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3:戻ってきた者
「後で行く。」
そう言って彼はまた月を眺めだした。
「こんの糞ガキがぁ!!
せっかく姫さんが声かけてるのになんちゅう態度や!!!」
「はいはい、年下に意地にならないの。」
少年の素っ気ない態度にキレる啓太。
今すぐ殴り掛かりそうな啓太を羽交い締めにする祐輔。
龍はずっと少年を見つめている。
というよりも、睨んでいる。
あの少年のことを知ったのは、1週間前。
ただ、もう少し前に瑠奈は彼に出会っていた。
―――1週間前
あの日、秀一と別れてからみんなで桜井家に向かった。
たくさんある和室の中で、ある1室に布団をひき、そこに一樹を寝かせた。
顔の痛々しい傷。
服には血の跡もある。
所々、赤黒く変色している。
「珠李。」
「はい。」
天磨に名前を呼ばれた珠李は、返事をする一樹の横に座った。
珠李は両手を一樹の体の上に置いた。
目を閉じる珠李。
すると珠李の両手から光が溢れた。
一樹の体を全て包み込むその光は、とても温かかった。