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エピソード8:やる事は見つかったよ

「答えはイエスかな。僕が……出来る事は最前線でやる。ただ、君の期待には答えられないかもしれない。それでも良いの?」


「貴方は普段通りに振る舞えば良い。私も同様に振る舞うから」


 僕にはやる事が無い。現実世界からこの世界に戻った今、素直にマリーの言う通りにしよう。

 どうせ、一人でいてもどうするべきか分からない。だったら、マリーと一緒にこの世界を歩いた方が効率的に良い。

 上手くいけば世界を知れる切っ掛けに繋がるだろう。


「はい、それじゃあ湿っぽいお話はおしまい! これから宿を探しましょう!!」


「あれ? まだ探してなかったの?」


「うん。今までお金が無かったから野原で野宿していたけど、せっかくたんまりと報酬金を貰った以上ゆっくりと寝たい。だから!」

 

 うわぁ。それじゃあ、僕がこの世界に来るまで何日か野宿していたのか。

 よくそれで……襲われなかったんだね。僕の世界じゃあ物騒な人が多すぎておちおち寝ていられないよ。

 こんな美少女が寝顔を見せていたら野郎共があれやこれや……うん、薄い本が完成しそうだ。

 

「泊まります! 贅沢かつ豪華な宿に!」


 もう辺り真っ暗で人気もなさそうだけど宿は空いているのかな?

 見た所、この街に宿はそこまであるようには見えないけど。


「真夜中に差し掛かっているけど宿はまず空いているのかな?」


「それはやってみないと分からない。善は急げよ! はい、ほら付いてくる!」


「ちょっと、引っ張らないでくれ!」


 通行人も僅かな程暗闇に染まりきった夜の街。現代のような明かりはなく、魔法の力で照らされている明かりが代わりの灯火になっている。

 こうして見ていれば、色々と現代と異世界は違う。明かりは勿論の事建っている家や通行人の服装並びに景観。

 全てが新鮮な気持ちでいられる。僕の心の中に眠るワクワクは止まらない。

 異世界の小説を妄想しながら描き込んだ文章が視界に写る。ずっと小説の中で終わると思い込んでいた物が目の前に沢山溢れている。

 

 これが興奮しないでいられるのか?

 

 異世界に憧れが強い著者ならこの気持ち分かってくれる筈……おっと! いつの間にか話が反れてしまった。

 それにしても中々宿が見つからない。僕とマリーはここまでで何件か宿に当たっているけど、どの宿も一部屋しか空いていないらしい……いやはや、実にやばい。

 このまま見つからなかった場合どうなるんだ? まさか最悪僕達二人で野宿? 

 うん、それはまずい。主に僕の心が落ち着かない。


「最後はここね。もう空いていなかったら……」


「野宿か。なるべく君が安心して眠れるように周囲を見張っているよ」


 一緒に寝るなんて絶対無理だ。仮に万が一そうなった所で僕の心臓が昂りまくっておちおち寝ていられないだろう。

 それが目に見えて取れてしまう自分がなんと恐ろしい。あっ、戻ってきた。


 あの浮かばれない様子だと恐らく無理だったのかな。


 どうしてこんなにも宿が空いていないんだ!? これはあれか。神による数奇なイタズラか? イタズラにしては度が過ぎていると思いますよ! この世界の神がどなたかは全く知りませんが。


「行こっか。ここに」


「うん、分かったよって…………えぇぇぇぇ! あ、空いていたの!?」


「ま、まあね。運良く空き部屋があって助かったよ」


 助かった。今日はこれで安心して寝れそうだね。主人の話によると時間帯が時間帯でお風呂には入れないらしいけど部屋なら一つ空いていたみたい。

 いやー、本当に助かった。ご主人、グジョッブ!…………じゃない!!


「ごめんね。お部屋が一つだけど我慢して」


「我慢は君の方だよ。僕、これでも一応男だけど大丈夫なの?」


 この1LDKよりかはちょっと狭いけど、ツインベットがある部屋でまだ知り合って間もない男女が二人一緒に寝るのはどう考えても気まずい。

 ここは男である僕が床で寝て、れっきとした女の子であるマリーがベットへ。

 うん、自分ながら良い案を思い付いたもんだ。


「大丈夫。お風呂の方は翌朝に持ち込んで、今日は早く寝ましょう。ショウタは床側で私は窓側に寝るから宜しく」

 

 いやぁ、あの……話を聞いて、くれません。マリーが床側で寝ろと言う以上素直に従った方が良いのだろうか。

 女の子が寝ようとしているベットで男の僕が入るのは何かはばかられる。


「早くしなさい」


「本当に良いの? 僕、男だよ?」


「ショウタなら逆に安心よ。絶対に襲われるリスクは限りなく低いのだから」


「あぁ、そうですか。何か納得出来ました」


 肝心な場面でヘタレるから妥当と言えば妥当かな。


「信頼するよ。蒼剣の騎士様」


「騎士なんて呼ばれる資格はない。僕はただ臆病者で、あっちの方で大切な人を守れなかった役立たずだ」


「ショウタは卑屈過ぎるのよ、もっと楽に生きなさい。それでも無理なら私も一緒に手伝う。名付けて矯正よ」


「矯正って」


「ふふっ、貴方を見ていると苛めたくなっちゃう。なんだか乙女心が燃えちゃうわ」


 普段なら何もせずにすやすやと寝ているが、今の状況では睡眠すら難しい。

 だって、隣で寝ている子は僕と恐らくは同じ年齢であろう女の子。

 これで素直に寝ていられるとでも!? 実際ギャルゲーだったら、こんな甘いシチュエーションはあり得たかもしれないが、実際にやられたら心臓がバクバクして中々落ち着かない。


 落ち着け、落ち着け。良いか? 今隣で寝ている子は何でも無いただの置物。

 そうやって認識すれば自ずとーー


「※■●◎△○?!!?」


 背中に柔らかい何かが、何かがクッションとなって!?

