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24.厄災の魔女とは

黒髪黒目の少女はドラゴンに願う、「私を食べて下さい!」と。

何をぬかすんだこの童は、とも思ったが、どうやら少女は『死』を求めているようだ。ならば、痛みも感じないよう、一瞬でその命を終わらせてやろうと、ドラゴンは最大火力の魔法を放った。

───だが、少女は傷一つ負う事なく、生きていた。

生まれ持ってのスキルか、加護か、あるいは呪いか。だが、この世界に永遠等ない、原因を解明して、少女の望みを叶えるべく、少女とドラゴンは、共に旅を始める───。

 アシスを飛び立ってから、どれ程時間が過ぎたのだろうか。

 日は既に落ち、周囲は暗い。

 イーリスはリカロスの背中から地上を見渡すが、人が住んで居る集落が近くにないのか、暗闇が続くだけだった。


 そうして、暫く暗い闇の中を飛んでいると、前方に明るい光が見えて来た。

 だが、その光は街を灯すような温かな光ではなく、赤白く、何かが燃えているかのような光だった。


 あそこって……。


 イーリスは、その赤白さに覚えがあった。

 むしろ、忘れる事の方が難しい。

 何せそこは、数日前、リカロスとイーリスが、出会った場所なのだから。


 リカロスが言っていた、『邪魔者が入らない場』とは、どうやら此処のようで、リカロスは着地をする為に高度を下げ始めた。

 バサリバサリと翼を強くはためかせ、地面に打ち付けるように風を送り、着地の負担を極力抑えながら地に二足、四足と四肢を付ける。


 「ここなら誰も来んだろ」

 

 何時もの様に衣類を咥えられ、降ろされるイーリス。だが、今回は下が地面だからか、最後まで咥えられたまま地へと降ろされた。


 「何だか、地面ぐにぐにする?サラサラじゃなくなっちゃった……」

 「……やはり、熱くはないのだな」

 「?うん」

 「イーリス、お主のその死なない程の防御性能は、厄災の魔女とは関係がある物なのか?」


 その質問に、イーリスは難しい顔をする。


 「……多分、違うんじゃないかな?もし、関係ある事だったら、始まりの、『厄災の魔女』は、勇者に倒されて何ていなかったと、思う……」


 魔女の次は勇者何て言葉が出て来るとは、早速怪しい気配がしてきた。

 

 「イーリス、それは物語の話では無いのか?『厄災の魔女』も、『勇者』も、人が勝手に創り上げた妄想では無いのか?」

 

 正直、勇者と言う言葉が出た時点で、それらは創り話だったのだと言う方が、まだ納得出来そうな気がした。

 だが、そうだったとしたら、物語に感化された者が魔女と似た容姿だからと迫害するのは余りにも行き過ぎた事態であるし、それが長きに渡って続いてるとしたら尚更可笑しい話になってしまう。


 「へへ、物語……かぁ。本当にそうだったら、皆、幸せでいれたのかな?──でも、本当にあった事なんだ、千二百年前の史実だからこそ、今も、『厄災の魔女』は恐れられてる」


 千二百年前?


 リカロスはその時は何をしていただろうか?と、記憶をザッと思い出そうとする。が、見事に思い出せない。


 ……寝てたかも知れんな、その時代。


 ドラゴンと言う長命種であるからか、十数年単位で寝る、何てザラにある。


 そう言えば、人の世にあまりにも変化が見られなくなって寝床周辺に籠っていた時期もあったな。

 暇つぶしに周りの強そうな生物に喧嘩を売りまっくたら、敵わないからとワシを避けるようになった。  

 また暇になってしまい、仕方なしに人の住む区間に向かったら、急激と言っていい程に魔法が進歩していて、心躍らせたものだ。

 もしかしたら、そう言った事も、魔女なり勇者なり、何か関係していたのかも知れない。

 

 「──ならば、その、『厄災の魔女』とやらは、一体何をしでかした?何故それでお主が恐れられる事になる?」

 「……本には、『厄災の魔女』の魔法は強大で、人智を越えたもので、魔物も使役してたって……」

 「────?それだけか?」

 「後は、神様を、服従して戦わせてた、とか……」


 随分と歯切れの悪い答えだ。

 そして、お次は神と来た、やはり妄想の産物何ではなかろうか?と、再びリカロスの中に疑惑が浮上してしまう。

 

 「──私も、そこまで詳しく無いの、本に載ってた事しか知らないから。けど、『厄災の魔女』が黒髪黒目の容姿だったのは確かな事で、私がその、『厄災の魔女』と似た容姿なのは、『厄災の魔女』の呪いがかかってるからだって、復讐をする為に、災いを振りまく為に──」 

 

 呆れた。


 「では、何だ?人はお主が魔法や魔物を使い襲ってくるとでも思っているのか?そこに居るだけで、災いが起きると本当に信じていると?それであんなにも恐れ、束になり、子供であろうと容赦なく攻撃をすると言うのか?」


