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新しい婚約者〈アルフレート〉

     ◆

 辺境伯令嬢とダンスを終えたアルフレートは、逃げるように大広間から庭へと向かった。

「お前のための宴だっていうのに」


 庭に出てすぐのところで、めざとく見つけ、追いかけてきたローレンツに声をかけられる。


「少しだけ休憩したら、すぐに戻るよ」


 逃げ出すように退出したが、本気で逃げるつもりはない。

 本音をいえば、今すぐ自室に戻りたいけれども。


 ――気持ちを整理する時間が欲しい。

 アルフレートの願いは叶うことなく、ナディアとの婚約解消後すぐに、新たな婚約者探しの夜会が開かれることが決まった。


 夜会には、父や宰相たちにより選ばれた婚約者候補の令嬢たちも参加をしていて、アルフレートは彼女たちのダンスパートナーを順番にこなしていった。

 彼女たちの中、あるいは今夜参加している令嬢たちの中から、婚約者にふさわしいと思われる女性をアルフレートは選ばねばならない。


「さっき踊っていた辺境伯のご令嬢、美人だし、お前にお似合いだと思うぞ」


 確かに美人だった。

 プラチナブロンドに緑色の大きな瞳。透けるような白い肌をしていた。


「その前に踊っていた侯爵家の令嬢も悪くなかった」


 才女という噂のとおり、受け答えは明快で、所作にも品があった。


「その前の前の伯爵令嬢もいい……俺なら彼女を選ぶ」


 伯爵令嬢はローレンツ好みの令嬢だった。

 とにかく胸元が豊かで、その部位を強調するドレスを着ていた。それだけではなく、愛嬌があり、ころころとよく笑う明るい令嬢だった。

 他にも二人の令嬢のダンスパートナーをつとめたが、みなそれなりに美しく賢く見えた。

 誰もが王太子妃にふさわしいようにも思えた。


「とりあえず……婚約者がいた令嬢は候補から外す」


 アルフレートとナディアとの婚約解消が公になったとたん、自らの婚約を解消した者たちがいたと耳にしている。


「王妃になれる機会に恵まれたんだ。無理矢理ならともかく、本人が納得しているならいいじゃないか」

「相手もあることだし、野心がありすぎるのも困る」


 縁戚ならば相手も納得のうえでの婚約解消なのかもしれないが……一族でアルフレートの妻の座を狙っているというのも考えものだ。


「だとしたら、才女と名高い侯爵令嬢か、十五歳のむちむち巨乳伯爵令嬢か」

「ローレンツ、下品だよ」


 軽く睨むと、ローレンツは軽く肩をすくめてみせる。


「胸は大事だろう。お前は貧乳派か」

「僕はふつ……ローレンツ」

「深く考え過ぎなんだよ、お前は。気に入った令嬢を数人選んで、あとはゆっくり吟味すればいい」

「……余計な期待をさせたくはない」

「女同士の駆け引きで見えてくるものもあるさ。他の女の存在をどこまで許容できるかとか」

「遊び人らしい言葉だね」

 

 相手は選んでいるらしいが、ローレンツの女性関係は派手だ。

 一人の婚約者すら満足させられなかったアルフレートからすると、同時に何人もの女性と付き合える彼には感心する。見習いたくはないけれど。


「候補以外で、他に気になる令嬢はいなかったのか?」


 今まではナディアがいたのもあり、アルフレートに積極的に近づいてくる女性はごく僅かであった。

 熱く潤んだ瞳で見つめ、甘ったるい口調で自己紹介し、アルフレートを褒め称える。すきあらば体に触れてこようとする淑女たちを前に、気になるどころか恐怖を感じた。


「いや……」

「デビュタントの中に、ひとり際立った美少女がいたらしいが。まあ、もともと候補になっていた令嬢から選ぶのが無難かな」

「……そうだね」

「しけた返事だな。不満なのか」


 みな、よく教育された淑女だった。

 美しさに多少の差はあれど、華やかで、気づかいもできる――彼女たちはみな、アルフレートの顔色を窺い、話を合わせた。


「ナディア嬢ほどの美女は、なかなかいないからな……比べちまうのかもしれんが」


 そういうわけではない。

 反論しようとしたのだが、ちょうど近衛騎士が通りがかった。


「殿下、公爵もこんなとこにおられたのですか。宰相閣下が探されていましたよ」

「わかった。……少し時間をかせいでおくから、お前は休憩してから戻ってこい」


 ローレンツはアルフレートの肩を軽く叩いて、近衛騎士とともに大広間へと戻っていった。


 ローレンツの後ろ姿を見送ったアルフレートは、近くにあった木に肩を預け、ため息をこぼす。


 ナディアと比べてもいないし、彼女たちに不満があるわけではない。

 ただ……ナディアほどでなくとも、王家の恥になるような過ちを犯せば、彼女たちをアルフレートは切り捨てるだろう。

 事情を聞き、ナディアのときのように庇いはしても、未練はかけらも抱かない。

 アルフレートの心の中からナディアへの想いが、あっさりと消えてしまったように。

 そんな自分が優しいのか冷たいのか、アルフレートにはわからなかった。


 アルフレートはアルフレートなりにナディアを大切に想ってはいたが、義務的な情だった気もする。

 だからこそ、彼女は他の男性からの愛を求めたのではなかろうか。

 

(まだ若い巨……伯爵令嬢より、侯爵令嬢のほうがいいかな……)


 若ければアルフレートに期待するものも大きい。

 けれどアルフレートは、期待しているものを返せる気がしなかった。

 

 つらつらとそんなことを考えていると 、クシュンとくしゃみのような音がした。


 上からだ。

 二階のバルコニーに誰か人でもいるのだろうか。

 アルフレートがふと上を見上げるのと同時に――バサドサと激しい音を立て、何かが降ってきた。


「ぎゃあああ」

「っ……うわぁぁっ」


 盛大な悲鳴につられ、アルフレートも悲鳴をあげた。

 そして……逃げるひまもなかったので、降ってきたそれをアルフレートは抱き止めた。

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[一言] 花嫁は上から降ってくるww
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