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エピソード87:その微笑みは恐怖の他ならない

「アグニカ大陸。三か国が散らばる世界にて人間達は暮らしていた……という土台を組み込んでおいた。しかし、そこにショウタ・カンナヅキがこの地に誕生してから事ある度に異常事態が発生した。当然、貴方なら聞かなくても推測出来るんじゃない?」


 彼女の言わんとしている発言なら想像は付く。これまで長らく、大きな事件もなく過ごしてきた世界で突如立ち上がったオウジャ・デッキの侵攻と目の前にいらっしゃっるミゾノグウジンを愛する宗主アルカディアの暴挙。


 この全ての事件に関与しているのは紛れもなくショウタ・カンナヅキ……と彼女は結論付けたいらしい。

 思えば彼が姿を見せてからは慌ただしい日々に悩まされている。

 だが、彼女の口から聞かされない限りはショウタ・カンナヅキをどうとも思わなかった。


 なのにミゾノグウジンがその関連性を基づけていく内に疑念やはり疑念でしかなかった。


「ショウタ君が全て仕組んだと言いたいのか?」


「まぁ、そうなるね」


 それはあり得ないと思わざるを得ない。ショウタ君は寧ろ正義だ。

 どっちかと言うと仕組んだのはこの黒ドレスの少女に見えて仕方がない。

 自分をわざわざミゾノグウジンと名乗り、今になって姿を表したんだ。

 何か良からぬ事を想像しているのかもしれない。


「いやいや! だとしても彼はこれまで世界を滅ぼうとする悪に立ち向かった勇者だ。オウジャとアルカディアの件にもし絡むとしても無理があるじゃないかね?」


 ここに至って、イクモをすんなりと駒にしようと企んだが。団長という席に座っているだけはあり早々簡単には落とせないようだ。

 ショウタが仕組んでいると思っていないようなら、彼が思う疑念はこっちの方に来るかも。


 そう自然と浮かべた神宮は彼等に選択肢を与えてやろうと決めた。

 余りにも鬼畜な選択であるが、やむを得ない。


「あはははっ! 確かに無理があり過ぎたかも! 思えば、馬鹿な発言をした物ね!」


「やはり……君が仕組んだのかな?」


「えぇ、そうよ。これまで起きた暴動を裏で操っていたのは全部私。真意としては偶然にも世界の神として選ばれた私がこの世界の人間ではないショウタ・カンナヅキを満足させる為! 貴方達はただ単なるショウタを盛り上がらせる舞台の装置って訳!」


 ミゾノグウジンはどうやらアルカディア以上に思考がイカれてるようだ。

 ショウタ・カンナヅキはこれまでマリー・トワイライトと偽っていたミゾノグウジンに利用されていたのだ。

 彼を思うと、可愛そうでしかない。この女に利用されてしまった事を考えるだけで胸が痛みそうになる。


「イクモ団長には生死を掛けた判断を下して欲しいの」


「俺が判断をするのか?」


「貴方達は私が作った世界で生きている。けれど、元蒼騎士の立場にあったショウタ・カンナヅキは自分の世界に戻ろうと私を殺しに掛かる……勘の良い貴方なら分かるかもね、言っている言葉の本質が」


 世界はどういう訳かミゾノグウジンに生み出されたらしい。何ともオカルトじみた話であるが、あの不敵な笑みを見る度におぞましさが込み上がってくる。

 まさかとは思うが、仮にショウタ君が世界を作ったらしきミゾノグウジンを殺してしまえば。


 この……世界は崩壊する? 


