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19.別行動

黒髪黒目の少女はドラゴンに願う、「私を食べて下さい!」と。

何をぬかすんだこの童は、とも思ったが、どうやら少女は『死』を求めているようだ。ならば、痛みも感じないよう、一瞬でその命を終わらせてやろうと、ドラゴンは最大火力の魔法を放った。

───だが、少女は傷一つ負う事なく、生きていた。

生まれ持ってのスキルか、加護か、あるいは呪いか。だが、この世界に永遠等ない、原因を解明して、少女の望みを叶えるべく、少女とドラゴンは、共に旅を始める───。

 数十メートル程早歩きし、こちらに気になる視線を送っていた店主の気配が薄れたと感じたリカロスは、ようやくその速度を緩める。


 ──気配が弱まったな、追うのを止めたか?それとも……。


 「フム……イーリス、速度を緩めるぞ。次はそこの青果店を見る」

 「はふ」


 イーリスは言われるがままに速度を上げ、着いてきてくれたが、多分本人は先程、店主に見られていた事も、店主が見せた視線も気づいていない。

 おそらく、調理していた肉に視線を向けていたのだろうが、まぁそれで嫌な思いを回避できたのだ、幸いな事だろう。

 

 だが、それにしても、理解出来んな。

 何故にあの人間はイーリスにあんな視線を?

 

 店主の、恐ろしい物を見たかのような反応。しかもそれは自分ではなく、イーリスに向けて。

 ふと、思い出されるのは四日前、イーリスに向けて攻撃をした冒険者共と、その夜、イーリスが発した、『悪い魔女』と言う言葉。


 ──魔女、か。

 あの時は何をふざけた事をと思っていたが、ここまであからさまな反応を立て続けに見せられ、三度目も起きようとしているのだ、何時までも悠長に一歩引いて腰を落ろし、踏み込まず、傍観者気取りなのは、止めだ。


 「リ、リカロス。そんなにいっぱい買ったら、持ち運びが出来なくなっちゃうよ?」

 「このくらい大丈夫だ。それにワシだって何も考えずに買っている訳ではない。この姿になった時用に、常日頃忍ばせてる物もあるのだ」

 「忍ばせてる?」


 イーリスの覚え違いでなければ、リカロスの服装に物を入れる場所は無かった筈だ。現に隠れている背中側からパンツをポスポス押し込むがポケットは見つからない。

 

 「何をしている、何をしている。ワシの着ている物に余計な機能は付いとらんぞ」


 そう言ってリカロスが手を伸ばした先は、着ている物が落ちないようにと縛っていた腰布。その結び箇所から、細長く丸められた、薄灰茶色の布を抜き取った。丸められていたそれを広げれば中々の面積があり、幼い子供ならすっぽりと入ってしまう位だろうか、とても結び箇所から出て来たとは思えない代物だ。

 

 「まぁ、いわゆるアイテムボックスと言うものだな」



*****



 出店に寄り、青果店に寄り、さて、次はどの店に?と、本来ならなっていた所だろう。だが、青果店に寄った後、二人の姿は、人気の無い細い路地にあった。


 「すまん、イーリス。先程の店でアイテムボックスを使用したのが悪かったのか、どうやらワシは、人攫いと疑われたようだ」

 「どうしてそんな事に???」


 リカロスは顎を擦りながら、困ったように唸る。

 確かに途中、周囲がざわりとした空気になり、自分の姿が隠せきれて無いのかと不安になったが、どうやら今回は、リカロスが原因となってしまったようだ。


 「まぁ、そう言たくなるのも分からなくはないが、傍から見たら結構怪しいからな、ワシ等。後は、人攫いポイントが重なったのだろうな」

 「人攫いポイント……」

 「店の者に、買った物を入れてもらおうとポイと渡してしまったが、そもそも人間にとっては稀有な物だと忘れとったわ」

 「アイテムボックスって、創り話だけに存在する物かと思ってた」


 ぽわぽわ~っと思い出すのは、よくある冒険譚の童話だ。アイテムボックス、子供なら一度は夢見て憧れるアイテムだろう。それをリカロスが持っているなんて。

 後でじっくりと見せてもらおう。


 「人の世に流れている筈だぞ、コレは。だが、まず常人なら手にする機会は無いだろうな。余程の富豪か、名のある冒険者位だろう、持っているとすれば。だから、ワシのような軽装な出で立ちの者が、コレを持っている自体怪しいのだ」

 「それが何で人攫いに関係するの?」

 「金になるからな、人を売るのは。当の昔に禁止されてた覚えがあるが……それで余計、価値を高めてしまっているのかもな。まぁ、後は商人ならば持っていても可笑しくはないだろうが、やはり、結局の所出で立ちよな。背に隠している肌色が違う子供と、金遣いが良く、他国語が分かる人相の悪い男。まあ、疑いの目が向けられても可笑しくはないかの」


 リカロスが上げたポイントを、頭の中で復唱し気付く。

 自分が羽織の中に隠れず、森に潜んでいれば、その疑いの目が少しでも向けられずに済んだのではないかと。


 「──まぁそんな訳だ。イーリス、ここは少しでも分かれて行動せんか?お主は、出店を回り、食いたいのを、気になったのを買う。ワシはその間、酒を買いに向かう。買い終わったら、気配を追ってお主に合流、町を出る。と、言う流れでどうだ?」

 

 話の流れ的に、そうなる予感はした。

 この町に向かうと言われた時は、リカロスの代わりに、買い物をしようとまで思ったのだ。結局人の多さを目の当たりにして、隠れてしまったが。


 私のせいで迷惑をかけてるんだ、少しでも役に立たないと。


 「あ、でも、私……リカロスとお店の人が、何言ってたか分からなかった……」

 「別にそこは気にせんでいい、店前で欲しい数を指で表せれば充分だ。金銭は数えられるのだろ?」

 「う、うん。お金の数え方は、教えて貰った事があるから、大丈夫」

 「ならば、良し。後は、一応これを被せとけば……ふむ、サイズはデカいが顔まで隠れるし丁度良いだろう」


 リカロスがイーリスにバサリと掛けたのは己が着ていた羽織。通常で着せたら完全に裾を引きずる形となってしまうが、頭迄被せてしまえば、程よく隠れ、良い長さだ。 

 

 「ワシは先に行っとるが、イーリス、お主は少し時間を置いてから出てくれ。ああ、だが……もし、一人が無理そうなら、無茶はせんで良いからな」

 「──うん、ありがとう……リカロス」

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