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10:始まりの日
「申し訳ありません。ただ今姿を見せます。」
突然声が聞こえてきた。
だが周りには人がいない。
一点を見つめていた瑠奈の先に、その声とともに優しそうな男が現れた。
「私は香林と申します。」
そう言って香林はゆっくりと頭を下げた。
現代とは全く違う格好をした香林を目の前にして、瑠奈は戸惑っていた。
そして一番気になることを尋ねた。
「……あなたは…人間ですか?」
瑠奈の言葉に香林は驚いたような顔をしたが、それは一瞬ですぐに笑顔になった。
「さすが瑠奈様。
…確かに私は人間ではありません。
…しかし瑠奈様の敵でもありません。」
香林の表情はさっきと同じ笑顔なのに、急にすっと雰囲気を真面目なものに変わった。
「私が話せるのはここまでです。
ご自分の運命を知りたいのであれば、私についてきてください。」
香林はそれだけ言うと、黙って瑠奈ににこにことほほ笑んでいた。