第三話 脱出
2300文字!
扉を開いた先には、淡い光を放ち湯気を上げる泉が広がっていた。色は透き通ったエメラルドのようなグリーンで、いかにも身体を回復させそうな色合だ。
それを目視した俺は、扉を開けることに最後の余力を使い果たしたことにより身体の力が抜け、頽れるように倒れ込んだ。
部屋に入った時点で足が既に泉の中に使っている。そんな状況で倒れれば当然、俺は顔から泉の中に突っ込んだ。
(…あれ、息苦しくない?というかむしろ…、)
「ぷはぁっ、なんだこれ、力が湧いてくるぞ」
《『力の泉』に浸かった》
《HPMPSPが全回復しました》
《レベルが上がりました。Lv12→Lv17 基礎能力が向上しました》
《汎用スキル『鑑定』の能力が強化されました》
突っ込んだ泉の中が苦しくないという不思議現象に遭遇し、顔を上げた俺に待っていたのは、そんな文字列だった。一気に膨大な経験値が入ったのかレベルが一気に上がっていて、なおかつなにかの条件でも達したのか『鑑定』が強化されている。
というか、HPMPSPと表示されているがそんな概念があるのか?もしかしたら、『鑑定』のアップデートのこれが原因なのか?
色々な疑問が湧いてくるが、そんな中で俺の視界にそんなことがどうでも良くなるものが映り込んだ。
『迷宮転移陣※お帰りの際はこちらをご利用下さい』
幾何学模様を描くその陣の上にはそう書かれてある。
探しに探した出口だ、やっと脱出出来る。
それを認識すると、ぱっと視界が晴れたような気がした。一度ほっと息を吐き、手を後ろについてその手に身体の重みも預ける。
「おっ、あれって宝箱か?ちょっと休んで開けてみるか」
そうすれば、転移陣の近くに設置された三つの宝箱が目に入った。どうやら、視界が晴れたような感覚は気のせいじゃなかったようだ。
まあ、とにもかくにも今は疲れを癒す為、身体を休めることにした。
《ユニークスキル『適応変身』を入手しました》
《アイテム『スキルホルダー』を入手しました》
《アイテム『スキルチケット』を入手しました》
宝箱を開けると以上のものが入っていた。
『適応変身』は持っているスキルカードでスキルセットを作ることが出来る便利効果を持った、自身のスキルを自由に変更することが出来るユニークスキルだ。
詳しくはまあ、実際に使いながら試していけばいいだろう。
次は『スキルホルダー』、これは100枚までスキルカードを収納出来るカードケースのようだ。
大体ポケットサイズのケースで、表面はスキルカードと似たようになっている。真ん中の円に触れれば入っているスキルカードが分かり、かなり便利だ。
さっそく所持しているスキルカードをしまっておいた。
そして『スキルチケット』は、まあ簡潔に言ってしまえばスキル版カードパックだ。
中には『剣術』『縮地』『魔法剣』、計三枚のスキルカードが入っていた。なぜ過去形なのかは、見つけてすぐに開けてしまったからだ。
だって、開けてすぐに千切るとスキルカードが入手出来ますと書かれた無地のチケットが入っていたんだ。
特に重要そうにも見えないし、思わず開けてしまったのだ。もう少しもったい振ればよかったと絶賛後悔中だ。
「はぁ、まあ、もう無いわけだし、そこは気にしても仕方ないか…」
とはいえ、いつまでも後悔していられない。
さっそく『適応変身』の効果を使って、『セット1』と命名したセットに解放されたスキル枠分の『剣術』『魔法剣』『炎魔法』『身体強化』を設定、それをそのまま使用する。
そうして、すぐ隣にある魔法陣に乗り、俺はこの迷宮から脱出した。
「あー…そりゃそうだ、そりゃあ…そうだよな」
迷宮を出た俺は真後ろに聳え立つ巨大な塔型の迷宮を呆然と眺めた。
周りを見渡せばそこには家の近くに広がる公園に、見慣れた通学路の風景、他にも見覚えのあるものが多数ある。だが、ここから少し距離が引き返した場所にある俺にとって、もっとも重要な場所が見当たらなかった。
まあでも、考えてみれば当然だ。
さっきまで俺は家で眠っていたのに、気付けば迷宮内に居たのだ。家が迷宮の発生に巻き込まれてしまったと考えるのが自然なんだろう。
母さんたちは外出中だったから大丈夫だろうけど、それなりには関係のあるご近所さんたちが心配だ。
「すまない、君、今この塔から出て来たか?」
「えっ?」
そんなことを思いながら、改めて等を見上げていると、急に声を掛けられた。
驚きつつもそっちに視線を向ければ、テレビなんかで見ることがある自衛隊の装備に身を包んだ人が、どこか焦りのような表情を浮かべ、そこにいた。
「あ、はい。さっきどうにか脱出したところです」
「ということは、君が迷宮の生成に巻き込まれた一人か。疲れているだろうところすまないが、迷宮内で他の人たちは見なかったか?実は君以外誰一人として出て来ていないんだ」
「…マジか」
思わず後ろの塔に視線を向ける。
だが、そこには巨大な塔が聳え立っているだけだ。なにか変化が起こる様子もない。だけど、俺はなぜか、その塔が今までよりも遥かに恐ろしいものに見えた。
「…すいません、俺以外には誰も見ていません」
「…そうか、協力、ありがとう。今から自衛隊の天幕に案内する。そこで保護して貰ってくれ」
「分かりました」
そう言って俺は、案内に従った。
いくら自分が戦力になるからと言って、ここで出しゃばってはいけない。出しゃばる気はあるが、それはこっそりだ。せめて今は保護されて、避難所にでも案内してもらう。
俺がここに戻るのなら、そのタイミングだ。
自衛隊の救助者リストに俺の名前を再度連ねて自衛隊に方々に迷惑をかけるわけにはいかない。
もしご意見やご感想などありましたら気兼ねなく言ってください。現在はストック放出中の為、反映は大分後になってしまうかもしれませんが、よろしくお願いいたします