第十二話 変わった姿
「そう言えばなんですけど、刹那さん的にアイテムやスキルの解析ってどれだけ価値がありますか?今すぐってわけには行きませんけど、商売とかにできませんかね?」
「うーん、正直な話、かなりの価値があると思うな」
今だとアイテムとかスキルの解析手段があるなんて話聞いたことないから、お金を払ってでもやって欲しい人は沢山いるんじゃないかと思う。
俺だって、今まさに効果が分からないスキルを手に入れたばかりだしな。
ただ、その商売を始めるなら色々と必要なものがあるだろうとは思う。
「ただし、その商売を始めるなら最低でも強力な後ろ盾を持ってないとダメかな。理由はいくつかあるけど、今の現状だと何よりも突拍子がないから、なかなか信頼されずに商売が成立しないんじゃないかな?」
まあ、あくまでも俺が考えた結果でしかないから確証はないんだけどな。それでも汎用スキルの『鑑定』が自分のステータスくらいしか見れない現状だとアイテムやスキルの解析はかなり貴重だろう。
だからそれと同じくらいの危険があるだろうし、野良の解析屋なんて進んでやらせる気にはならない。
だけどまあ、その分だけのリターンも期待出来るだろうな。
これを言って変な方向に躍進して後ろ盾もなしに活動開始でもされたら堪らないから言わないけどな。
「なるほど…」
「まあ、どうしても始めるなら日華さんに相談することをおすすめするかな。確実に自衛隊と繋がりがあるから、上手く話が進めば後ろ盾になってくれるはず」
ここ数日で一気に自衛隊の知り合いが増えたから、俺がその話を持っていっても良いかもしれないけど、やっぱり、ある程度以上付き合いのある相手からの話の方が信憑性が増すからな。
「とはいえ、誰に相談するとしてもこの話が通るのは最低でも流沙ちゃんが中学を卒業してからかな?流石に中学生の少女を働かせるなんて真似は出来ないからね」
「…それはまあ、ごもっともで。諦めてしばらくは勉学に励むとします」
「うん、それがよろしい。俺、これでもそこそこ勉強出来るから、聞きたいこととかあったら聞いてくれても良いからね」
と、そこまで言って俺は気が付いた。
…あれ、そういえば相談の内容ってこれじゃないような?
話の内容がどんどん本題とは別の相談になっていることに。
流沙ちゃんの側で浮かんでいたスキルカードがどこか物悲しげに揺れた。
話の流れを戻して確認すれば、流沙ちゃんの選択肢に上がっているスキルは『記憶力強化』『知覚拡張』『詠唱』の三つだった。
「うーん、この三つだったら『記憶力強化』にしておくのが無難じゃないかなぁ」
「そうですか?私はこの『知覚拡張』なんで良いかなって思ったんですけど」
まあ、確かに流沙ちゃんのユニークスキルの仕様を考えるとそれが最適解なんだろう。
『詠唱』というスキルに至っては前提として魔法系のスキルが必要になってそうだしな。
だけど、『知覚拡張』は辞めておいた方が良い気がする。
「確かに、ユニークスキルに記録を蓄積するって意味ではそれも良いかもしれないけど…、強化じゃなくて拡張っていうのがちょっと怖いんだよね」
「…もしかしてあれですか?人には見えちゃいけないものが見えてしまいそうとか、そういうのですか?」
「うんまあ、端的に言ってしまえばそうだね。少なくとも日常生活を送るには確実に支障をきたすものが見えたり、聞こえたりするんじゃないかなって思ってるよ」
どこか訝しげな表情を浮かべる流沙ちゃんに俺はそう言った。
流沙ちゃん的には精霊とか、幽霊とか、そういうスピリチュアルなものなら問題ないと言いたいんだろうけど、俺の言っているのはそう言うことじゃないんだよな。
いや、もしかしたらそう言う方面の今まで見えなかった存在が見えるようになるだけの可能性も無きにしも非ずだけども。
「多分だけど、可聴域とか広がって物理的に人が聞こえない音が聞こえるようになったり、紫外線とか赤外線みたいな人には見えない光が見えるようなったりすると思う」
「人力赤外線センサー…みたいな?」
ああ…うん、まあ、確かにそれも出来ないこともないかもしれないけど、えぇ…真っ先にそれ思いつく?
