エピソード84:それが貴方の解答なら……失望しかないね
端的に言って、僕は異世界と神宮希に接点があると睨んでいる。確実な証拠はこれと言ってないが、神宮神社の祠に奉っている蒼天神村雲と君があっちの世界で扱う蒼剣? とやらが神宮希がモデルとして扱うと同時に、異世界に転用させたのであれば確実に黒に近い。それと、異世界で体験した出来事とやらがややストーリー染みていて君が提示してくれた異世界小説とどことなく雰囲気が似ているのも妙に引っ掛かる……
櫻井の推定は確実に証明される。あの小説に関しても仲良くしている明にもましてや家族にも恥ずかしいから見せていない。
この小説の構造の半分は希の助力があってこそなんだ。だから、希が死ぬ直前までは結構な範囲で文体を弄くり直していた。
あの悲劇を招いた事件さえなければ、僕の自宅に招いて傑作となり得る作品を見せてギャフンとしてやろうとしたのに。
しかし、2週間前。ミゾノグウジン教の決戦で僕は確かな証拠を掴んだ。
これで……ようやく謎が切り開かれる。はぐらかされるかもしれないが、退いてはならない。
「はぁ~、やっと来れた」
「かれこれ長い間、言い続けていたのに来れなかったらね。ようやく世界が落ち着いてくれて一安心だ」
「そうね……これからも、なるべくなら平和に保って欲しいよ」
彼女の言葉は正か嘘か。問わなければ、問い詰める事もままならない。
花に包まれ、透き通る程の湖が見える雪景色で僕はいよいよ告白する。
さぁ、覚悟してもらうぞ……僕を引いては世界を歪ませている元凶よ!
「マリー、実は今日ここに行こうと約束を取り付けたのはーー」
「何か話があるから?」
初めから見透かされていたか。さすがは僕をいつも見ているだけはあるね。
「なら、話が早い」
「もしかして……告白? えぇ、それはちょっとまだ心の準備が」
そうそう。今日は君に思い切って愛の告白をって!! 話を逸らさせないでくれ!!
「ふふっ、冗談冗談。それよりも本題に入って」
マリーらしからぬ態度だ。いつもなら素直な感じで静かに佇まっていたのに。
ここに来て、いよいよタカが外れたのか?
「僕神無月翔大がこの世界に初めて来たのが大体一ヶ月前。そこで君に会ったのが事の始まりだった。それからマリーと一緒に知らぬ世界の中で様々な冒険に繰り出した。武器の振り方さえも全く分からない僕が道中で初めての大型モンスターに会って焦ったり」
「うん、あの時はショウタも苦労していたよね。けれど……空から凄い武器が降ってきて、ズバッとあっさり倒したのは衝撃的だったなあ」
この時。僕は二つの武器をそれぞれ入手した。一つは先を読み取る先読みの瞳。
これは使う度に激痛が走るので、現在は極力使わないようにしているけど……もしかしたら、この力は強すぎる力であると外部から意図的に制限されている可能性も有り得る。
最後の二つは現在もこれから先も愛用していく蒼剣。当初は限りなくか細い形状で、力を入れてしまえば折れてしまうのではないかと内心心配していたけど実力は僕には勿体ないくらいに威力はトップクラス。
いとも簡単に敵を退け、途中途中剣でも限界があったけどミゾノグウジン教との一件で剣その物が著しく進化した。
形状は頼りなるくらいに大きく、そして遠距離にも大勢相手にも対応可能という剣にしてオールマイティーな性能を叩きつけてくれた。
「そして道行く先で自分の存在を探しているアビスを始め、世界を己の物とする為に動くオウジャとの戦闘。その後にまた蠢くミゾノグウジン宗教による影……」
「今日は振り返り? 妙にショウタらしくないね」
変に心配されているけど、無視してこのまま進める。ここでうやむやにされたら全てが無駄に終わってしまう。
だから決定的な推論を叩きつける。それで異世界の全てをコントロールしてきた首謀者の反応を見ようじゃないか。
「これらは僕がこの世界に訪れる前に小説のネタとして書き込んでいた物。流れが若干違っていて、かつ名前が違うんだけど大まかなストーリーとしてみるとよく似ていたんだ」
「ん? さっきから何を言っているのか分からないよ? ショウセツって何? ジショとかなら知っているけど」
そうか、あくまでも嘘を貫くつもりか。ならば……嘘を付けないよう、決定打となる証拠を提示しようじゃないか。
『うーむ、何なのだねこの武器は?』
『君。この武器はどういう構造をしているんだ!? 是非一度私に預けてくれ!』
『見た事がねえな。それは一体どうやって使う物なんだ?』
「へ、へぇ」
口は平坦。だけど、目を反らしたのは失敗だったね。態度は必然的に誤魔化せないらしい。
「これはスマホと言ってね。写真も取れたり現在の時刻もすぐさま分かったり、録音なんて出来たりと何でも叶えてくる道具なんだ」
「凄い……それ、こっちで解析したら世界が覆る位の魔法の道具になるかも!」
「もう君は既に持っているじゃないか」
「えっ、ちょっと今日は本当にどうしちゃったの? 疲れているなら、私の膝で休む?」
「マリーの膝で休め……ごほん、それはありがたいけど辞退するよ」
話を逸らすのは止めてくれ。心の中で自分の想いを封じ込めつつ、彼女にとって誤魔化しきれない証拠を提示する。
スマホの録音アプリの中に保存しておいた2週間前の声。要らない部分はすっ飛ばして重要な部分だけ再生した。
すると……彼女の表情はみるみると青ざめていく。僕と会った時よりも遥かに顔色が悪くなっている。
『け、拳銃!?』
「ねえ。マリーはなんで……この武器の名前を知っているんだい?」
「うっ! それは」
「正確に言えばリボルバーの部類に入るんだけどね。とはいえ拳銃という名称を知る物はこの世界で誰も居なかったんだ」
何か考えているのか、マリーは考えを張り巡らせているようだ。
けど、その時間は一切与えない。ここは容赦なく叩きのめす!
