表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/121

エピソード89:凹凸コンビ、ここに一時結託となりました

「くそっ! 悪い、見失った!」


「まだ遠くには逃げていない! ゲネシス王国の各地の門を封鎖して、徹底的に追い詰めてやれ!」


「皆! 城の兵士達もショウタの確保に力を借してくれるらしい!」


「よし、これでミゾノグウジン様の不安は拭えるな!」


 完全に希の傀儡と成り果てたか。逃げようにも住民の目が光っている以上は無闇な行動は取りにくい上に動いた所で数が押し寄せてくるのは明白。

 しかも相手はただの一般人だから手も出しづらい。どっちに転ぼうが非常に切羽詰まっている。

 

「参ったな」


 こうなったら、手を出してでも押し切るしかないのだろうか? 

 さすがにこういう状況になって住民がどうのこうのと考える程楽観にはなれないし。

 段々と時間が経つに連れていく内に住民の瞳もよく見れば黒ずんでいて人間の歩き方をしていない。


 ゾンビ……とはちょっと違うが、とてつもなく奇妙な歩き方をしている。

 これも神宮希が仕掛けた一つの洗脳って事か。赤い空に浮かぶ白い曇。


 奇妙な天気の下で街のある物陰で動けずに居た僕はただ機会を待っている。

 勿論求める機会はこの呪われたゲネシス王国からの脱出だ。しかし、目的を阻む罠の難易度は高い。


「地上は殆ど監視の目が通っている。かと言って屋根の方から回ろうとしても高台から発見される可能性もある……か」


 どちらもやるにはリスクが付きまとう。僕の顔も服装もほぼ全員に知られているから、脱出も安易ではない。

 けど、いつまでもこんな場所でくすぶってはいられない。

 ゲネシス王国に留まっている時間はない。異世界の時間が無闇に過ぎれば過ぎる程に、現実世界の僕の身体が完全に蝕む。

 そうならない為には大至急、希と話し合わなければならないのだ。 


 なのに、こんな時に操られた住民が最大の罠に回ってくるとは。

 何回か共同していた治安団も現在になっては希の操り人形となったから極めて状況は厄介だ。


「とことん僕を沈めるつもりか」

 

 上も下も封鎖して、身動きを取れなくする作戦か。これじゃあ脱出は愚か最悪捕まってしまう事もあり得てしまう。

 

 ただ、僕がこの人達を作られた世界の住民と割りきってしまえば……脱出出来なくもないけど。

 それは何かが違うような気がする。


「ショウタ・カンナヅキ、そこに隠れていたか!」

 

 街並みの中にあったとある大量の箱。そこを物陰として使っていたらしばらく見つからないと思っていたけど、結局見つかってしまったか。

 相手は上の屋根から一度偵察したらしく、下でこそこそと隠れている所を発見したらしい。

 重剣を構える男はいつぞやか確か武器屋さんの店員。この人も希によって操られたか。

 世話になる事はあまりなかったけど、強面でいて屈強な体つきをしていたから記憶には鮮烈に残っている。


「見つかってしまいましたか」


「世界の滅びを進めようとする蒼は俺が潰す。ミゾノグウジン様が築き上げた素晴らしき世界を潰させる訳にはいけねえ」


 その言動も希にコントロールされているか。もはや人間とは思えぬどす黒い目付きと禍々しいオーラがどっぷりと身体を包み込んでいて、非常に危険な存在と化してしまった。


 倒した所で元に戻るとは考えにくいが、ここで立ち止まっても解決はしない。

 だから真・蒼剣を斜めに構えて正面に突っ込む。

 相手は重剣なので、ぶつかった時の衝撃は結構のし掛かる。

 

「貴方は呪われてる! ミゾノグウジンによって!」


「神を侮辱するか!」

 

 けれど、こちらの剣はただの剣じゃない。蒼剣は僕の想いに応えて、どんどん強くなる。

 初めはあんなにか細かった剣がここまで強くなってこれたのは感慨深い物だ。


「神じゃない! 彼女はただ貴方達を傀儡とする歪んだ少女だ!」


 しかし事態は益々重くなっていく。この世界の真相は現実世界の櫻井が睨んでいた通り、神宮希が世界を裏でコントロールしていた。

 オウジャもアルカディアもその他の人達も例外なく、彼女の作られた器で根本足る魂は現実世界に引き寄せた。

 それは果たしてどういう原理で完遂されたのか? 

