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第五話 旧図書室での会敵

もう何十年も前に封鎖され、現在はただの書庫となっている旧図書室の噂…それが静寂の司書だ。

噂の内容は結構いろいろとあるのだが、その実態を一言で言い表すと『図書室内の静けさを保つためにありとあらゆる手段を行使するイカれた司書が居る』というものである。


「で、早速来てみたわけだけど…」


「はい、明らかに静寂の被害者がいますね」


床にも本棚にも埃が厚く積もり、もう何年も誰も訪れていないことが分かるその部屋の中に、ポツンっと一人、本を一心不乱に読み続けている少女がいた。

見た目は大体14〜15歳で編み込んでいない方のおさげ髪、なんというか図書委員なんかによく居そう女の子だ。


だが、その少女は明らかに尋常の様子ではない。

ここ数日、ここでの読書を強制され続けていたのだろう。目は血走り肌は荒れ、手に至ってはページをめくる拍子に紙で切ってしまったのだろう、僅かに血が滲んでいる。


「図書室内で静寂の司書に声を聞かれてしまったペナルティね。放課後の強制読書…この迷宮の中が夜なのも合わさって最悪の効果を生み出しているわ」


この部屋の噂の静寂の司書は図書室内のルールを、特に図書室内では静かにしなければならないというルールを守らない生徒に罰則を与えていた司書がもとになった噂だ。

だから、噂の中でもその罰則にはある程度のルールが設定されていたんだが…、この様子を見る限り、その制限は上手く機能していないらしいな。


理由はまあ、日華さんの言う通りだろう。

外の環境がずっと夜なせいで、本来の日が明ける午前0時に解放という条件を満たせていないのだ。


「確か、ここの怪異は今でも実際に起きてるんだったわよね?貴方は何か攻略法とか知らないかしら?」


と、そんなことを考えていると日華さんから無茶な質問が飛んで来た。

私は調べた限りじゃ見つからなかったけど貴方はどう?という意味を含むだろうそれに俺は首を振った。


「ここの噂はあんまり知りませんね。ここは0時を過ぎれば解放されるくらいのことしか…」


「やっぱり、攻略は正面戦闘になるのかしら?…その割には、その静寂の司書本人がいないけれど」


本を読み続けている少女と俺たちしかいない今の旧図書室だからこそ交わされ続けるこんな会話、不毛なことこの上ないが、ここから状況を進める攻略法を考えなければ何も進まないのでどうしようもない。


と、ここでいきなり状況が動いた。


本を読み進めていた少女が読んでいた本を閉じるパタンっという音が周囲に響く。そして、それと同時にその少女の体から白い靄のようなものがゆらゆらと抜けていった。なんとなく嫌な予感がして少女に近寄れば、いきなりその体から力が抜けて仰向けに倒れていった。


「おっと」


嫌な予感に従っていてよかった。

そう思いつつ余裕をもって少女の体を支え、椅子から降ろして床に横たえる。その体には無茶をした痕跡がいくつも表れているが、今は穏やかに寝息を立てているので何とか大丈夫そうだ。


そうして、安堵の息を吐いているとそこに日華さんもやってきた。

少し張り詰めた雰囲気を纏っている様子からして、思わず警戒を緩めた俺の代わりに警戒を強めてくれているらしい。ありがたいことだ。


「なんだかよくわからなけれど、その娘は助かったみたいね。さっ、何も起こらないうちにその娘を外に運びましょう」


「そうですね」


一人を救出出来たところでそう提案してきた日華さんに答えると、日華さんは彼女は私が背負うわと言って、さっさと少女を背負ってしまった。

うーん、前衛の俺が少女を背負うよりも、今は全面に立てない日華さんが少女を背負った方が良いのは分かるけど、なんか男としてはちょっと複雑な気分だ。


と、そんなくだらないことを考えていたからだろう、一歩で出遅れてしまった。だけどまあ、それならそれで丁度良い。俺は周囲の警戒もかねて日華さんの少し後方を歩き始める。



だが、その選択が失敗だったとすぐに思い知らされることになる。






それは日華さんが図書室から出ると同時に起こった。

旧図書室内に俺だけがいる状況になると突然、扉が独りでに凄まじい速度で閉まり始めたのだ。慌てて『適応変身(シェイプシフト)』、校内探索用に戻していたスキルセットから『視力強化』を『縮地』に変え、即座に使用する。


だが…、


「くふっ…!」


それは僅かに遅く、俺の体は閉鎖された扉に『縮地』の勢いのままに叩きつけられた。扉から凄まじい音が立つとともに俺の肺から一気に空気が吐き出される。


そこで『危険察知』が大きく反応を示した。

首筋にピリッとした冷たい感覚が走る。


「ぁぁあっ!」


咄嗟に体の中に残った僅かな空気を振り絞って『武者の黒刀』を一閃、『危険察知』が反応した方向へ全力で振り抜く。


結果、その行動は俺の命を助けた。


『武者の黒刀』に重たい手応えが訪れ、それと同時に鋭く冷めた金属の感触が首に触れた。

僅かに皮膚が切れ、ツーっと赤い血が首筋を流れていく。見れば、『武者の黒刀』は黒く長い棒に当たっていて、俺の首筋にはその棒から伸びる刃の切っ先が薄皮一枚の距離で触れていた。


「…っ!」


目に映った光景に竦みそうになる体を気合いで抑え、大きく息を吸ってその場から離脱する。

そうして、俺はそこで相手の全体像を捉えた。


ついさっきまで俺の首筋に当てられていた身の丈よりも一回りは大きな真っ黒な大鎌に目深く被られた黒いフード付きのローブ、そこから覗くのはどこまで深い紅に染まった瞳と染まることを知らないような漆黒の髪で…、鎌を掴む人離れした骨の腕が見えようとも攻撃するのが躊躇われてしまうような絶世の美貌を持った少女だった。


…もっともそれは、その少女が悍しいまでの敵意を振り撒いていなければの話だが。

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