第二話 限界の先で
(火属性…だよな?ってことはもしかして、シャドウって属性ごとに姿が変わるエレメントみたいなモンスターなんだろうか?)
メラメラと燃える身体を持つシャドウそっくりなモンスターの姿に、俺の頭の中にはゲームでよくある属性ごとに姿の変わる実体を持たない幽霊や精霊みたいなタイプの敵の姿が何体か浮かんでいた。
実例が少ないからなんとも言えないけど、この予想はそんなに外れていないような気がする。
それはともかく、その炎のモンスター―以後は便宜上、フレイムとする―が居る場所は一歩道の先の曲がり角の途中だ。前の道の探索がほとんど終わっている為、ここを通らなければいかず、安全に移動するなら、倒さなくてはいけない。
生き物である以上、本能的な恐怖を感じてしまう炎が相手というのは非常に気が進まないが、より勝率を上げる為に自分から仕掛けることにした。
(戦闘スタイルはさっきと同じじゃないと無理だよな)
属性ごとに多少の差異はあるだろうけど、種類は同じみたいだし、やっぱりエネルギーを使い切らせて、弱ったところでコアの破壊または奪取ってのは変えられそうにない。装備があれば別かもしれないが、今の俺には少なくともそんなものはないし、下手な動きは出来そうにない。
だから必然的に、初手はこうなるわけだ。
ガンッ
殴った壁から硬質的な音が響く、ちらっと顔を出し、通路の先を覗いてフレイムが十分に速いと言える速度でこちらに向かってきているのを見て、脇目も振らずに元の通路に戻り、エンカウントの距離が出来るだけ離れるように走った。
そして、半ば感ながらフレイムが通路を曲がり、こっち側の通路に出て来たろうタイミングを見計らって振り返った。
(しっ、ビンゴっ!)
タイミングはジャストだった。
そうこうしているうちにも、フレイムから火の球が放たれた。その速度は闇の球よりも少し遅い。
だけれど、これは…、
「熱っ…っっ!」
火球が肩を掠って擦れていく、服が少し焼けて焦げた匂いが漂った。
威力自体は服が少し焦げるくらいで、そこまで威力があるわけじゃないようだけど、確実に闇球よりも威力がある。それにフレイム本体の速度が速くて、素人の身のこなしでは避け切ることが出来なかった。
そこから連続するように、フレイムは俺を追いながら火球を放ち始めた。幸いなことに火球にホーミングはなく、偏差射撃をして来ることもない。
それに攻撃の間隔も一定で、狙いも当たりやすい胴体ばかりであることに気付ければ、それなりに速い速度で追い掛け回して来るフレイムから逃げるだけの作業になった。
(まあ、それに気付くまでが大変だったわけだけどな)
シャドウから得られた、動きが単調という前情報があったからあっさりと見抜けたけど、最初に遭遇したのがこいつだったらヤバかったかもしれない。
そんな感じで逃げ回ること1分、戦闘開始から1分半、突然カツンッと硬質なものが落ちた音がして、火球が止まった。
(ん?あっ、なるほどな。フレイムは燃費が悪いのか)
その方向を見てみれば、無防備な状態でコアの丸い球体が転がっている。戦闘終了のアナウンスが聞こえないってことは、生きてはいるんだろうけど、エネルギーが底をついてしまった感じだ。
シャドウは攻撃し続けても5分程度は持ったことを見るに、フレイムは燃費が悪いのだろう。
この短時間でかなりの疲労を強いられたが、戦闘自体は俺側からはほとんど何もすることなく、シャドウ戦の半分以下のタイムで終了した。
(あとは砕けば終わりっ、っと)
パリンッ
《戦闘が終了しました》
《レベルが上がりました。Lv1→Lv2基礎能力が向上しました》
《スキル『身体強化』がドロップしました》
(『身体強化』か、魔法じゃないんだ。ふーん、なるほどな)
少し思ったことがあったが、さすがに今のままでは実例が少なく、なんとも言えない。
それなりに気にはなるが、とりあえず先に迷宮から脱出する道を探すことにした。
それから携帯端末の時計で10時間が経過した。
探索のうちにレベルは12まで上がり、スキルは『闇魔法』『身体強化』のほかに、何度か戦闘になった中で、フレイムから『火魔法』、その水版から『水魔法』と『魔力強化』、風版から『風魔法』と『気配察知』、土版から『土魔法』と『異常耐性』、光版からは『光魔法』と『看破』、シャドウからは『隠密』のスキルを手に入れたが、迷宮の出口は未だに見つかっていない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
(まずいな、もう体力がほとんど残ってない。本格的にどこかで休まないと倒れる)
肉体派な幼馴染のおかげで、それなりに鍛えられさせている俺ではあるが、基本的には家でゲームしたり、ラノベを読んでいたりするインドア派なんだ。
探索中は苦痛にならない程度の小走りで、体力を温存していたりするが、半日もの断続的な戦闘に疲労が隠せなくなってしまっている。
それに少なからず気をそらせていたレベルアップもほとんど来なくなり、色々限界が近い。
「…ぁぅ、扉?」
そんな時、曲がった角の先で淡い光を溢れさせる奇妙な扉が視界に入った。
前回より短めでした。
しばらくは2000文字から3000文字をうろちょろすると思いますが、どうぞよろしくお願いします!