と、そんなことを思っていると流沙ちゃんが微妙に慌て始めた。表情に出さなかったはずなんだけど、俺の困惑が伝わったのかもしれない。
「べっ、べつにやってみたいとか、そう言うことじゃないんですよ。ただ、そう…ただ、なんか思いついちゃっただけで。べつに…、べつにやってみたらどうなんだろうとか考えてませんからね?」
「そうだね、出来るかもしれないけど、まずはスキルを解析して問題ないか確認してからやろうね」
「…まあ、それもそうですね、そうします」
残念そうな表情を浮かべながらも先程までの慌てた様子がどこかにいってしまった少女の姿に、思わず溜め息が溢れる。
…まあ、分っていたことだが、このタイプの子があのくらいで慌てるなんてないよな。
だけど、テンションは上がったり下がったりするから、全く行動が読めないんだよな。
「というわけで、『知覚拡張』を取得します。ひとまず、所持しているだけで使いませんけど」
「うん、それが良いんじゃないかな。ちょっと考えうるデメリットが厳しいだけでユニークスキルとのシナジーはかなり高いからね」
そんなわけで流沙ちゃんのスキルは『知覚拡張』に決まった。
それからしばらく経ち、思考の海から帰ってきた日華さんが話しかけてきた。
「そういえば、刹那、貴方いつ元の姿に戻るの?」
「元の姿…?男の姿になら、今は戻る気ありませんよ?」
だけどその質問の意図が分からず、俺は首を傾げてしまう。
「いえ、そうじゃなくて…、もしかしてその姿、無自覚なのかしら?」
「無自覚…?俺が今使ってるスキルは『女体化』だけで、他には何もしてませんよ」
呟かれた言葉にも出で来るのは疑問ばかり、なんせ俺には別の姿に変身している自覚なんて微塵もない。
それとも俺は、無自覚のうちに何かスキルでも使っているんだろうか?
「刹那さん、髪、自分の髪を見てみて下さい」
と、そんな様子を見かねた流沙ちゃんがヘルプをくれた。
我がことながら長く綺麗な髪だと思うけれど、特に癖もないし、気にする点なんてそんなに無いはずなんだけれど…。
そう思いながらも、俺は流沙ちゃんの言葉の通りに自分の髪に視線を向けた。
「んん…?」
そして、さらに首を傾げることになった。
艶のある黒髪が広がると思っていた俺の視界に映ったのは染み一つない一面の純白だったのだ。
…いや、よく見ればなんだか赤い燐光のようなものを纏っているな。それこそ、『魔法纏』を薄くまとっているような感じだ。
だけれど、さっき使った『魔法纏』は戦闘終了と同時に解除したのは今、魔力が消費されていないことからも明らかだ。
なのに、身体の周りにそれに近い現象が起こっていて不思議な感じがする。
「んー、なんだろこれ…?」
首を傾げるも、当然答えは出てこない。
原因として有り得そうなのは、今着ている『精霊騎士』シリーズの装備だろうか?さっきまでの違いといったら、まさにこれだろうからな。
とはいえ、特に害もなさそうだし、今は要検証ということで良いか。近々色々な検証をやるつもりだし、その時にでも確認すれば良いだろう。
「まあ、特に害もなさそうですから大丈夫です。それよりも一度迷宮を抜けましょう。流沙ちゃんを連れて、この迷宮を動き回る訳には行きませんから」
「…それもそうね。私としては刹那のその姿も気になるけど、害がなさそうなのなら、今は流沙ちゃんの事を優先するべきね」
それに俺も正直言ってかなり疲れた。
あの静寂の司書の力を持った精霊ー全身黒い幽霊っぽかったから黒霊とでも呼ぶかーとの戦闘は神経をすり減らすものだっただけに、この先も集中して戦えるかどうかと聞かれると難しいとしか答えられない。
そう言うわけで一度、この学校の怪談が具現化したような迷宮から撤退する流れとなった。