「選びなさい。私をここで畳み掛けて、世界を滅ぼすか? 或いは私を殺そうとするショウタを始末するかを」


「ふっ、中々鬼畜な選択を企てるねえ」


 どっちにしたって後味が悪いのは目に見える。前者を選べば、部下の命は守れるがミゾノグウジンという最大の悪をのさばらせてしまう。

 かと言って……後者を選んだら最大の悪は滅びるが自分自身と共に世界は突如消え去る。


 何十年も暮らしてきた、この世界。消え去るなんてとんでもなく受け入れがたい物であった。

 団長の身を預かる上ではこの上なく後者は選べない。部下に死んでくれと言うような命令は下せない。


 悪魔の笑みを浮かべる少女。イクモは静かに怒りを震わせながら。


「わ、分かったよ……俺はあくまで団長としてお前さんの味方をする。世界が消えるなんて泣きたくなるからな」


 もう少し骨のある人物だと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

 やはり偉い奴は雑魚の管理を考えなければならないようだ。実にご愁傷さまと言えよう。


 今の所、計画の序盤としては上々の結果に仕上がった。あとはあの暴れ坊のザットを手駒に加えてやるだけ。

 彼が居るのと居ないとではショウタを攻略するのに時間が大きく関わるのだから。


「では今日から私の駒として精一杯ショウタを沈めて下さい。勿論、手加減抜きで徹底的にお願いしますね?」


「ぐっ……分かった」


「あはははっ。それじゃあ、そろそろザットに止めの言葉を与えに行くとしますか」


 真っ白な髪を揺らして神宮は速やかに退出。所々の壁に刻まれた傷とインテリアの破片など。

 今日のショウは実に絶好調である。私に対して殺意を持っただけで今もなお戦闘を繰り出すザットが笑えて笑えて仕方がない。


「ザットだけは粘り強かったようね」


 その他の団員もといエキストラは問答無用に床に這いつくばっていた。 

 まだ、意識はあるようなのが救い。神宮が迷わず、この本部アークスを壊滅させろと命令すれば否応なしにさっさと沈め落とすに違いない。

 彼はそれほどまでに主であり神の立場に君臨する神宮に心酔している。


「おー、圧されているね。この調子だとショウに一本取られちゃうよ?」

 

 ただ神宮が好きなのは翔大。ショウの好意がどれだけ自分に向けられたとしても、それは全部無意味。

 果たして、彼はそこまで理解しているのだろうか? お前はただ都合の良い駒で終了していると。


「てめえ!! 団長に何かしていねえだろうな!?」


「別にしていないよ。それどころか団長さんから合意を得ているのだから、実質貴方の敗北よ」


「な、なんだと?」


 一階のロビーホール。そこでショウとザットは激しいいがみ合いを続けた。

 だが、神宮の発した言葉からザットの表情は驚愕に変わる。大方世界を好き勝手にしてきたミゾノグウジンに手を貸すという行為がにわかには信じられないのだろう。

 しかし現実は上手く事が進んでいる。残念ながら、彼の望む団長は死んだのだ。


「今日からは治安団も私の駒と化した。隊長代行の身に置いている貴方には私の指示に従って貰う権限が発生する」


「はっ! くそったれが! 誰が世界を裏で手引きして好き放題に荒らしてくれた奴の協力なんざしなきゃいけないんだ!」


 両者五分五分の戦いを強いられている状況下で何ヵ所も傷を受けていたザットは上から観察してくる神宮に刃を向けた。

 あくまでも彼はこの結果に納得してないらしい。であるなら、こちらが下す判断は。


「でも協力を受諾したのは上司である彼なのよ? それでも納得出来ないのかしら?」


「お前に従うなど吐き気しかねえよ」


「世界の主を殺そうとするショウタを食い止めないと、最悪貴方も死ぬのに?」


「俺には失う物はない。だからこそ、この世界に蔓延ろうとする大きな闇は打ち砕かなきゃならねえ」


 大人しく指示に従えば、この先楽に生きていける筈なのに。ザット・ディスパイヤーはあくまでも道を外すつもりなのか?


