エピソード78:こっちの方もトラブってるぅ~
「あぁ、最悪だ。まさか……本来実行しようとした計画がご破算になるなんて」
白いローブはなくなり、アルカディアとは別の何かとなる。なんとも神々しい服装をしており背中には金色の輪っかのような物が常に回転。
服装が全体的に豪華だけだったら良かったのに残念ながら以前のアルカディアとは何倍も膨れ上がった性能で僕達を苦しめてくるではないか。
最終的には勝利を掴んだ僕は生まれ変わったアルカディアに良いように弄ばれ、ザットは力業で勝負を仕掛けるがあっさり敗退。
僕に激励を飛ばしていたマリーは顔色がとても悪い……そうか、あの魔力は彼女の分も含めての物だったか。
くっ、さっきまでの流れが嘘みたいだ。このままだと、僕達は確実にやられる。
倒せたと思っていたのに。僅かな油断が致命傷を生んでしまったのか。
「安心しろ。無理に抵抗しなければ、サクッと殺してやる。創造神ミゾノグウジンは君達の名誉ある死を歓迎するだろう」
「はっ、アホらしいな。てめえに殺されるなんざごめん被……ぐぅ!」
「口の聞き方には気を付けた方が良い。今の君は神に近い私に対して無粋な態度を取っている。これ以上私の機嫌を損ねさせるのであれば……その時は警告なしに殺す」
掌の上で転がされていると言う屈辱。僕達三人が向かったら、ものの数分で片付けられた戦闘。
地上にかき集められた女性の魔力そしてマリーの魔力を食らい付くすだけでもこんな未知の力を入手してしまうなんて。
アルカディアはやはりとんでもない人物だ。その目的といい、手段といい本当に抜け目のない奴だと思う。
「しかし、こうも瞬殺だとつまらなく感じるなあ。私としてはもっとこう楽しみたかったが……余りにも超人の力を手に入れてしまうと力をもて余すらしい」
状況は刻一刻と悪化した。けれど、これで諦めるつもりはない!
ボロボロに受けた傷を引きづりながらも立つ。痛みが酷いけど我慢だ我慢。
「よっと、お互いピンチだな……」
「そうだね。これじゃあ、アルカディアに負けるのは時間の問題かもね」
「はっ、そんなの認めねえぞ。皆のお陰で這い上がった道を無駄に出来るかよ」
身体が少しでも動くなら、僕は進む。今や化け物を超えた存在となりしアルカディアに。
不敵に笑う表情の裏で僕らを下から見下ろすというおぞましい視線。
だからと言って僕は退かない。寧ろ掛かってくるなら掛かってこい。
現実世界と異世界を行き来する訳あり勇者がお相手だ!
「くくっ。それでもなお這い上がるか」
「あぁ、僕もザットも貴方の脅威に対して歯向かわさせて貰う!」
「こいつとは同意見だ。俺もてめえの脅威なんかには怯えねえ!」
蒼色の剣と灰色の剣を交差しつつ、僕らを黙らそうとする無数の球体を振り払う。
殆どの球体は床に落ちて消失するにも関わらず、アルカディアの表情には余裕が表立っているのが気になって仕方がなかった。
「失笑物だねえ。神に近しき私に対して、まだ抗おうとする挑君達が圧倒的な力で潰そうとしているにも関わらず抵抗を図る図が……それが、なんとも笑えてしまう」
馬鹿にされても! 僕はそこに居る! そして、もうすぐ間合いが取れる距離にある!!
「俺を使え!」
「ありがとう! 遠慮なく!」
ザットの頭を足代わりにして一気に間合いを捉えてやった。当の本人はこの予想だにしない行動に驚いている様子。
さぁ、貴方の間合いはバッチリ取ってみせたぞ。この技で一気にねじ伏せる!
「真・蒼天龍!!」
一本の剣から蒼の輝き。それはアルカディアの全身を確かに切り裂いた……切り裂いたのに! 真っ二つに切り裂き、振り向いた瞬間とんでもない現象が僕の視界に写す。
「あれえ。結構気合い入れていたようだけど、全然痛くなかったねえ」
本来真っ二つにならなければならない身体は元のまま。とんでもない現象を味わってしまったようだ。
一体どういう原理があって、アルカディアは傷一つ付いてないのか? 駄目だ……心の中で落ち着けと言い聞かせているのに、状況の整理が付いていけてなくて焦っているじゃないか!!
「お前は確かにショウタに切られた。なのに、なんでそうも五体満足でいられるってんだ!?」
「神に等しき聖なる身体となった私に傷一つつける事は断じて出来ない。そうミゾノグウジン教たる宗主はあらゆる森羅万象をも退けるのさ!」
どんな攻撃も無効にされるのか。こうなると、どうしようもないじゃないか!
もう、このまま僕らは殲滅されるのか? 神に等しく膨大な力を受け継いだとされるアルカディアに。
「君達の死はミゾノグウジンによって安らぎの元へと帰る。残る私は……この汚れた世界を消去し、全ての理想となる世界へと再構築させる。だから、何も悔やむ事なく悩む事なく宗主たる私に希望を託して……死にたまえ」
やばい、良い方法が思い浮かばない。くそっ! 進退ここに際まれりか!
