(10)
「えっ、言わせるだけ言わせてやらせないのは困るぞ!」
何だ、この会話。
半ば呆れる。
てか………やらせるとかさ。何か勘違いしてない?
「あたしはキスだけしたらすぐに去るからね?」
大体突然キスする必要性が出てきたのも、宙奈のため、という理由がほとんどだし。
「うぅ……何だよそれぇ。」
駆はやはりキス以上を求めているようだが、
「あたし急いでんのよ。確認だけ済ましたら帰ろうと思ってたのにぃ…」
と拗ねることで誤魔化す。
「ふ、古滝が言うならしょうがないけど…」
「じゃあ早くしてよ」
「……はいはい…」
好きな相手に“しょうがなく”キスする、ってのも変な話だが、まあ駆と私という何ともデコボコなコンビなら仕方ないだろう(仕方ないってことにして良いのか?)。
駆が一歩近づいた。自分の体が緊張できゅっと引き締まるのが分かる。
もう一歩。顔と顔の距離が30センチくらいになった。
駆は息を吸って、また一歩近づく。暖かい息が顔にかかる。
私は心臓が変にドキドキしてくるのにつられて、何だか焦る。
(近すぎてよく分からないが、)いつになく真面目な顔の駆。瞳の微妙な色合いを見つめている間に、駆は最後の一歩を踏み出した。
頭の中の色んなものがこんがらがって、思考回路が回らなくなって…
一分間、沈黙。
しかし、再び二人が離れた時には、私は次にすべき事を考えていた。
「今から図書室に戻るから。」