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21.初めての買い物と

黒髪黒目の少女はドラゴンに願う、「私を食べて下さい!」と。

何をぬかすんだこの童は、とも思ったが、どうやら少女は『死』を求めているようだ。ならば、痛みも感じないよう、一瞬でその命を終わらせてやろうと、ドラゴンは最大火力の魔法を放った。

───だが、少女は傷一つ負う事なく、生きていた。

生まれ持ってのスキルか、加護か、あるいは呪いか。だが、この世界に永遠等ない、原因を解明して、少女の望みを叶えるべく、少女とドラゴンは、共に旅を始める───。

 リカロスが先に行き、狭い路地に一人残されたイーリスは、再度硬貨の確認をしていた。


 「これが、銅貨で、こちっが小銀貨、ちょっとおっきいのが、大銀貨……」


 ジャラジャラと通貨の入った膨れた袋は、イーリスには少しばかり重い。


 「お金使うの、初めてだ……」


 鈍く輝く、大銀貨を眺めながら、ポツリと言葉が零れる。 

 硬貨の数え方は、おじいちゃんとおばあちゃんに教えて貰った。

 けれど、その知識を使う機会は、自分に訪れる事は無いのだろうと、諦めていた。


 正直一人で行動するのは怖いけれど、『外でお買い物する』と言う、ささやかな憧れが叶うんだと、ちょっとワクワクしてしまっている自分が居る。


 「でも、出来れば、初めてのお買い物は、自分で貯めたお金を、使いたかったなぁ」


 イーリスが通貨の入った袋を眺めながら思い出したのは、家の手伝いをし、コツコツと貯めた、数十枚の汚れた銅貨。

 外で買い物何て叶わない事なのに、それでもおじいいちゃんとおばあちゃんは、手伝いのお礼だと言って、稀にではあったが、私に銅貨をくれた。


 普通の生活だって、苦しかった筈なのに。


 ──あの銅貨は、使わなさ過ぎて今は錆ているのかも知れない。

 けれど、二人に囲まれ、その銅貨を渡された時の記憶は、イーリスの中で、錆びずに、温かな輝きを放ち続けるのだろう。



*****



 「……もう、行ってもいいのかな?」


 少し時間を空けてからと言われたが、少しの加減が分からない。

 チラリと脇道から顔を覗かせて見れば、先程より人が増えたのか、道行く人影が多くなったのが分かる。

 日が沈む前に、町に入ろうと考えた人達なのだろうか。となれば、これから人の数がもっと増えるかも知れない、早めに買い物を済ませなければ。


 羽織、落とさないようにしなきゃ。


 リカロスから借りた羽織が落ちないよう、しっかりと握り締めると、イーリスは恐る恐る、その身を、人込みの中に潜り込ませたのであった。


 『気負付けて運ぶんだよ』


 お店の人が何かを言ってくれているが、言葉の通じないイーリスは、とりあえず頷き、その場を後にした。

 また、何事もなく、無事に品物を買えた事により、イーリスの顔には安堵が浮かんでいる。因みに、先程購入した店で五件目だ。

 

 リカロスは、好きな物を買えば良いと言っていたが、店を覗くのは初めてなのだ、どれもこれもイーリスには珍しく、新しい物に見えてしまう。

 仕方ないので先程同様、見た目で気になった物や、香りで気になった物を買っていき──途中甘い香りに興味が惹かれ、うち二つは甘味の物となってしまった。

 

 もう少し、買った方がいいかな?

 リカロスのお兄さん、お兄さんって事は、リカロスより大きいのかな?いっぱい食べるかな?

 

 立ち止まり、買った物を見て、少ないんじゃないかと思うイーリスであるが、五箇所回り、量もそれなりに買っているのだ、細い腕でこれ以上持つのは、どうも限界そうに見える。


 リカロスに、もっと買えばいいか、聞いた方がいいよね?あれ?でも合流って、リカロスがお酒買って来るまで、会えない感じなのかな?

 自分が、リカロスが向かった方に、行った方がいいのかな。でも、気配で見つけるとか言っていたから、変に動き回るのは良くないよね。


 どうしよう、どうしようと、人が増えて来た通りの端で、うろちょろしていると、突如背中側に、ドン、と、強い衝撃が走る。

 突然の衝撃に、何事だろうと、驚きつつも振り返ると、自分よりも幼い男の子が、ぶつかった反動でバランスを崩し、後ろに倒れそうになっていた。


 「────ッッ」 


 反射的に助けようとするが、生憎イーリスの両手は、荷物の重さで機敏に動く事が叶わず。男の子もまた、反射的に手を伸ばし──目の前に居た、イーリスの被っていた羽織を、力強く、握り絞めた。


 ズルリと、強く引かれた羽織は、内に隠していた髪と瞳を、簡単に晒してしまう。急いで戻そうとするが、人が多い道だ、それを見てしまった人数は決して少なくはない。

 

 男の子がドタリと尻を付き、泣くのと、その子供を追っていた母親が悲鳴を上げたのは、ほぼ同時で、周囲の視線は、一気にこちらへと集中した。

 母は我が子を守るように抱きしめながら、イーリスに指を向け叫ぶ、イーリスは、その言葉が分からなかったが、母親の言葉を聞き、周囲の目が変わって行くのは、はっきりと分かった。

 疑心と好奇心に揺れた者は、その姿を確かめたいのか、取り囲むように集まり、だが、恐怖心からか一定の距離は置き、イーリスに近づこうとはしない。


 まるで、見世物でも待っているかのようだ。ひそひそと囁く言葉は何を言っているか分からないが、含みのある視線が、何と言っているのかを教えてくれる。

 

 どう、しよ──……。


 囲まれたイーリスは、少しでも周囲の視線を断とうと羽織を深めに被ろうとするが、その隠そうとする動きすら気に入らないのか、数名が野次を投げる。

 それを聞いて気を大きくした者が更に声を上げて、通りは異様な熱気と空気に包まれつつあった。


 「──っ!──────!!」


 怖すぎて固まっていたら、人込みを掻き分けて、誰かがこちらに向かって来る。

 一瞬リカロスが来てくれたのかもと思ったが、人を掻き分け出て来たのは、しっかりと防具で身を固めた、警備兵だった。

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