「それと……アルカディアを倒した直後いやもっと前から分かっていたけど、創造神ミゾノグウジンは名前からして胡散臭いと思っていた」
「ミゾノグウジンが? それを言うならカンナヅキ・ショウタの方がよっぽど変だと思うのは私だけ?」
ああ言えばこう言ってくれるじゃないか。悪いけど、君の突っ込みには引っ掛からないよ。
「神の名前を紙に書いて、色々と引っくり返してみれば……本当に信じられないと思った。けれど、僕の元居た世界ではそうなってもおかしくはないと思えるのが驚きでもある。常人なら、まずアホ臭いという言葉で考えを破棄してしまうからね」
さて、これだけの推理を披露したんだ。まだまだ、解けていない謎も残されているかもしれないけど……包み隠さず白状して貰おうじゃないか。
幼い頃から、君の持つ魅力に惹かれ最後の最後に永遠の別れを告げた想い人よ。
「創造神ミゾノグウジンなんてヘンテコな名前を世界にばらまき、裏で傲慢王とアルカディアを招き世界を上手くコントロールしてきたんだろう? ……神宮希!!」
ミゾノグウジンを言い換えてしまえば、ジングウノゾミ。それだけで犯人が君だという確かな根拠はなかった。
ただ、まあこれまでの暗躍を見る限りではもう君だとしか思えない。
あの都合よく進むストーリーは君がなぞってくれたのだとしたら胸糞悪いよ。
こんな状況じゃなければ再会出来た事に心から感謝していたのに。
「ふふふ、あははっ。あははははっ! あーあ、あの時余計な言葉を吐いたのはとんだ失態ね。あと、もうちょっとで最終幕の舞台が開けそうだったのに……ここにきてバレちゃったか!!」
高笑いが響く。あのにこやかにしているマリーに闇が現れた瞬間でもあった。
もっとも、会う前から彼女神宮希はマリー・トワイライトとして僕に接してきた。
始めから神宮希に面影があったのにも関わらず、そこで追及しようとしなかったのは僕のミスだ。
そのお陰で多くの人達が命を散らしてしまったんだ。ある意味僕が頼んでもいない願いを叶える為だけに、彼女は独走したんだ。
「そうよ、翔大。私は神宮希としてありながら、あらゆる存在をコントロールする創造の神! ここまで全てのお膳立てをしたのは貴方をただただ満足させる為なのよ!」
「そんな事をしてくれと言った覚えはないんだけど?」
「あら? でも翔大は結構イキイキしていたように見えたけどなあ。この異世界で武器を思う存分振り回していた時とか現実よりも楽しんでいたけど……それは嘘だったの?」
希の言い分に対して言い返せないのが何とももどかしい限りだ。
悔しいが、異世界という未知なる存在に僕は楽しんでしまっている。
それが彼女の一番の狙いだったとしたら、まんまと掌で踊らされていたという事になるのか。
「黙秘は肯定として受け取りましょう」
「希……君にはもう一つ質問がある」
「良いよ、犯人を突き止めた貴方には何でも答えちゃう♪」
「最後の最後に僕が切りつけたとは思えない切り傷で死んだオウジャそして突然会場を襲撃して誰一人来ない場所に連れ込んで暗殺されたアン王女。この二人を殺したのはーー」
「あー、それ私よ。ストーリーを上手く噛み合わせたいのに、まだ死のうとしないオウジャについては最後の慈悲として私が刺した。アン王女に対してはサブヒロインの位置付けで置いていたのに、好き勝手な事ばかりしてくれるから神である私が鉄槌を下したの。まぁ、そのあと翔大がやるせない表情を見てしまった時は少し罪悪感に浸ったのだけど」
異世界で起きた事件は全て君が仕出かしたのか!! くそっ、ふざけるなよ!!
