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3:始まりの日
……逃げなきゃ。
本能で危険だと察知した瑠奈は逃げようとしたが、男の力なのか恐怖からなのかわからないが、足を動かすことができなかった。
男から視線を外すこともできず、ただカタカタと震えて立っているだけだった。
「……逃げようとしないで。
……私は月姫の心臓を手に入れたいだけだから。」
そう言って男は口元に妖艶な笑みを浮かべた。
……月姫?
男の発した言葉に理解はできなかったが、危険なことに変わりないと思った瑠奈は、自分に叱咤して走り出した。
「…逃げないで、月姫。
君はこの運命から逃れることはできないのだから。」
走っても走っても追いかけてくる男から、瑠奈は必死に逃げていた。
「……無駄だよ。
………君はこの運命から逃れることなどできないのだから。」
目を細めながら妖艶に笑っている男は、必死に走って逃げている瑠奈をみて楽しそうだった。