(5)
いまだにイライラしている私は、いつもより一本早い電車に乗ることで宙奈を無視し、悲しませようとしたのだが、宙奈は何事もなかったように学校にやって来た。
「おっはよ、怜香。」
宙奈は、欠伸まじりにそう言った。
その時、勝手に二人を拒絶しようとした自分を恥じたのもつかの間、宙奈は、またもや私にありがた迷惑のようなことをし始めたのであった。
「駆くんが、怜香のメアド欲しいって。」
な、何だって?
「だから教えてあげれば?ほら、今駆くん来たよ!」
宙奈は私を押し出すと、見守るように机の影に隠れたのだ。
継原には、同じ委員会という申し訳程度の付き合いとしてメアドを教えてあげるなら構わないと思っていたから、私は宙奈の行動に、本当に驚いてしまった。
無論、継原が私のメアドを知りたがっていたわけではないだろう。
所詮宙奈のでっち上げだ。
「わふっ!ほわわわぁ!!!」私は、宙奈に押されたまんまに、前に押し出されていった。
止まることなく、私の体は進んでいく。
全身の細胞が、継原に近づくことに抵抗している。
このままでは、間違いなく継原に衝突する。
…それって、宙奈の思い通り!?それとも、想定外!?
どちらにしても、この上ない迷惑である。
今、継原にぶつかるっ……
と思ったときに、私は机に足を引っ掛けた。
机をなぎ倒してそのまま床に倒れこむ。
こういう時、ドジなのは凄く役に立つと思った。
継原は、心配して声をかけた。
「古滝、大丈夫!?」
死にそうです。今すぐに救急車をよんでください。
…なんて言う訳ないし。
「大…丈夫……。」
継原は、さっきからこっちをチラチラ見てくる。 宙奈には気が付いていないらしい。
宙奈が、机ごしに心配そうにのぞいている。
継原はさっきの私と宙奈の会話が少しだけ聞こえていたらしい。
だから何を勘違いしたのか、それとも正しく理解したのかは分からないけど、
「メアド、教えてあげる。」
と言って、適当なメモに几帳面そうな字でメアドをかいて、その紙を差し出した。
「メールしろよ。」
継原は居なくなった。