三十二 最深部へ
「信頼してくれてるってことでもありますよね……?」
喜ぶべきなんでしょうか。
僕は『終焉』という能力を使った後に倒れたクロノ様を背負って、洞窟の最深部を目指しています。
身体能力の上昇のおかげか疲労はありませんが、なんか別に喜びを感じることはできませんね……被虐趣味ではないので。
「そういえば、この方、本当に僕が気絶していたと思ってたんですよね。少し驚いてしまいました」
クロノ様は色々な能力をお持ちなので、僕が痺れているだけということをお気づきかと思っていたのですが、どうやら気づいていなかったよう。【冥徒】の称号の力で何となくわかりました。
本当に疲れていたんだなぁ……と思います。
「そういや、あのクロノ様の能力は本当に強かった……怖さすら感じましたからね。あれは食らいたくありません」
震えながら、呟きます。
本音な独り言。本人が聞いてないのに、嘘をついても仕方がないですし。まあ、聞いていても嘘はつかないと思いますが。
「時が止まったかのような感じでしたけど、あれは本当に時が止まっていたんですかね。不思議です……」
「イスヴァ、聞こえてるよ」
「うわっ、クロノ様!」
背中から声がしたので、驚いて飛び跳ねてしまいました。またまた僕は失礼なことをしてしまった! 最悪です、僕は。
「すみませんすみませんすみません!!」
「いや、別にいいけど……それより、独り言聞こえてたよ?」
「……あ、はい。別に聞かれてもいい内容なので……大丈夫ですよ」
「大丈夫なんかい。あ、時が止まったかのような感じとか言ってたけど、本当にあの時は時間が止まってたよ」
やはり。ということは……
「僕の称号が原因で動けていたのかもしれませんね」
「ああ。あと、私のあの能力は本来は周囲の意識ある者、全てに害がある。それが効かなかったようだから、君の称号は私の能力を跳ね返す力も持っているようだ。本当にすごい。ヤバい」
ちょっとそこまで褒められると照れてしまいますね。
さっきから何度目かわかりませんが、僕は頬を赤らめます。ちなみにそっぽを向いてます。
ま、そんなことしても顔は見られていますけどね……
「何でもいいだろう。早く最深部へ行こうじゃないか」
「は、はい……?」
クロノ様は僕の背中から自分で降りると、準備のために軽く運動をしてから歩き始めました。
「……え、あの……あんまり、動いてはダメです! クロノ様、あなたは今! 疲労が溜まっているのでしょう!?」
「……大袈裟だ。確かに疲れたが、歩けないほどじゃない。気にするな。そんなことより、君こそ疲れているだろう。私の背中は空いているから乗ってもいいんだぞ? ほら?」
いや、「ほら」などと言われても乗りませんって。
……ピンピンしているようには見えません。十中八九取り繕っている。何か、治癒などができるものがあればいいんですが。
称号が成長したのか、感覚的に最深部が近いことはわかります。でも、何か落とし穴などの仕掛けがあって、命が危険に晒される可能性というのはゼロではありません。心配です……
「……十分ぐらい経ったか」
「そのくらいですね」
結局、ここまで罠はありませんでした。驚くほどに。
でも、警戒は解いていません。最深部が一番、罠が仕掛けられている可能性が高いと踏んでいるからです。
「君、通れるんじゃない?」
「え?」
最深部はやはり、簡単に入られないようにするためか頑丈な結界らしきものが張ってありました。この結界は普通の結界と違い、中の様子がわからないように紫になっています。
色から受ける印象ですが、毒の壁っぽい感じです。結界らしさはちょっと薄いかもですね。
その結界の近距離には不釣り合いな美しい草が自生していました。少し、見た目が違いますが、これも賢妖草のようです。どうやら、洞窟のせいで変異してしまったらしいです。
そういうこともあるんですよ。すごいですよね。ああいう花を飾ると綺れ……って関係ないことを思いました。
……それは置いとくとしまして。
「何故、僕が結界を通れると?」
「根拠はない。何となく。君のその称号はヤバいからね。ここを通るための能力なんかも持っているかと思っただけだよ」
「【鑑定の魔眼】というもので視ていないのですか?」
最深部までの道程で彼女からそういった魔眼を持っていることを教えられたので知っています。彼女曰く、「私は君の魔眼を知っているのに、私は自分の魔眼を話さないのはよくない」と。
あなた、初対面時に僕の名前を勝手に視たのに、自分の名前話しませんでしたけどね。何言ってるんですかね……
……と思いもしましたが、言いません。早く行きましょう。
「……無理ですよ、普通に」
結界に頭を衝突させた後に僕はそう呟きました。
「そうか。じゃ……無理やりに破壊するか。イスヴァ、頼む」
「む、無理やり?」
「君なら行けるだろう。あの黒魔法を使うんだ。その威力の強さはもう見たから知っている」
「……かしこまりました。クロノ様」
口答えするのはメイドとしてよくありません。
僕は『収納の魔眼』を発動。虚空から出現した箒を握り、先程の戦闘時のように魔力を溜めます。コツはあの一回の使用でわかったので、これに時間がかかってしまうことはないですね。
『強黒球』……それの射出により、結界は一度の瞬きよりも高速で破壊され、最深部の内部が明らかになりました。
この結界は破壊されたことで紫色の粉と化し、その場に散らばったのですが、これは踏んでも大丈夫なものでしょうか。
少し近寄ったことで魔力を感じ、僕はそれが魔力粉だということに気づきました。どうやら、結界は魔法結界だったようですね。
「……ど、毒々しい色してますけど……大丈夫、ですよね?」
「もし、毒だったとしても飛び越せばいい話だ。二重結界になったりはしてないよ。もう少し気を抜……いや」
「な、何ですか?」
突然、クロノ様の表情が変わりました。
「……何かがいる」
「何か……?」
見渡してみますが、何も……
天井に隠れているとか? 地面に潜んでいるとか? それとも、奥に何か別の空間があって、そこに?
「わからない。だが、前言は撤回しよう。気は抜くな」
「は、はい!」
まだ戦うんですかね。いい加減疲れたんですけど……
これは、多分クロノ様も思っているでしょう。僕にいい格好を見せるためか鬼気迫る表情をしてますけどね。
そんな僕たちの表情を崩してくれる存在は地面から現れました。
……ズボッと。モグラのように。
二人同時に口をあんぐりー……
出てきたのは……さっきから探していたあの被甲目でした。
かわいい表情でこちらを見つめて……ました。はは……
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