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13.目覚めと魔素量測定

黒髪黒目の少女はドラゴンに願う、「私を食べて下さい!」と。

何をぬかすんだこの童は、とも思ったが、どうやら少女は『死』を求めているようだ。ならば、痛みも感じないよう、一瞬でその命を終わらせてやろうと、ドラゴンは最大火力の魔法を放った。

───だが、少女は傷一つ負う事なく、生きていた。

生まれ持ってのスキルか、加護か、あるいは呪いか。だが、この世界に永遠等ない、原因を解明して、少女の望みを叶えるべく、少女とドラゴンは、共に旅を始める───。

 場面は変わり。

 ロヴァレンス邸では、深い眠りに就いていたレッフェディオンが、漸くその両目を開こうとしていた。


 「ゥ…………」


 換気の為に開けていた窓から入った風が、サラリとレッフェディオンの頬と、髪を撫でていく。だが、その風は、まだ少しばかり肌寒い。


 「…………ア゛────────……」


 (まぶた)がピクリと動き、銀白色の睫毛の間から、パライバトルマリンのような色の瞳が現れ──た、と思ったら、両手で顔面を覆いだした。


 やってしまった。

 過去最高にやらかした。

 申し訳なさ過ぎて、もうお父様の前には姿を出せない。


 「……あれから何日経った?お父様は──」


 反省は一先ず置いておき、自分が倒れてからどうなったか?情報が欲しいと思ったレッフェディオンは、起き上がろうとし、ビキリとした全身の痛みと、痛みにより上げた悲鳴が頭にも響き……。

 二つの痛みが身体を襲い、ベットの上で声無く苦痛の悲鳴を上げた。


 「っっ~~~~~」


 コンコン


 「執事のドルティオラです。入室失礼致します、レッフェディオン様」


 扉をノックする音が響いた後、名乗りを上げ、一人の年配の執事が部屋へと入って来た。

 パリッと糊付けされた皴の無いスーツを着込み、ロマンスグレーの髪を撫で上げて整え、ショートボックスな髭は、相手を不快にさせないよう良く整えられていて、まぁ、所謂(いわゆる)、紳士的な見た目をした執事だ。


 彼は先の名乗りの通り、ドルティオラと言う、ロヴァレンス家に長年勤めている執事長だ。

 御爺様の代から勤めていて、主にお父様の世話焼き係として側に居たそうだ。以降は僕の世話焼き係となっていたが、それも幼少期迄の事。

 暇になった現在は、家の管理や、新人の教育、当主不在時の代理連絡受付役等の業務を受け持っている。


 「ああ、やはり、起きられになられてましたか。伺って正解でした。急ぎ湯の支度と食事の準備をさせますので……おや?どうなさいました、レッフェディオン様?まだ身体の具合がよろしくなかったのでしょうか?」

 

 「……身体と、頭が、物凄く痛い」


 弱々しく言う彼の瞳は、少々涙目だ。


 「魔力ポーションの乱用による疲弊(ひへい)魔力回路痛と、長時間魔法行使による疲労頭痛ですな。おめでとうございます、レッフェディオン様。また一段階、上の世界に足を踏み入れたご様子で。アイリニーヒ様もこの報告を受ければ、我が子の成長をお喜びになられる事でしょう」

 

 「──喜ぶ、か……。どうだろうな、僕は随分とお父様を失望させてしまったから」

 「レッフェディオン様……」


 思い出されるのは三日前の事。

 小雨の降る中、物凄い速度で、見知らぬバイコーンが、屋敷内へと侵入した。

 馬の下鞍(したぐら)にはロゾニクス家の紋章が入っており、何事だと警戒を最大限に引き上げたが、そこに乗っていたのは、憔悴(しょうすい)しきったレッフェディオン様だった。

 想定外の人物がバイコーンに乗っていたものだから、警備兵達は酷く困惑していた。

 そして、高さのある馬から一人で降り、ふらふらと移動するさまを見て、休ませようと誰もが心配の声を上げた。

 結局、外と中の者では静止することが出来ず、レッフェディオン様は御当主様の執務室に入り──……。

 

