところに? いや、ホログラムか?)
浮かび上がったホログラムは、紫色のセミロングヘアの少女の容姿をしていた。ラグドに気付くと彼女はラグドに話かけてきた。
「久しぶりの人間だ。君の名前は?」
ラグドは警戒しつつも、このホログラムと話すこと以外に策はないと瞬時に判断した。
「僕の名前は、ラグド。君は?」
「ラグドか、いい名前ね……。私は、アルル」
「アルルは、どうしてここに?」
「ふふ。怯えているのね。それはそうよね……。でも、大丈夫よ。私はラグドに危害を加えないわ。安心して。私はここで、人を待っているの」
「誰を?」
アルルは、後方を振り返りながら、
「ずっと、この子に乗ってくれる人を探しているのよ……。あなたコレに乗れる?」
アルルの視界の先に、ラグドはライトを照らした。そこには膝を立ててしゃがむ人型兵器の姿が見えた。
「これは、マキナファクター?」
「そうとも言うわね。でも、この子の名前はアースノヴァ」
「アースノヴァ?」
「この子は、まだ誰にも乗られた事がないの……」
「どうして?」
アルルは優しく微笑んだ。
「私が認めないとダメなの……。でも、誰も私の問いに答えれないのよ」
「質問?」
「そうよ。あなたもチャレンジしてみる?」
「もちろん。もし答えれたら、このアースノヴァを貸して貰える?」
「ふふ。いいわよ。と、言うか答えられたら、この子はあなただけの物になるわ」
(このマキナファクターを動かせれば、シモンを助けに行ける!)
ラグドは覚悟を決めた。
「じゃー。質問ね。私、ここから出たいんだけど、どうすればいいと思う?」
ラグドは、少し考えてからこう答えた。
「そうだね。本気で出たいんだよね?」
「そうよ。私は本気......」
「じゃー。命をかけることが、スタート地点だね」
「え? ふふ。ホログラムの私にそれを言うの? あなた面白いわね」
「そう? ホログラムでも消去されたら死ぬでしょ? 覚悟の問題だよ」
「ふふ。面白いわね。なるほどね……。じゃー。私も命をかけてみようかしら?」
「いいと思うよ」
「あなたは命をかけているの?」
「そうだね......。今、命をかけるって決めたよ。友達を助けたいんだ。手伝ってくれない?」
「ふふ。いいわ。認めてあげる。あなたがあの子のパイロットよ」
暗闇に浮かぶアースノヴァの目が赤く光った。
「ラグド。私も命をかけるわ。この子を起動させるのに、この宇宙船の残りのエネルギーを全て使う。ラグドはコクピットに乗って」
「分かった! アルル。ありがとう!」
ラグドは床を蹴り、アースノヴァに向かう。コクピットのハッチを開けると、素早く乗り込んだ。
「これは、どうすれば動くんだ?」
「ラグド。落ち着いて」
コクピット内にアルルの姿が現れた。
「アルル?」
「私とこの子は一心同体なの。説明は後ね。時間がないんでしょ?」
「ああ」
「私の言うように動かして。信じられる?」
「もちろん」
「じゃー。まずは、ここから出るよ」
ラグドが頷くと、アースノヴァは起動する。淡く発光した水色の機体が暗闇に浮き上がった。
1話完結
ーーー
2話以降の展開。
1、ラグドの乗るアースノヴァは、シモン達を救出するべく宇宙を駆る。水のような動きをするナノ金属を操り、武器にして戦う。異星人の戦闘機2機を撃破することに成功する。
2、地球軍の助けがやってくるまでの3日間、ラグド達はワームホールを守り切る。
3、地球政府は小型ワームホールを次々に打ち上げ、それを人型兵器で防衛、都市を守る。
4、異星人の攻撃が止んだことで、政府内の意見が割れる。大型ワームホールの設置まで防衛戦。と、唱えるものと、双星に攻め込み植民地する。という者に意見が割れる。
5、地球内に対立が広がる。そのタイミングで再度異星人の攻撃が始まる。
ーーー
地球政府、異星人、それぞれの思惑が入り混じる中、ラグド達は再び地球圏に帰って来られるのか。
これは覚悟を決めたラグドとアルルを中心に進むSF物語。
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