第九話 司書との対決4
「うぷっ、流石にこれは…」
ゆらゆらと揺れる炎に、より揺れを強める周囲の景色、酔いをより酷くしてくる目の前の景色に俺は咄嗟に目を閉じて蹲った。
幸い、炎が上がった場所が遠かったようで熱は感じないが明らかにまずい状況だ。
というか、我ながら外的要因の揺れに弱過ぎるな。
自分でだったらどんだけ飛んだり跳ねたりしても平気なのに、ちょっとあたりが揺れるだけでこれとか凄く情けなく感じる。
「あの、大丈夫ですか?」
「あの、大丈夫ですか?」
なんて、そんなことを考えていると頭上から聞き覚えのない声が降ってきた。
その声に反応して、俺は酔いを我慢して顔を上げる。
そして、そこにふよふよと浮かぶ彼女を見て、全身に電気が流れたような気持ちになった。
「そうか、飛べばいいのか」
そうすれば、少なくともこの揺れまくる世界からは解放される。
そう思い、早速『適応変身』を使って全部のスキルを外して『飛翔』『浮遊』を設定、そしてそのまま使用、さらに今の状態を解決できそうな『異常耐性』『再生』をセットした。
すると、少しずつではあるが酔いが引いていく。
ついでに言えば、細かい傷でボロボロになった腕を徐々にではあるが回復していった。
「ふぅ、やっとすっきりした」
それから少しして、ある程度酔いが引いてすっきりした俺はすぐそばで心配そうな表情を浮かべている少女に改めて視線を向けた。
おさげの黒髪に縁の太い黒縁の眼鏡、肌は心配になるほどに白く身体も同様に細い、俺のことを心配してくれているのはありがたいが明らかに典型的なインドア派なその少女の方が俺は心配になってしまった。
…いやまあ、確実に余計なお世話だろうから言うつもりはないけどな。
「ごめん、心配かけた。もう大丈夫だ」
「いえいえ、気にしないでください。それよりもあちらで織咲さんを手伝った方がいいと思いますよ」
そういうと少女はさっき火柱が上がった方向を指差した。
つられてその方向に目を向ければ、そこの地面に大きな穴が開いていて、その更に奥では日華さんが炎を身に纏って静寂の司書と戦闘を繰り広げていた。おかげで図書室の中は既に火の海だ。
「ああ、うん、確かにその通りなんだけど、あの中は流石になぁ…」
「問題ありませんよ、あの炎は敵のみを燃やすものですから、というかむしろ味方なら回復するらしいですよ。というか、そうでもないと貴方がいる場所に高火力の魔法なんて撃ち込みませんよね」
あれ日華さんの攻撃だったのか。そう思うと同時になんだか脱力感が襲ってきた。
ということは、さっきの焦げ臭い匂いも日華さんが原因だったわけで、俺はこの戦いで終始有利だったってわけだ。まあ、あんな威力の魔法が撃てるなんてことも、それが味方に効かないことも知らないから、いろいろと覚悟する必要があるかと思うくらいには本気で危機感抱いたわけだけど。
「さてと、そういうことなら俺も行くか」
まあ、あとで多少なりとも文句は言わせて貰うことは確定として、ひとまずは静寂の司書を撃破してからだな。
そういうわけで俺は、せっかくなので精霊騎士の防具をすべて装備して戦場となっている場所に『飛翔』を使って突っ込んだ。
接敵の寸前に『適応変身』、残りのスキル枠に『剣術』『身体強化』『火魔法』『魔法纏』を叩き込み、全身に『魔法纏』で『火魔法』を纏って突喊する。
狙うのは後ろからの奇襲、俺は炎に紛れて走り、静寂の司書の後ろに回り込んだ。さっきの少女の言う通り、炎の熱は俺にダメージを与えることはなく、仄かな温かさを齎すのみだ。
「すぅぅぅ…」
そんな中で俺は燃え盛る炎の音に紛れて深く息を吸い、
「シッ!」
短く息を吐き出すとともに静寂の司書の『精霊騎士の剣』で胴目掛けて横薙ぎの一閃を放つ。
炎を纏う『精霊騎士の剣』は、思いの外激しく炎を吹き出しながら放たれ、その激しいエフェクトに日華さんと交戦していた静寂の司書は今更ながらに気づいたように振り向くが、もう遅い。
俺は一閃を降り抜き、横薙ぎに静寂の司書を吹っ飛ばした。
それと同時に日華さんがだらりと腕から力を抜き、その場に座り込んだ。戦闘中の日華さんの顔を見て、そうなるだろうと前以って思っていた俺は自身の身体を盾にするように日華さんに背を向け立ち、静寂の司書に向き合った。
「日華さん、大丈夫ですか?」
「…えぇ、大丈夫よ。ただ後は任せてもいい?このスキル、使うと凄く疲れるのよ」
「分かりました。もともと俺の戦闘ですし、あとは任せてください」
それだけ言うと俺は静寂の司書に意識を向けた。
そこでは丁度、静寂の司書が立ち上がっており、俺に向かって大鎌の切っ先を向けていて、俺もそれに合わせて『精霊騎士の剣』を構えた。