 私は、執務室へ入る事を許されなかったが、その後、気絶するレッフェディオン様を運ばれるアイリニーヒ様の姿を思えば、失望など、とんでもない。

 

 「──失望ではなく、心配だったのでしょう。レッフェディオン様があまりにも無茶な事をなさるから」

 「そう、だろうか……」


 そうだったとしたら、この上なく嬉しい事だろう。

 けれど、だからと言って、自分の犯した失敗は、確実に取り返しのつかない過ちだ。


 ……気が重い。


 「ドルティオラ、お父様は、今、何方に?」


 意を決して、聞いた。

 だが、その言葉に、ドルティオラは申し訳なさそうに答える。


 「申し訳ございません、レッフェディオン様。アイリニーヒ様は三日前、レッフェディオン様を寝室に運んだ後、北方の魔鉱石採掘場、及び居住区に、獣人が略奪に来たとの連絡を受け、夜遅くには出立を」

 「なッ、またなのか?!二ヶ月前にも攻めて来たばかりだっ!ッッ~~……」


 つい叫んだのが悪かった。まだ完治していない魔法回路の痛みが、全身へと響く。


 「ええ、水の季節が終わったと言え、まだ、土の初月ですから、相手側は物資が無く、苦しいのでしょう。アイリニーヒ様の事ですから、直ぐ、お戻りになられるのではないかと、存じ上げますが」 

 「そうか、分かった……」


 魔鉱石採掘場、そして居住区は、この国、イディクエサの最北防衛ラインギリギリに造られた場所だ。

 高い山脈の中に造られている事もあり、整備しきれていない山の移動は中々に不便で、この最北の都市ベルノベルンから三日近くはかかってしまう。


 まぁ、行き慣れたお父様なら、今頃、処理ににあたっているかも知れない。そうなると、戻ってくるのは……四日後ぐらいかも知れないな。

 それまでに、この状態を直さないとな。


 「では、レッフェディオン様。まずは体内魔素量の測定と、魔力量の回復具合を、測らさせて頂きます」

 「──分かった」


 ドルティオラがそう言うと、タイミング良くメイドが部屋に入ってきた。その手はワゴンを押しており、そこには二つの道具と、軽い医療箱が乗っていた。

 

 「では、失礼致します」


 ドルティオラは医療箱の中から、縫い針を取り出すと、レッフェディオンの指と共に消毒を施し、その針を、プツリとレッフェディオンの人差し指へと刺した。

 指の上に赤く小さな玉が現れると、すかさず純白の長方形の道具を用意し、(くぼ)みのある個所に、血を数滴と垂らした。


 ぽたぽたと落ちる血を吸収した道具は、赤く発光し、ミリメートル単位で刻まれた横を、赤く発光した線が、滑らかな速度で通り過ぎていく。

 ある程度を行くと、その速度もゆったりとしたものになり、終いにはピタリと止まってしまった。ドルティオラはその止まった場所の目盛りを、カリカリと用紙に記録した。


 「ふむ。……レッフェディオン様、魔力ポーションは何本飲みましたか?」

 「…………行きに二本、帰りに四本……。そんなに、魔素量が減っていたのか?」

 「いえ、そうでもないです、ね。七ヶ月……と言ったところでしょうか?魔力ポーションのお陰でしょうかな、この程度で済んだのは」


 未だ用紙に書き込んでいるのは、おおよその魔素消費量を計算する為の式だろう。見ているだけでウンザリするような複雑な数式が、幾重にも(えが)かれていた。 


 「七カ月か……」


 モルテサオネ砂漠からこちらに来るまでの道のりは、完全に食事と睡眠を取らずに来たのだ。そのくらいで済んだのなら、良い方だろう。


 個人的には戒めとして、もっと減っていて欲しかった位だけど……。

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