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52.溶岩魚

黒髪黒目の少女はドラゴンに願う、「私を食べて下さい!」と。

何をぬかすんだこの童は、とも思ったが、どうやら少女は『死』を求めているようだ。ならば、痛みも感じないよう、一瞬でその命を終わらせてやろうと、ドラゴンは最大火力の魔法を放った。

───だが、少女は傷一つ負う事なく、生きていた。

生まれ持ってのスキルか、加護か、あるいは呪いか。だが、この世界に永遠等ない、原因を解明して、少女の望みを叶えるべく、少女とドラゴンは、共に旅を始める───。

 昨夜、イーリスの口から『厄災の魔女』とは何なのか?


 それがイーリスとはどう関係があると言うのか?


 それによりイーリスが選び取った選択の意味を知ったリカロスは、一人勝手に決意を固め、赤白い光が夜闇を照らす中声高らかに笑い声を響かせた。


 そうして一人の少女と一匹のドラゴンは、そのままこの火山地帯で一晩を過ごした訳だが……。


 「ム──」


 周囲が明るくなって来た気配に寝かせていた首を持ち上げれば、動いた振動でイーリスも目を覚ましたようだ。瞼を擦りながら起き上がるイーリスの姿が見えた。

  

 「起こしてしまったか。悪いの、イーリス」

 「む~~~……?」

 「ああ、こら。そんなに瞼を擦るでない」

 「……お水…………」

 「イーリス、ここに水はな──……違うぞイーリス、それは川でなく溶岩だ」


 顔を洗いたいのか水を求めてフラフラと歩くイーリスだが、こんな火山地帯に水何て物が存在する筈が無いし、流れてはいるが、溶岩は間違っても水の代用品となる事は無い。


 起き掛けで寝ぼけているのか、フラフラと溶岩の方へと進んで行くイーリスに、リカロスは自身の長い尾を使って進行を阻止する。


 その時だ、イーリスが向かっていた溶岩の中から魚のようなものが飛び出して来た。

 中々に巨大なその魚の様な生き物は、近づいて来ていた獲物を逃した事を悟ると、ドポリと音を立てて溶岩の中へと戻っていった。


 「──今のお魚さん、凄く、大きかった……」


 そう呟くイーリスの目は先程の様なしょぼしょぼとした物でなくパッチリと見開いていて、どうやら今の出来事でしっかりと目が覚めたようだ。


 「お主、今アレに喰われそうだったな。止めておいて正解だったわ」

 「リッ、リカロス、リカロス!今の透明なお魚さんって──」

 「ん?ああ、今の魚は──「食べれるのかなっ?!」

 「………………ンン??」

 

 キラキラと目を輝かせて好奇心旺盛に聞いてくるものだから、てっきり何の生き物か知りたがっていると思ったが…………どうやら、その好奇心は違う方面に働いたようだ。


 普通、溶岩の中を悠々と泳ぐ透明な肉鰭類にくきるいを食べたいとは思わないと思うのだが。


 「……イーリス。アレは溶岩魚ようがんうおと言って、確か、食用向けではなく、素材向けの生物だった筈だ」

 「食べれないの?あんなにお魚さんの姿してたのに……」

 「~~~~ッ……食べれなく、無くは無いと思うのだが……恐らく、美味い物ではないと思うぞ。それでも、食してみたいか?」


 食用向けでは無いと知ると、イーリスは瞳の輝きを徐々に弱めていき、肩を落として落ち込みを見せた。


 折角イーリスが好奇心を露わにしてくれている言うのに、それを折るような事をしたく無いと思ったリカロスは、「美味くない」と言う事を前提として、それでもとイーリスに再度判断を問い──


 分かってはいたが、イーリスはその問いに顔を輝かせて頷いた。



 *****



 溶岩魚ようがんうおは名前の通り、生息場は溶岩の中だ。

 その姿形は肉鰭類にくきるいの姿をしており、全身はガラスの様に透明で、骨格や臓器などは見えないが血管だけがくっきりと見え、その身には溶岩でも流れていると言うのだろうか?溶岩と同色の血が全身を駆け巡っている。


 そんな溶岩魚ようがんうおだが、火山地帯には餌となるものが無いせいか滅多に姿を現さない。

 先程はイーリスを呑み込もうとして姿を見せたが、こうして再び溶岩の中に溶け込んでしまった彼等をどう見つけ出すか……。


 流石に、イーリスを溶岩に近づけて誘き寄せる様な事はしたくないしの。

 

 「う~~む」


 餌に使えそうな物はないかと周囲を見渡すが、当然ながら何も見当たらない。買った物で何か使えないかと思ったが、そもそも何に吊るせばいいのか。 

 