当たっていますよ、いやいや当たっている!!


「すー、すー」


 僕を抱き枕にしているマリーは安らかな顔で眠っている。一方の僕はマリーの……その豊かな胸に当たっているお陰か馬鹿みたい焦っている。

 彰が見ていたら、これなんてエロゲー? と言われても全く問題ない状況。

 静まれ……静まるんだ、僕のうるさい鼓動よ。この正念場を乗りきらなければ明日はない。

 

「駄目だ、もう無理かもしれない」


 羊数えようか。羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……はぁ、なんか飽きてきた。


「綺麗な寝顔だ」


 寝ている顔は見ていて微笑ましいというかずっと見ていられる。

 なんと言うか彼女は神宮希の面影が重なっている。だからか僕は不思議と魅了されていた。

 出会いは喩え偶然だったとしても。


 寝付けない夜に僕はずっと目が冴えていた。幾ばくか時が流れているのかは分からない。

 もし、ここで目を閉じたらあっちの世界に帰れるのだろうか? 

 

 いや帰ったとしてもどうする? 

 

 今僕に出来そうな事は小説によくあるファンタジーな世界を深く知る事だ。

 ただ、終わりが見えそうにない。どうやったらこの世界から完全に帰れる?

 仮にこの旅が終われば……こっちの世界はどうなるんだ?

 

「おーい、起きなさい」


「あっ」


「ずっと起きていたの? 目に熊があるみたいだけど?」


 誰のせいだと思っているんだ。こっちは抱き枕にされたお陰で柔ら……ゲフンゲフン、迷惑していたんだぞ。


「ごめんなさいね。私がこっちで寝なさいと言ったばかりに」


「い、いや気にする事はないよ」


 そんな悪気があるような瞳で見つめないでくれ。凄く罪悪感が湧く。


「小さい頃から一人で寝るのが苦手なのよ。だからショウタが一緒に居てくれて良かった」


「そうなんだ」


 へぇ、一人で寝れないんだ。てっきり野宿していると聞いていたからばっちり寝ているのかと……いや、モンスターが出歩いてるこのご時世にゆっくり睡眠している暇はないか。


「じゃあ、先にお風呂に入ってから旅の支度をするね。お風呂は男女別々だからショウタも早く入りなさいよ」


 結局睡眠すら取れず朝を迎えてしまった。こうなったら切り替えが大事だ。


「風呂に入ろう」


 男性が何人か入れそうな銭湯で無駄に汗ばんだ身体を綺麗にしてからカッターシャツに青のコートを上に羽織って、ボクサーパンツと最後に動きやすいズボンを装着。

 あっちの世界で来ていた制服の一部であった学ランとズボンはこっちの世界に引き継がれていないんだな。

 どういう原理でそうなっているのかは知らないけど。これはこれで要検証か。

 

「もう。さっきからぼうっとし過ぎだよ!」


 うん、そうかもしれないーーふぐっ!? いきなりお皿の上に乗っている乾パンを口に突っ込むのは止めてください!! 

 窒息して死んでしまいます!!


「うぐっ! げほげほ!! 割と本気で洒落にならないから食べ物を口にぶつけるのは止めて下さい。下手したらあの世に逝きます」


「あっ、ごめんなさい。まさか、そんなに苦しそうになるなんて思わなかったよ」


 駄目だな、僕は。こんな暗い表情を浮かべていたらマリーに迷惑を掛けるじゃないか。

 現に今も心配されている。

 

「いや、僕の方こそ悪かった」


「謝る事は無いのに……」


 今日からこの街を抜けて、マリーの目指すべく場所に同行者として付いていく。

 ただし、具体的なプランは本人から一切聞かされていない。外に出れば神出鬼没のモンスターがいつ現れるか分からない状況こそ大まかな具体案を聞くべきだ。


「それで話はずれるけど、マリーはこれからどうするつもりなの? 昨日依頼屋の店主の話を聞いたら、君はオウジャに目指すと言っていたけど」


「あら、店主から話を聞いて……あっ、そうか。中々ショウタが来なかったのはそう言う理由ね」


 朝食を平らげたマリーはどこか遠い目で明後日の方向を見ながらも重い口を開けた。

 きっと、並々ならぬ訳があってオウジャに侵入にするんだろう。

 やけに固い表情をしている所が説得力を増しているのがまさにそれ。


「オウジャという国はオウジャ・デッキが王と君臨した完全独裁国家。彼の欲しいと思う物は如何なる障害であろうとも力で奪い去る。地位や名誉や財産そして女を……私はスクラッシュ王国アン王女に仕える魔法使い。ある日突然、奴隷の材料として拉致した罪も無き女性を奪還する為に遥々やって来た者よ」


「今回その国に足を運ぶ理由は女性を奪還する事にあると?」


「そうなるね。だけど、女性を救出する為に国が総動員させれば戦争の火種になりかねない。だから私はアン王女の反対意見を押し退けて、オウジャに侵入する手口を嗅ぎ回った。結果的にその材料は入手したけど、肝心の戦力は心許ない」


 僕に対して騎士になってくれと言ったのはそういった想いが募っていたからか。

 何か便利な当て馬にされている気がしないでもないけど、ここまで一緒に行動を共にしている以上無下には出来ない。

 

「絶対に助け出そう、僕とマリーの二人で」


「うん! 頼りにしてるから!!」

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