 呆れた。


 「大体その呪いと言うのは、人の勝手な憶測なのではないか?復讐?何故そう思う。過去にその、『厄災の魔女』の呪いを受けて、実行した者が居たのか?」

 「それは……分からない。呪いを受けた人は、皆直ぐ、()()させられてたみたいだから。私が、こうして今も生きてるのが、本当は有り得ない事なんだって」


 呆れた。本当に、人と言う生き物には。


 解放。とは、よく言った物だ。

 結局はそれも、恐れをなした者が、一方的に殺めていただけだろうに。

 

 ──ああ、でも、だからか。


 「イーリス、お主がそんなに、死を望むのは、『厄災の魔女』から解放されたいから、なのか……」

 

 死を望む本当の理由、それを知られたからか、イーリスは少し驚いた表情を見せ、そして、困ったように笑った。

 

 そんな事気にせず、生きれば良いでないか。

 イーリスの今の状態を考えるならば、そちらの方が絶対に良い。

 生きて、呪いなぞ関係が無いと知らしめれば──。


 だが、この考えをイーリスは感じ取ったのだろう。

 ワシよりも先に、イーリスが己の想いを口にした。


 「でもね、リカロス。こんな私にでも、大切な人は居るんだ。私が呪われていても、拾って、育ててくれた人が居るの、愛情を注いでくれた人が居るの。その私の大切な人達を傷つけてしまう可能性が有るなら──ううん、その可能性を見たから、私はそうする事を選んだの。私は、強く無いから……怖いの、大切な人達を傷つけてしまう可能性の方が──死よりも、ずっと、ずっと、怖い」


 その想いを聞いて、リカロスは只々、驚いていた。

 イーリスは、大切な者が傷付くくらいなら、自分が犠牲になっても良いと言う。

 そんな考え、自分には出来ない事だ。

 大切な者が傷付くと言うのなら、その全ての原因を排除する。

 それが、リカロスが今までにとった行動だ。


 多くを犠牲にしても、個を守るリカロス。

 多くが犠牲になるくらいなら、個を諦めるイーリス。

 

 逆なのだ。二人の考えは。

 そして、リカロスは理解している。

 その信念は、何人たりとも──曲げられない、変えられない、物なのだと。


 「そうか……。それが、お主の選択なのだな」

 「ごめんね、リカロス。私が弱いばっかりに、こんなお願いして」

 「……先にそう決めたのはワシだ。何も知らん癖に、浅はかな考えで物を言った。すまんなイーリス」


 言葉と共に、リカロスは頭をゆっくりと降下させてきた。

 イーリスの思い違いでなければ、その動作は謝っている行動であり。そんな状況に、イーリスは只々慌てた。


 「ううん!そんな事ないよっ!だって私、リカロスに出会わなかったら、自分の身体の事、分からないままずっと独りで彷徨ってるしか出来なかった……──だから、ありがとうリカロス。あの日、私を見つけてくれて」


 少し潤んだ瞳から、へにょりとした緩み切った笑顔を振りまいたイーリスは、自分の発言が恥ずかしくなったのか、言い終わってからその白い頬や耳を赤く染めていた。それを隠そうとした素振りを取らないのは、その事に気づいていないからか、赤白く発光している場で気付かれたないと思っているのか計りかねない。まぁだが、今少しだけその新鮮な反応を目にしておきたいと、リカロスは思うのであった。

 

 それにしても──。

 『ありがとう』なんて言葉、親しい者以外に真正面から真摯に言われた事なんてあっただろうか?

 

 こんなにもまだ幼くて。こんなにもまだ小さいのに。

 その漆黒の双眸から僅かに零れた涙と、笑顔は、何よりも眩しく感じた。


 何が、私は弱いだ。

 他の為に自分を犠牲に出来るお主の方が、ワシよりずっと────。


 「……フッ、クク。ハハッ、ハーハッハッハッハッハ!!!!やっぱり、お主には敵わんわ!!」

 「えっ?!な、何で、急に笑ッッ?!」


 「真剣に話したのに!」そう言いながら、こちらに駆け寄り、前足をぺちぺち叩くが、全く痛くない。

 それが、また可笑しく感じて、リカロスは続けざまに笑い声を上げる。


 ああ、決めたぞイーリス。ワシは、ワシで、勝手にやらせてもらう。


 今日の話で、新たに得られた情報も、新たな憶測や疑問も増えた。全部が全部、型に(はま)る事はないだろうが、それでも、イーリスとこうして関わった以上、少しくらい事を、歴史を、解明してみるのもいいかも知れない。


 もしかしたらその先で──変えられる未来があるかも知れないから。


 それにしても……まさか、一度人の歴史を捨てた者が、またこうして知ろうとするなんてな。

 こんな事を()()が知ったら、大いにドヤりそうだが……結局の所、幾ら反抗しても、手の上で踊らされているだけなのかもしれない。


 愉快な笑い声は、その夜の遅くまで響いていたとか、いないとか。

 その真相を知るのは、一人の少女と、一匹のドラゴンだけである。

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