 もはやオカルトという言葉では片付けるには大変厳しいけれど……マリー・トワイライトと偽り、あまつさえ僕の為と言いながら自分勝手な行動に入る希の罪は非常重い。


「おやっさん! 助けに来たぞ」


「待たせた。ここから畳み掛けてやる!」


 くっ、こんな状況下で更なる増援だと!? まだ、バルフレードとかガンマ級の強さはないから体力的には大丈夫だけどいずれ数で一気に攻められたりでもしたら……考えるだけでゾッとしてしまう。

 まさかこのまま一人だけでずっと戦い続けなければならないのか?

 四面楚歌から切り抜ける一撃はないのかと。


「ははっ。余裕を噛ましていられるのもこれで最後だ」


 どうしようか。真・蒼剣の威力が落ちない限りは僕に勝ち目はあると思うけど、はっきり言って敵は全各国であって敵は何もこの人達だけではない。


 上手く逃げ出せても、他の連中が僕を捕まえようと血眼になって捜索してくるだろう。

 ミゾノグウジンを名乗る希がこの世界に存在する限りは実質僕にとって身体を休める逃げ場は存在しない。

 

「あの世で果てな。ミゾノグウジン様もそれを望んでおられる」


 だったら死んでやる……とはならない。僕は彼女にきちんと会って、そして作られてはならなかった世界をなかった事にする!

 このやり方が例え非道だと思われようとも、やらせて貰う。異世界を生んでしまった責任として。


「生きとし生きる貴方達をこんな姿に変えさせてしまったのは何がともあれ……ショウタ・カンナヅキである、この僕だ」


 言い訳はしない。彼女をああも歪ませた切っ掛けである元凶として最後になるべく苦しまないように。

 あの世に送るしかない。せめて、天国に届いてくれ。


「多勢に無勢の状況。大勢の俺達に単身のお前がどう抵抗するか……精々楽しませてくれよ!!」


 筆頭は武器屋さんの店主。合図をすると同時に周辺の人達はぞろぞろと足並みを揃えて、こちらにやって来る。


 段々と近付いてく度に剣を携える片方の拳の手がじんわりと汗で滲んできそうになる。

 恐怖か何なのかは具体的に分からないけど、きっと恐怖という感情がもしかしたら絡み付いているだけかもしれない。


「殺れ。徹底的に……そして、骨も身体も残さず切り殺してやれ!!」


 二本の剣に持ち変えて絶え間ない勢力に立ち向かう。強さの点では、僕に勝ち目はあるけど数に関して言えばやっぱり尋常になく厄介で。

 群れは一閃で凪ぎ払えるが、この人達の体力は妙に粘り強い。それはミゾノグウジンこと神宮希が犯した呪いの効力なのか何なのか?

 

 はっきりとした効能は分からないが、切っても切っても中々埒が明かない上に戦闘の舞台を狭い街並みから中央に泉が広がる場所に移すと大量に潜ませていた兵士が武器を構える。

