03.呪い、或いは
有り得ない事が起きた。ドラゴンが動揺してしまう程の、有り得ない事が。
一体何が起きている?!!有り得んッ!
人の身で今のを受け、生きているなどっ!!!!
だがそれは、疑いようもない事実だった。
少女は、未だその場に、変わる事無く、在り続けているのだから。
効いていないと言うのか?地すらも溶かす魔法が?例え、火の耐性も持ち合わせていたとしても、それだけで耐えられるものでは無いぞ!
「──────ッッッ」
理解しがたい事態が起きてしまっている。
だが、己の最上級火力魔法が効かなかった。それだけで、今しがた聞き入れたばかりの願いを放棄する程、この精神は、弱く無い。
火も毒も効かん、なら。
その後もドラゴンは、己の使える術、全てを少女に向けた。
雷を落とし、風で切り裂き、岩で潰し、爪で、歯で、尾で……。
────駄目だ、何一つ、効かん。
全力で、攻撃を入れた。火と毒に耐性があるのであればと、他の攻撃なら殺めるに足るのでは、と思い。
決して、その容姿故に手を抜いた、なんて事はせず、全力だった。
にも拘わらず、少女は、イーリスは、未だ傷一つも付かないままその場にいた。唯一変わったとすれば、繰り出された魔法や攻撃により地形が更に変わってしまった事くらいだ。
然し、分かった事がある。
イーリスは、どうやら死に結び着く攻撃、──少なくともワシの放つ攻撃威力では、傷つける事すら叶わない、と言う事が。
絶対防御とでも言うべきか。だが、そんなぶっ壊れ現象がこの世に存在するとは思えない。何千年と生きているが、誰からもそんな話を聞いた事は無いのだ。
仮にそれが既に存在していたとしても、今まで立ち向かってきた人間が、それを自分の物にしていない筈がない。と、なれば、何か強力な、一種の呪い……。
そこまで考え、ゆったりと首を振るう。
どの道ワシではそこまでは見えん。今はどうしようもない事だ。それにしても。
クックッと咽から震えた音が漏れる。その音は徐々に大きくなっていってしまうが、無理だ、もう、抑えようが無い。
「クク、クッ、ハハハハハハハッ!!!参った!これは参ったぞ!イーリスよ!!」
「え?へっ?ふぁっ?!何か地面が凄くゴタゴタしてる?!」
今の今までひたすら祈りの姿勢で目を閉じていたイーリスは、やっと周囲の惨状を目にした。光の球体は消え、代わりに球体と似た色の光が、目に入る地面の大半を覆っていたり、自分の周囲だけやたら抉れていたり、何故か自分はまだ生きていて、ドラゴンは愉快そうに笑っていた。
「どうやら、現状、ワシの攻撃で、お主を殺める事は無理なようだ」
「────…………んっ?!」
「と、言うかだ。お主には死に直結する全ての攻撃が効かんように感じた」
「ンンンッ??!」
イーリスはそう言われると、黒い瞳を溢れんばかりにぱちくりと見開いた。
まぁ、普通に考えて、死にたかったのにお前は今、死ぬ事が出来ない身体だと、言われたら戸惑いもするだろう。
「まぁ待て、現状だと言っているだろう」
「えっと、どッ、ど、う、言う?」
「お主を殺せる方法を探す。生まれ持っての耐性か、或いは呪いか、はたまた別の何かか。だが、それらは決して永続ではない。何かしら破る術がある。生憎ワシはそう言った物には出会わず生きてきたから、その術を知らん。だから探す」
「探すって、でも、それじゃあ……」
「ワシはまだお主の願いを叶えられて無いからな。口に出した以上、最後まで面倒は見るつもりだ」
“最後“まで。それは、つまり、どう言う事なんだろう?
まだ幼い少女は、目の前のドラゴンの言う言葉の意味を、完全には汲み取れない。不安げな黒い双眸がドラゴンに向けられる。
「────そのままの意味だよ。お主、攻撃は全く通さない身体だが、普通に歳は取っているのだろう?探すと言っても、お主が天寿を全うするまで見つかるか分からんからな。終わりまで見届けるさ。何、五、六十年程度ドラゴンにとって些細な時間よ」
その言葉に、イーリスは、言葉を詰まらせた。