第七話 司書との対決2
俺の意図を察してか、空気中に霧散しようとした闇の槍を光の『魔法纏』で捉え、その上からさらに『念動力』で拘束する。
普通に『魔力操作』を使って覆うのは至難の業だけど、対象を覆う『魔法纏』ならその限りじゃない。
だけどさすがに、明らかに競合する属性でそれをやるのは無謀だったかも知れないけどな。
「いっつ…!」
派手にやると決めて思いついた相反属性の複合、それは確かに凄まじい威力を齎していたが今の俺が扱うには強力過ぎたようだ。
拡散を抑えるために張っていた『念動力』の力場の壁を貫き、内部で迸っていた競合のスパークが『魔力纏』の防御をものともせずに俺の肌を焼いた。咄嗟に『魔力操作』を使って属性を持たない魔力で槍を覆うが、覆い終わる頃には俺の手は雷に焼かれて傷だらけの血みどろになっていた。
このくらいの傷、『再生』スキルをセットしてやればどうとでもなる問題ではあるが…、この場面で怯んでしまったのはよろしくなかった。
「やばっ…!」
咄嗟に槍から離して掲げた籠手が目の前で黒い刃にぶつかり、バチバチと火花を散らす。少女の手によって再度生成された闇魔法の刃が振るわれたんだ。
傷だらけの手が打たれて結構な痛みが走るが、そんなことよりも今のは本当にマズかった。
いやまあ、その場で構えた迎撃姿勢から飛び掛かって攻撃出来るくらい大きな隙を敵の前で晒した俺が悪いんだけどな。
「…って、ああっ!」」
と、そんなことを考えていると少女はするっと後ろに抜けて行ってしまった。俺の後ろにあるもの、そんなものは悩むまでもなく一つしかない。
それはあの大鎌だ。そして、それを今回収されるのはとっても都合が悪い。
なんせこの槍は反発の反動を抑えるための申し訳程度の魔力とそもそも守りに向かない『念動力』、それに防御の面を内側に向けている『魔法纏』によって半ば無理やりに保っているのだ。
それなのに、そこに大鎌の刃を受けてみろ。ほぼ確実に暴発するだろうし、もし暴発しなくとも既に崩れるように操作を受けた闇の槍は相手が何もしなくとも勝手に散らされて不発に終わるのが目に見えて分かる。
「くっ、届けっ!」
だから俺は、とっさに『収納』から『武者の黒刀』を呼び出し投げ付けた。
俺が持ちうる武器の中では軽量な部類に入り、なおかつ鋭さも持ち得ている『武者の黒刀』は風を切り裂き、かなりの速度で静寂の司書に向けて飛んでいく。
だが、俺の目に映る光景は一つの事実を示していた。
―この攻撃は届かない、と。
レベルアップによって強化された肉体から打ち出された『武者の黒刀』は確かに鋭く速い。
だけれども、それが少女に届くことはなかった。
キンッ!
回収された大鎌が振るわれ、鋭い金属音が旧図書室に響いて『武者の黒刀』が弾かれる。
「クッソ、やっぱりダメか!」
あと一歩だった、あと少し速ければ『武者の黒刀』は静寂の司書に届いていた。恐らく、俺に投擲の技術があれば届いただろう。
だけれども、それはあくまで可能性の話だ。今やるのは反省ではなく、これからどうするか、だ。
ひとまず、この槍の形状を保っておくのが不利になったと見て、俺はそれを圧縮しようとした。『念動力』で無理やり抑え付ける為、反動は厳しくなるだろうが…と、そこまで考えたところで俺はふと思った。
「ん…?」
―あれ、俺なんでこれを守るように立ち回ろうとしてんだ。
そして、俺は少し考えて槍を思いっきり投げつけた。
その行為には流石な静寂の司書も驚いたようだ。表情に乏しかったその顔に驚いた表情を浮かべる。
それはまあ、今の今まで温存していたのに急にそれを使ったのだ、それもやけになったとしか思えないようなタイミングで。
それは外から見れば完全な暴挙だ。完全に自暴自棄になったようにしか見えない行動だ。だから、静寂の司書たる少女も薄らと笑みを浮かべた。
…本当はどちらが冷静さを失っていたのか、全く気付かずに、な。
「それじゃ、派手に使わせてもらうな」
静寂の司書が槍に向かって大鎌を振るったのを見て、俺はそう呟いた。
それと同時に槍が掌サイズの球形にまで収縮する。
一気に『念動力』を強めたのだ。それによって槍のすぐそこまでに迫っていた大鎌の刃も何もない場所を通り抜けていった。
さらにその球は辺り一帯に俺が食らったのとは比べ物にならない威力の競合のスパークを振り撒いた。
それはかなり危険なものだろう、受ければ俺が食らったような一瞬の硬直じゃ済まないだろう。
されど、それを受けるのは俺じゃない。
そして、それによって動きを止められるのも俺じゃない。
だから、俺は…、
「決まれっ!」
球形の中で闇の魔力を覆っていた『魔法纏』の制御を手放した。




