第七話 雪の少女
2700文字!ちょっと長め!
しばらくマッピングしながら歩いていると、ついに最初の敵が現れた。
最初の敵、それは水の体を持った狐だった。
サイズは大体大型犬くらいでかなり大きく、俺を見つけるなり、両手の爪を剥き出しにして飛び掛かってきた。
咄嗟に体が動き、杖を振るって地面に叩き付けた。
そこまでやって俺はちょっと驚く。
今の動き、ぎこちなさが少ない滑らかな動きだった。セットした『杖術』の効果なんだろうけど、杖どころか武器自体扱ったことのない俺でさえ、それなりの動きが出来るなんてすごい効果だ。
と、そんなことを考えて少しフリーズしてしまったせいだろう。その隙をついて、水狐が俺の杖から逃れてしまった。
しかも、逃れるに当たって水の矢までこちらに飛んでくる。『魔力察知』で水の矢の込められた魔力量を測り、同等の魔力を込めた『光魔法』の矢で迎撃し相殺するが距離を取られてしまった。
しかも、そこにさらに水の矢が飛んでくる。
もう一度『光魔法』で相殺、さらに連続で光の矢を生み出して放って攻撃するが躱され、なおかつ反撃として引っ掻き掛かってきた。
今度は下段から攻撃を放って迎撃し、飛び掛かったことで無防備になった水狐の腹部を叩き、大きく上に飛ばしてやる。
そして、隙だらけになった水狐にいくつも光球を放って高度を保たせつつ光の槍を用意して、それを使って水狐を貫いた。
「いやいやいや、1層とレベルが違い過ぎるだろ」
倒されて消えて行く水狐を見つめながら、俺は思わず呟いた。
適性レベルが上がったことは分かっているが、ただただステップを踏んでいれば勝てた一層とはえらい違いだ。
まあ、今から日が明けるまで探索するつもりだから、それまでにはここでの戦い方にも慣れてくるだろうけど、それまで上手く魔力の量を考えながら戦わなくてはいけなさそうだ。
というわけで改めて強く杖を握り締め、スマホをもう片方の手に持ち、俺は2層の探索を開始した。
それからしばらく経ち、朝の6時を迎えた頃に俺は休憩場所となる『力の泉』がある小部屋を見つけた。
それまでにレベルは23まで上がり、遭遇した敵からは『攻撃強化』『視力強化』のスキルカードを手に入れていた。
《『力の泉』に浸かった》
《HPMPSPが全回復しました》
《レベルが上がりました。Lv23→Lv25 基礎能力が向上しました》
《汎用スキル『給水』を入手しました》
さらに部屋の中に入り、『力の泉』に浸かると一回目と同様にレベルアップして全回復し、『給水』という汎用スキルのスキルカードが手に入った。
さっそくカードを使って取得し、『給水』を使う。
さらに生成した水を飲んでみた。
「…普通に美味いな。水魔法の水は飲めたものじゃなかったのに」
実は探索中に喉が乾いて『水魔法』で生成した水を飲んだのだが、それが尋常じゃなく不味かったのだ。
腹を壊すとかそういうことはなかったから多分有害なものが入っているわけじゃないんだろうけど、あれはあくまでも『水魔法』の水であって、飲料水ではないんだろう。
まあ、そんなわけで『給水』は地味にありがたい。
しかも、『給水』はスキルだから魔力の消費がなくて尚更な。
「さてと、あとは宝箱だけど…おっ、あったな」
それから視線をあちこちに飛ばし、1層と同数の三つの宝箱を見つけた。
『力の泉』から上がり、その宝箱に近付いて三つとも開けるとアナウンスが流れる。
《スキル『念動力』を入手しました》
《アイテム『精霊樹の剣』を入手しました》
《アイテム『スキルチケット』を入手しました》
宝箱の中身は以上の通り、『念動力』のスキルカード、『精霊樹の剣』という銘の木刀、そしてお決まりの『スキルチケット』だ。
そのまま『スキルチケット』を使用すると、そこからは『気力操作』『解体』『魔力操作』を手に入れた。
「さてと、そろそろ朝食だろうし戻るか」
そこで俺は丁度良いと思い、宝箱の中身を回収して、この部屋の中にある魔法陣に乗って迷宮を後にした。
…ちなみに、魔法陣に入る直前で思い出して『隠密』をセットして使ったので、誰かにバレることなく避難所まで戻ることができた。
『精霊の杖』と『精霊樹の剣』に周囲から見えなくなる『偽装』を掛け、『精霊樹の剣』は腰のベルトの穴に通し、長い『精霊の杖』は『念動力』で持ち上げて俺から付かず離れずの距離で浮遊させる。
そうやって手持ちの装備を隠して避難所に戻ってきた俺は、なにやらテントの前が騒がしくなっているのに気が付いた。
そのまま近づいて行くと、そんな俺に気付いたのかその騒ぎの中にいたらしい秋野中佐が騒ぎの輪から抜け、俺に話しかけて来た。
「御魂君、やっと戻って来たか」
「秋野さん、騒がしいですけど何かあったんですか?」
「ああ、実はな。君から貰った情報を基にして迷宮の調査隊が組まれたんだがな。そのチームが早速成果を上げたんだ」
迷宮の調査隊が成果を上げた?それって迷宮の生成に巻き込まれた人を救出したということだろうか?
確かに、それならテント前が騒がしくなるのも納得だ。
だが、なんというか、そういう喜びから来るような喧騒には見えないんだよな。どちらかといえば、なにか焦っているような慌ただしい騒がしさだ。
「どんな成果を上げたんですか?」
「迷宮の隠し部屋及び救助者の発見だ。だがな、見ての通り救助が出来ていないんだ。しかも、救助者は意識がないと来た。慌ただしいのも分かるだろう?」
「なるほど、そういうことだったんですか。でもそれって、俺に言ってよかったんですか?」
状況があまりよろしくないのは分かった。
だが、だからといって、というかだからこそ、あくまでも一般人でしかない俺にその情報を伝えて良かったのだろうか?
それにもし伝えたとしても、もう少し安心させるように伝えるのが普通のような気がするんだけど。
「君になら言っても問題ない。むしろ、詩咲中将から、もし良ければ作戦に参加しないか聞いておいてくれと言われているのでな。どのみち言わざるを得なかったな」
「いやでも俺、ごく普通の一般人ですよ?参加したって、なんの役にも立ちませんって」
と、俺がそう言ったその時だった。
「なにを言っているのやら、お主がただの一般人?冗談もほどほどにするのじゃ。お主のその気配、少なくともただの一般人の気配ではないのじゃ」
俺の後ろからそんな少女の声が聞こえて来た。
振り向くとそこには人形のように美しい少女が居た。新雪を思わせる長く白い髪に永久凍土の氷のような青い瞳、その容姿はただひたすらに美しく、一種の神々しさを生み出していた。
見に纏う白い着物と相まり、その容貌はまさに美しき雪の妖…雪女とでも言うべきものである。
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