 うんうんとうなるリカロスに合わせ、自身の尾もくねりとうねり。


 「……フム」


 試しにリカロスは、先程溶岩魚ようがんうおが出た所で自身の尾をフチラつかせ──秒で勢い良く飛び掛かって来た溶岩魚ようがんうおを、そのまま尾で殴り飛ばし地へと叩きつけた。


 「思ったより簡単に取れたの」


 しなりの効いた尾による打撃は相当な威力だったのだろう。地へと叩きつけられた溶岩魚ようがんうおはピクリとも動きはしない。

 

 「溶岩魚ようがんうお……こうして見ると、もっと大きく感じるね」


 三メートルは優に超すであろうその姿に、イーリスは感嘆かんたんの声を上げた。


 「念の為だ、余り近づき過ぎるでないぞ。さて」


 確か、コレを捕まえに来ていた人間は、コレを地に上げた後、直ぐに頭部を切り落とし体内の血を排出させていたが……。どうせ少ししか要らんのだ、適当に切り取るとしよう。


 ザクザクと己の爪を使い身を切っていくが、輪郭は分かるも透明な身体の為、身を爪で突き刺している感覚はあるのに視覚では自身の爪だけが動く様子が見えると言うのが何とも不可思議な感覚だ。


 「ほぉ、よく見れば薄っすらだが臓器の輪郭は見えるのだな。骨は全く分からんが。まぁここら辺を切っておけば間違いなく身ではあろうが」


 ざっくりと身を切り取ってみたが、その見た目は魚の切り身というより分厚いガラス板のようだ。

 

 幾らイーリスに熱を持つ攻撃が効かなかったとは言え、溶岩から出て来たコレをそのまま与えるのは流石に怖い。溶岩魚(ようがんうお)の性質上、冷えてしまえば鉄の様に硬くなってしまうが……。


 噛み切れる限度まで、熱を吸収して。


 「まぁ、こんなものか。イーリス、この切り分けた身を食べてみると良い。だが、ゆっくりと口に含むのだぞ」

 「いっ、いただきます」


 透明なので分かりづらかったが、切られた溶岩魚ようがんうおの身は更に薄く切り分けられていて、イーリスはそこから一枚剥がす様に取った。


 「……思ったより、硬そう?」

 「………………」


 切り身を持った感想に、リカロスはソッと視線をらした。


 リカロスがサクサクと切っていたからてっきり柔らかい身だと思っていたが、実際指で掴んでみるとこの指が溶岩魚ようがんうおの身に沈む事は無く、寧ろこちらの指が押される様な感触だ。

 そして、薄い身ながらくたりと折れる事は無く。ここに同様のガラス板を出されでもしたら、区別はつかないかも知れない。

 

 パクッ


 何とも不思議だなぁとまじまじとその身を見ていたが、意を決してイーリスは溶岩魚ようがんうおの切り身を少し口に含み。

 

 「ン──────」


 イーリスはそのまま動かなくなってしまった。


 「イーリス?」


 リカロスの声に、ピクリと反応を見せるが……やはりイーリス自身は固まったまま──嫌、よく見れば、小刻みにプルプルと震えていた。


 サイズ差故にイーリスの顔までは覗きづらかった為、リカロスは一度人の姿となりどうしたものかと顔を覗けば、イーリスは涙目になりながらも必死に溶岩魚ようがんうおを噛み切り、呑み込もうと格闘していた。


 「無理はするなイーリス!やはり不味いのだろ?!」

 「ん~~~~ッッ」


 イーリスに溶岩魚ようがんうおを口から出せと言うが、イーリスはそれに何故か首を横に振った。恐らく、折角獲って切ってもらったのに、何て事を思っているのだろう。


 「気にせんでいいから!ペッと!」

 「~~~~~~っ」

 

 躊躇ためらいつつも、イーリスはようや溶岩魚ようがんうおを口から取り出し……。


 「みゅぅア~~……溶岩魚ようがんうおさん、すっごくお味が、さびっっ…………」

 「う~~む、やはりそんな感じの味なのだな」

 「ちょっと噛んだだけなのに、まださび味が口の中に残っ~~ッ」


 余程酷い味がまだ口の中に残っているようだ。

 イーリスは両手を口の側でワキワキと動かしながら戦慄わなないている。


 自身で食べると決めたとは言え、イーリスの状態を哀れに感じたリカロスはアイテムボックスを取り出すと、ゴソゴソとその中を探り昨日買った果物を取り出した。


 「ほれ、イーリス。これを齧っておけ」

 「うぅ……ごめんね、リカロス」

 

 謝りつつイーリスは赤い果実を受け取ると、ショリショリとそれを小動物の様に齧っていく。

 だが、それでもまだ溶岩魚ようがんうおの味が残っているのだろう。時折眉根をしかめていた。 

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