 この呪いは相当な物らしい。国中を瞬く間に巻き込む程の脅威はまさにパンデミックのようだ。


「逃さんぞ」


「ミゾノグウジン様の名誉の為に死ねえ!」


 僕以外は全てが敵。混沌に満ちた絶望溢れる状況で剣をしっかりと握り締めて、バラバラに襲い掛かる集団を凪ぎ払っていく。

 息を切らしつつも全力で振るう真・蒼剣。時間を掛ければ掛ける程に敵の驚異も増していく。


 さすがに体力的にきつくなってきた。現実世界では極端に運動部を避けていた影響か軒並み体力方面については殆どないのが現状。

 そんな身体でキビキビと動けているのが奇跡みたいな物だ。


「真・蒼剣! 銃形態にチェンジ!!」


 大量の敵を一度散らばらせるにはこれしかないと双剣を剣に戻してから銃形態に変更する。

 刀身が真っ二つに展開して持ち手が斜めに。素早くトリガーを押して溜まったエネルギーを解放した。


「ぶち抜け! 真・蒼撃砲!」


 放射されたエネルギーは群れとなった集団を散らばらせる事に成功。

 一部の人達は巻き込まれてしまったが、この状況でやむを得ないか……

 

「くそが、よくもやってくれたな」  

 

「あの武器を数で封じろ。相手は蒼とは言え、一人だけだ。畳み掛ければすぐに終わる」


 まだ抵抗するつもりか。やはり希が手中に収めているだけあって、中々にしぶとい。

 ……っ、そろそろ体力的に限界か。力もそれなりに使い果たした以上は逃げるがーー


「あいつ、弱ってきたぞ」


「今なら打ち落とせるかもな」


「早くミゾノグウジン様の為に死んで頂戴!!」


 老若男女。揃いも揃って、僕を目の敵にするか。やれやれ……本当の真の敵はミゾノグウジンと偽る希だと言うのに。

 どうして、その真実に気付こうとしない? と諭した所でこの人達は聞こうとはしないし耳も傾けようともしない。


 何百人VS一人だけの僕。構図としては何百人が勝ち上がる。但し、彼等には兵士を取り除き力は存在しない。

 だから勝ち上がれるっていうのはお門違いだ。そろそろ一人で戦うのも辛くなってきたし。

 結局……限界が来てしまったのか。うん、よくよく考えたらここまでよくやった方だ。


「よお、良い感じに遊んでいるじゃあねえか!!」


 気のせいかは分からない。ただ、あの集団の背後には微かに見える茶髪の青年。

 見えるは灰色の剣。集団の目を一気に振り向かせた男は颯爽と切り刻む。

 

「けど、一人相手に集団リンチはあんまりだな……折角だから俺も混ぜてくれや!!」

  

 彼に慈悲という感情はない。ただ目の前で群れる敵という存在を締め上げるだけ。

 血祭りに仕上げた戦場の跡でザットは僕と合流を果たす。彼はいつものような憎らしさと共にどこか印象が変わっていた。

 茶色の髪がなんか整っているのもあるけど、一番違うのは治安団が纏う白いローブを捨て去って緋色のジャケットを羽織っている事か。

 それだけで大分印象が違ってくる。


「へっ! 随分と集団相手に手こずっているようだな。見ていて哀れだったぜ」


 治安団の方はどうしたんだ? 確かあの組織は希と結託したような気がするんだけど。


「ザット。君は……治安団の隊長代行だったんだろ? どうしてこんな所に?」


「大まかに言えば、ミゾノグウジンの命令に背いて除隊させられた。あの女を殺せば世界が崩壊しようがなんだろうが、感情と設定やらなんやら利用された俺自身が腹立たしくてならねえ! だからこそ、組織に逆らっても俺は俺でやるべき使命を見つける!」


 灰色の剣を振りかざす。集団の奴等に恐ろしさをアピールするようにして。


「片道数時間程度。合流には遅れたが、ここにザット・ディスパイヤーがお前の危機に対して力を貸してやる! 俺が来たからへばってんじゃねえぞ!」


「あぁ、了解だ!!」


「それじゃあ……おっ始めるとしようぜ!」


 活気溢れる笑顔。灰色の剣を振りかざし、今日も戦場を駆け抜けんとするザットの表情は余裕に満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