「ちぃ、どうやって倒せば良いんだか!」
「僕の剣も通らなかった。となると恐らく君の剣も」
「通らないってか。だったら剣以外でやれないのか?」
銃形態とかにした所でアルカディアを倒せるとは到底思えない。
さっきまで剣で真っ二つにしたというのに何事もなかったかのように振る舞っている。
そんな彼に銃形態をフルパワーでぶつけた所で……
「何とか言えよ」
「駄目だ。やっても、力を消費するだけで無駄に終わる」
諦めたくはなかったんだ。けれど、あんな力を見せられたら僕であろうが誰だって勝ち目がないと分かる筈。
最後の最後にとんでもない結末を迎えてしまった。アルカディアに対して傷を付ける方法が浮かばない以上、もうこの異世界は終了。
ここまで来ておいて……僕は全てを捨ててしまうのか。
「くくくっ! 残念だったねえ! この世界にある魔法・武器それらが全て無力化される私に対してどんな攻撃も皆無。君達はそうやって一生を後悔しながら天に召されたまえ!!」
足に力が入らない。ずっと気を張りすぎていたせいかそれとも己が無力だと気づいたのだろうか?
アルカディアは両手から球体を作り上げようとしている。あれを投げ付けられたら僕らは終わるのか?
隣に居るザットが倒れ込んでいる僕に対し、何か呼び掛けているようだがよく聞こえない。
「ぐっ!」
音が拾えない。視界も安定していない。自分がどうなっているのかも定かになっていない。
ぐらつく視界は時を隔てるとシャットダウン。ぶつりと閉められた視界がまとわりつく。
「ここは」
何度も体験している感覚だ。僕はその現象を何回も何回も繰り返している。
次に視界を開ければ見える光景は現実世界と異世界を行き来する現象もとい現実世界で起きた不可解な事件を調査する為、協力を惜しもうとしない櫻井渡が経営する事務所だ。
「……な、なんだここは!?」
あれ? 視界を開けたら、見覚えのない場所に移っているんですけど。
よく辺りを調べたら白だらけのベットに……これは心電図? みたいな何かを計っているかのような機械。
それに極めつけはこの口に当てられた酸素マスク。
はっきり言って邪魔くさい。ない方がすっきりするから外そう……多分外すべきではないと思うけど。
《異世界》→→→→→《現実世界》
「現実世界の僕に何があった?」
通常異世界に行って、再び現実世界に帰還する場合は一日も満たずに帰ってくるのが通例の筈。
なのに、今回からベットの上。しかも病室というと異世界と現実世界を行き来する力は予想を超えたリスクを請け負ってしまっているという。
じゃあ、肝心の日付だ。こうやって無事に起きた今何時かがどうしても知りたい。
「スマホ……あ、そうか」
どこかに移されたのか? 弱ったな……えっ!?
「手に力が入らない!?」
一体どうして? 幾らなんでも寝ただけで筋力が衰退し過ぎている……これは完全に異常事態だ。
「し、翔大!!」
「ん?」
抜けきった筋力。いつまで僕はここで寝ていたのか? 段々と焦りが募ってきた時に不意に扉を開けるのは普段からやたらと四六時中元気が良い父であった。
しかし、今日という日はかなり反応が違うようで。僕の父さんは今にも大号泣しそうな顔を浮かべ……あぁ、滅茶苦茶鳴き始めちゃったよ。
「いや~、本当に良かった!! お前がいつ起きるのかと思うと俺は寝ても立ってもいられなくて、ずっと心配していたんがらな! 翔大はもうこのまま目覚めないんじゃないかと」
大袈裟だなあ……なんて面白おかしく言える雰囲気ではない。明らかに父は本気で泣いている。
それを馬鹿にするような真似は到底出来ない……が、疑問はある。
僕は一体いつまでベットに寝込んでいたのか? そして現在の段階で何月何日になったのかと言う事を。
「心配させてごめん。ところで今は何月何日の何時か分かる? 手持ちのスマホがなくて困っているんだよね」
時間が判明しても、僕が現実世界から異世界に移動した日を忘れてしまっている。
どうにか、父からいつまで寝込んでいたのかを聞き出すしかない。
まぁ……所詮一日程度寝ていただけだろうと思っておきたいけど、拳が全然握れないのが凄く気になるなあ。
「起きたら起きたで、すぐに時間を聞いてくるとはな」
まぁ、普通病人が口にするようなセリフじゃないよね。父さんも半分不思議そうな顔を浮かべているし。
「3月26日の13時22分って所だ」
ベットが窓側にあったので、ついでに空の状況もあわせて確認してみると……天候的にはそれほど快晴でもなく雨は一ミリたりとも降っておらず。
となると曇りが妥当かな。
「ふーん。ちなみに僕が病院に連れて込まれた日は?」
「1週間前。3月19日の今の時間帯よりちょっと上辺りだ」
へー、つまり日にちからまとめると一週間か。ふーーん……えっ!?
「そんなに寝込んでいたの!? ぐっ!」
身体を一つでも僅かに動かしただけで耐えがたい痛みが走る。とてもじゃないけど、立てそうにない。
時の流れは残酷だ。たったの1週間でこんなにも筋力が落ちてしまうなんて。
「おい、病み上がりなんだから身体を動かすな。ちょっと医者を呼んでくるから安静にしていろよ」
いよいよ事態は重くなった。唐突に行き来する異世界と現実世界の移動に無理が祟ってきたのだ。
もう現にこうして家族にも迷惑を掛けてしまっている。
「早い所……異世界の謎を解き明かさないと」
僕の身体が本格的に壊れてしまう前に。