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紛れもなくそれは、宙奈(そな)が私にくれたこともある、あのビスケットの独特の香りだった。

宙奈はあのビスケットが好きなのか、よく食べていたのだ。



急いで辺りを見回す。


しかし、宙奈らしき姿はまったく見つからなかった。



その時だ。

不思議なことに誰も担当者の居ないカウンターから、栗色の頭のようなものが見えた。



そして、無人に見えていたカウンターの下から、宙奈がその顔を出したのだった。

手には、例のビスケットが握られていた。


「……怜香?どしたの?」

少し心配そうな視線で、宙奈はこちらを見てくる。


再びビスケットの匂いが鼻に染み込み、体じゅうを包みこんで、そして一気に私は泣き出した。


「…………?怜香?ねえ、何泣いてるの、ねぇったら。」

宙奈は慌てふためきながら近づいて来て、私をなだめすかす。


私はただただ安心していた。宙奈の髪の毛の花に似た香りが、私の凍り付いた心を春の訪れを知らすごとくに暖かく溶かしてゆく。私の心には花が咲き乱れていった。


「良かった……ほんとによかったよッ」

「……………?どうしたの、ってば?」

宙奈が完全に困惑してしまっている事は申し訳なかったが、事情説明なんてしたら大はしゃぎする気がするので曖昧に誤魔化した。

「うん……ちょっといろいろあったの。聞いたら駄目だからね。」

「そっか」

何事も無かったかのように受け流し、宙奈は微笑んで言った。

「図書委員の手伝い、してくれる?」


最近怜香たんが無性に愛しい。

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