「あはっ、さすがに怒っちゃったか。その表情も堪らないね!」
「色々と言いたい事は山ほどあるけど……」
真・蒼剣よ。この世界を歪ませている元凶たる彼女を止める力を僕に授けてくれ!!
「ヒロインの私を殺そうって魂胆? まぁ、今までヒロインの癖に地味に薄く活躍していたからヒロインなんて実際居ないような物だけど……と言うか翔大には私以外の女に近付いて欲しくないし」
「今度は何を仕出かすつもりだ?」
「それを言うとネタバレになるんだけど……別に良いか、バラしても」
マリーの名を被った神宮希は何も空間から小さな赤い魔法陣を傍に展開して、とてつもなく異様な大剣を取り出した。
見た目は非常にグロテスク。基調を黒としながらも持ち手の少し上の方にある何らかの眼球が更に気持ち悪さを引き立たせる。
おまけにあの白いドレスからあんな気味悪い武器を見せつけてくれるのは何とも場に削ぐわっていないと言えよう。
「つまらない現実世界を潰して、これからは神である私が作った異世界にすり替える。ここも……そう長くは持たないから。悪くは思わないでよ」
長くは持たない? 希が作った異世界にはタイムリミットが存在するのか?
「私が交通事故で死んで、現実世界に生きている人間の一部の魂も持ってきて作り上げた世界だから……まだまだ欠陥もあるの。幾ら神とはいえ、どうしようもならない事なんて多々あるし」
「君の身勝手な行動で僕達の世界では二人が死去している。いくら、幼馴染みとはいえこれ以上の勝手は許されない!」
「えっ……まさか、私のせいで死んだの? だとしたら、あらら。意外な所で思わぬミスが判明したかあ」
現実世界で死んだ人達は意図的に殺っていないのか? 彼女の発言からしてそう思うしかないか。
「私が直接干渉すれば、現実にも被害が及ぶ。あははっ、私って現実世界にも干渉出来ちゃうのね!」
「希! この世界を取り壊せ! さもなくばーー」
背中に殺気が走る。その一瞬で僕は剣を振り払おうとしたが相手の方が一枚上手だったようだ。
「主を殺ろうってか? 悪いが、お前の悪巧みには賛同出来ねえなあ」
顔面を大きく強打され、透き通る程の湖に一気に浸かり込まされる。
とんでもない痛みだ。しかし、歯を食い縛りながらも湖から顔を出して地上に這い上がる。
上着共々びしょびしょになってしまった。まさか、伏兵が居たなんて……頭に血が昇り過ぎていたせいで反応が鈍ったか。
「何者だ?」
「敵に名前を告げるとでも思ってんのか、この野郎は?」
「まあまあ。殺意を剥き出しにするのはそれくらいにしなさい、バルフレード」
赤毛の大男バルフレード。屈強な身体を持ちつつ、いかにも格闘家が好みそうな服装でありながらも得物は一殴りで吹き飛ばす程の強力な腕。
人間とは遠く離れた真っ赤な化け物級の腕がより一層恐ろしさを掻き立てられる。
「その通りにございます。貴方は少し口が過ぎるのです」
「お前は男の癖に女々しいんだよ! ガンマ!」
「はいはい、それは忠告として受け取っておきましょうか」
地味な色をしたローブ。どこからともなく地上から突如出現してきた緑髪の男性。
丸形の眼鏡を縦に少しずらしてから、いかにも分厚そうな本を片手だけでペラペラと読んでいる。
「さてと。ここからの内容ですが、どうにも貴方は主の意向に対して逆らい結果的に私共に殺されるようです」
「折角だから俺のご自慢の腕の中で死んでいけや。無論お前がそう望むんなら楽に潰してやれるぜ」
冗談じゃない! こんな奴等と相手にするよりも止めなきゃいけない相手がすぐそこに居るというのに!
「貴方の答え合わせ、楽しかった。けど、それもこれもこの関係は終了。ネタバレをある程度晒した上で尚且つ私の望みを止めようとする翔大はここでさよなら……折角だから武器をお披露目しようと思ったけど、時間もないから帰るね♪」
……っ! 走り込めば、すぐにでも間に合う距離に居るのに!!
新たな刺客が僕の道を阻むのか! だったら……
「おっ、やる気になったか」
「お前達を倒して、希を止める! 何もかもが手遅れになる前に!」