 自分の世界を捨てて敵対しようとする道に進むザットを哀れに思いながらも、同時に不要だと考える事にした。

 私の思い通りになろうとしない人間はもはや大きな素材ゴミでしかない。


「残念。折角のチャンスを与えたのに……貴方はそれを台無しにしてしまうのね」


「そりゃあ、残念だったな。お前の思い通りにならなくて」


「ははっ! なら、こいつを仕留めても問題にならねえんだよな? ノゾミ?」


 白い剣を思う存分に発揮し、長丁場でさえもまだ疲れを見せようとはしないショウ。

 この男のタフさはどこまでもいけば気が済むのか。正直、こうも戦意が落ちていない所を見るにまだまだ戦えると言えるのだろうが……仮にザット自信が立ち上がれたとしても、この場に置いて戦闘する意義は果てしなく感じられない。

 よもや治安団は彼女達に吸収されてしまったのだから。


「まあ殺ってくれても構わないけど……最終的な判断は彼に委ねるとしましょう」


「ああん?」


 白ドレスとは正反対の黒ドレスに身をこなす神宮。その背後に近付く一人の男はザットをやりきれない表情で見下ろす。


「失望しちゃったか?」


「脅されたんですか?」


 ミゾノグウジンと手を組んだのは本意ではない筈。イクモの表情から見るとそうとしか考えられなくなった。


「部下の命を守るか、それとも個人の正義で世界を犠牲にするか……さすがに団長の立場を考えちまうと俺は皆を守らなくちゃならねえ」


 妥当な判断だと言えよう……治安団を守る上なら。だが、ザット自身は絶対に納得しない。

 その判断では世界を守れても、最終的には裏で全てを仕組んできた彼女の思うがままに世界を操られてしまう。

 ザットは個人の意思を尊重する事に決めた。例え、その自己勝手な判断が反感を買われたとしても。


「イクモ団長。それでも俺は納得出来ません」


「あらあら……」


「納得出来ないか。なら、お前はどうするつもりだ? このままだと残念ながら俺は隊長代行であるお前の口を塞がなきゃならねえ」


 ミゾノグウジンを倒すならイクモはザットを敵としてみなす。拾われた身でありながら逆らうと言うのは応える物である。だが、これまでミゾノグウジンに利用された事を考えるだけで怒りが湧いてくる。

 そこにショウタ・カンナヅキが関連している尚更。


「……すいません。俺はあんたに拾われ、そしてライアン隊長に育てられたにも関わらず。ミゾノグウジンだけは許せねえ思いが一杯なんです」


「そうか、その判断に後悔はないんだな?」


「はい。俺ザット・ディスパイヤーは隊長代行の身分を放棄し、今日限りで治安団を除隊します」

 

 瞳に一切の曇りは見られない。自分の判断で今まで部隊の力になってくれたザットを見捨てるなど本来はしたくなかった。

 だが……隣の彼女をここで殺せば世界は滅びる。ならばこそ、イクモが下すザットに送る言葉は。


「ご苦労だった!! 本日からお前は自由の身だ。どこへなりとも行くが良い」


「療養中の兄貴にはこの事実……伝えて置いて下さい」


「あはははっ! まさか、その判断で終わりって訳?」


 意にそぐわない者を除名処分した。それで充分じゃないのか、この女は?

 イクモの意思とは裏腹に神宮は満足しない。それどころか2階のフロアから華麗に着地して、ショウに対し命令を下した。


「ザット・ディスパイヤーは敵となった。もう遠慮なんか不要よ……徹底的に潰して上げなさい、ショウ」


「その英断を心待ちにしていたぜぇぇ!!」


 闘志を沸き立たせるショウ。自由の身に成り果てたザットが起こすべき行動はあの女の企みを潰す。


 しかし、この劣勢では退くことが最善。剣を構え、振り払ってきそうなショウとは反対にザットは逃走する事にした。

 

「や、野郎! 待てや!!」


「どこまでも逃げれると思っているのかしら? イクモ団長、本日を持って……ザットを指名手配として捜索を徹底的にしなさい」


「なっ!? おいおい、それは冗談だろ!?」


「何か問題でも?」


 この女の言いなりになるなど御免だ。だが、その後のしっぺ返しを考えると。

 イクモは歯を噛み締めつつ苦渋の判断を下す。これにて神宮の一部の思惑は成功。

 後は翔大をどこに逃げても追い詰める策を決行するだけ。


「世界中を駒にしてでも、貴方を追いかけ回してあげる……だから待っててね、翔大」

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