(11)
「ふええぇぇえ!?」
駆の奇声が響く。
目の前には、いつも通りの駆がいた。
それに少しほっとする。
あの真面目モードだと……なんか話しづらいから。
「いやいや、怜香様、さすがにそれは無いでしょ。そこは余韻を楽しむんでございまするよ。二人で。二人きりで!!」
様づけだし、所々言葉づかいがおかしいが……あえて無視して、私は続けた。
「とにかく、さっきも言ったけどあたしは急いでんの。」
「……はいはい。」
駆が仕方なく降参した瞬間、私は彼の横を超高速ダッシュで駆け抜けた。
「……怜香!?なんであんな急いでんだ……?」
一人、突如置いてきぼりにされた駆は、そうポツリとつぶやいた。
*
久しぶりに全速力で走ったので、さすがに息が切れた。
頭の中には、キサメの「あと5分」という言葉がまだ響いていた。さっき駆が「はいはい」と言った瞬間、この声が突然頭に響いたのだ。
間に合ったのだろうか……………
びくびくしながら図書室の扉に手をかける。
もし間に合っているなら、今日、図書委員会が当番の宙奈が居るはずだ。間に合っていないなら……
手に力を入れ、扉を押す。
見慣れた暖かい景色と、適度に空調の利いたほんわりした空気。
そして鼻をくすぐる、甘く小麦のような匂い。
サクサクと小刻みに室内に響く音。これは…………
「宙奈!?」